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淡い記憶と白い騎士

プロローグ

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霧が深かった。ミハエルはアサルトライフルを構えて引き金を引いた。



弾にはレンキを籠めていた。



当たれば内側から爆発を起こし致命傷を与えるモノだった。



――当たればの話である。銃口から飛び出した六ミリ弾は狙った相手に当たることなく地に落ちた。



全ての弾が真っ二つに切られていた。



「お前はその程度なのか?違うだろう?貴様の武勇は聞いているぞこの程度で終わるはずがないだろう?さあ早く立ち上がれ俺にその全てをみせ――」



ミハエルはレンキを纏わせたナイフを抜き打ったが刃に止められた。



レンキ同士がぶつかり合うチリチリと鳴っていた。



ミハエルは絶望した。白い鎧が顔を近づけていった。



「残念だ……所詮この程度か……」



 刃が走った。ミハエルは袈裟斬りにされ、倒れた。



「安心しろ……殺しはしない。我が力になってもらう」



 白い騎士はそう言うとミハエルを担ぎ、歩き始めた。



「次は誰だ……」



白き騎士のその独白を聞いた者は居なかった。







「へぇっくしゅん!」



中央ギルド領域四十九番港街の一角にそびえたつ酒場『マックスボビー』のカウンター席で紳士服を纏ったキジヌ=サルモモールは、口を押えて大きなくしゃみをした。



「大丈夫かい」



キジヌの友人であるデイビット=モルデカイが気を使いながら、ポケットからティッシュを取り出し聞いた。



大丈夫だと答えてキジヌは自分のティッシュを取り出して、鼻をかんだ。



「随分準備が良いね。君らしくも無い」



「スリーがこういうのにうるさくてねちゃんと持ち歩く様にしているんだ」



「うるさくて悪かったな」



 キジヌの動きがピタリと止まった。縫い傷まみれの少女、スリーが後ろに立っていた。



「これは誤解だスリー」



「やぁスリー元気だったかい?」



「おかげさまで。デイビットさんも元気かい」



「最近は妙に忙しくてね。疲れが中々取れないんだ」



「もしかして最近流行りのレンキ使い狩りかい?」



「ああそうなんだ。どうにも犯人は白い騎士だという事は分かっているんだがね」



 デイビットは中央ギルド領域内の全域刑事である。



全域刑事とは名の通り中央ギルド領域内全域の猟奇的な犯罪を担当する刑事である。



最近巷を賑わせているレンキ使いを標的とした誘拐事件に携わっていた。



「しかしレンキ使いを狙うなんて妙だな。」



「あぁ力を誇示するならばレンキ使いである必要が無いからね。かといってなんらかに固執しているにしては被害者の能力があまりにも一貫性がないんだよね」



 レンキ使いは宇宙に存在する能力者の八割にも当たる数がいる。



そんなレンキ使いを狙うのは理由としては余りにも薄かった。



なおかつ被害者の能力に共通点が薄かったのである。



「まぁ、キジヌも気を付けてくれよっとまた通信だ」



「またかい?」



「恐らく、とにかく気を付けてくれ。星越者級もやられているからね」



「今日は私が奢ろう」



 キジヌのやさしさに済まないと返しながらデイビットは走って行ってしまった。





「……スリーも何か飲むかい?」



「……オレンジジュース」



デイビットが座っていた椅子に座りスリーは答えた。



「しかしもう二ヶ月も続いてるんだろ。冗談抜きでボスも狙われるんじゃねえか?」



「そうじゃなければよいがね」



 そう言うとキジヌはウィスキーを飲みほした。
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