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番外編

番外編5話 湖遙を怒らせてはいけない side真

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「マジかよ……。湖遙くんつえー。で、それから元カノとは無事に切れた訳?」


 人の一大事を楽しそうに聞くんじゃないよ佐伯。お前の悪い癖だぞ。
 今は丁度お昼時、会社の食堂で社食を食べている。食べながらする様な話ではない気がするが、気にしたら負けだ。佐伯は相変わらず愛妻弁当ならぬ愛彼弁当を美味しそうに食べている。


「いや……今までの様によりを戻そうとは言って来ないんだけど、何故か湖遙くんとの馴れ初めやら色々聞きたがってくる。答える訳ないだろうに」


「ぶははっ!元カノに別の意味で気に入られちまったのか!マジお前らおもろいな。また何かあったら俺に相談しろよ!」


 ……絶対に面白がってるだろう。まあ、それだけじゃなく、本当に気を遣ってくれている事もわかっているけど。


「はぁ。でさ、今回の事で思ったんだよ。僕には湖遙が必要なんだ。もっと湖遙の事を知りたい。でも忙しい事はわかってるし、無理も言いたくない。だから……」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「え、一緒に住む……?」


「そう。そしたら、時間が作りやすいかと思って。もっと湖遙の事を知りたいんだ」


 事後で気怠げな湖遙の頭を腕に乗せて、二人でベッドに横になっている。
 愛子が帰ってから食事もお風呂もすませ、きっちりと施錠してからベッドで朝を迎えていた。


「ここに?」


「いや、引っ越そうと思ってたんだ。色々不便でしょ?だから、湖遙にも一緒に選んでほしいんだ」


「……ふぅん」


 何故か湖遙の機嫌が良くない気がする。一緒には住みたくないんだろうか……。


「だめ……かな?」


「だめと言うか……あのね、真さん。俺まだ怒ってるの。今回はあんな非常識が相手だったからここまで拗れたんだろうけど、そうじゃなかったとしたら、知らないうちに俺に黙って嘘ついて誤魔化して……一人で解決するつもりだったんでしょ。だったら俺なんか必要ないじゃん。一緒にいる必要だって……ないでしょ」


 湖遙は体を起こして顔を背けているが、声が震えている。泣いてるのか……僕が、泣かせてしまった……。


「湖遙……」


 起き上がって顔に手を添え、ゆっくりとこちらへ向けさせると、いつもの生理的な物とは違う、悲しげな表情で涙を流していた。
 初めて見る……いつも笑顔の湖遙からは想像も出来なかった、弱々しい姿。
 僕が守っていかなければならなかったのに……僕が傷つけた。守っていたつもりが、逆に守られてしまった。


「俺ね、このえっちが最後になるのかなって思ってた。さっき言った通り、もう俺は必要ないと思って。でもさ、何でだろうね?ここがすごく痛いんだ……苦し……真さん、愛してるって、こんなにつらいの……?」


 胸に両手を当て、顔を顰める湖遙を思わず抱き寄せた。


「ごめん……ごめんね。湖遙、僕には君が必要だよ。一人で解決しようなんて、バカな事をしたと思ってる。君を騙してまでする事じゃなかったのに……もう嘘はつかないと誓う。こんな僕だけど、一緒にいてくれないか?」


「……何言ってるの」


「え……」


「離れたら苦しいの……一緒にいなきゃヤなの。嘘つかないなんて当たり前。そもそも真さんは嘘なんてつけない正直者なんだから諦めて。俺をこんなにしといて、今更別れるなんてあり得ないんだから、一緒にいろくらい言ってみせてよ。自分だって離れられないくせに、また俺に委ねて……卑怯者」


 気付くと体に湖遙の腕が巻き付いている。
 僕の腕の中でいつの間にか泣き止んだ湖遙は、妖艶な笑みを湛えて……。


「一生一緒にいてくださいでもいいよ?かわいいペットちゃんにしてあげるから。か弱いお姫様はゆーしゃコハルが守ってあげようねぇ」


 ……僕は湖遙には一生敵わないだろうと悟った。


「はぁ……湖遙、そもそも僕はお前を手放したつもりはないよ。勝手に逃げようとするな。一生僕の傍にいろ」


 湖遙を再びベッドに転がし、両手をついて閉じ込めた。


「はぁい……愛してます、旦那様」


 左手を取られ、薬指にガブリと噛みつかれて第二関節辺りに指輪と平行した赤い痕が残される。
 僕はこの痛みと、悪巧みを成功させた小悪魔の様な微笑みを忘れる事はないだろう。湖遙を怒らせてはいけないと、しっかり学んだのであった。





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「ひぇー……湖遙たんつよつよー。え、俺は結局何を聞かされたわけ?主従契約がせいりつした瞬間の話?一緒に住むとかの話じゃなかったのか?」


「後者に決まってるだろ。何だ主従契約って」


「いやぁ、ついにお前も尻に敷かれる日がくるとはね。まあその方がうまくいくだろうて。家庭円満の秘訣は如何に奥様の機嫌を良く保てるかだからな」


 本当にいちいち癪に障るが的を射ている。
 気にしていてはこちらの神経が保たない。


「それでうまくいくなら構わない。しかし新居をどこにするか……」


「僭越ながら俺の考えを一つ。親しき中にも礼儀あり。お互いの部屋は絶対に確保しとけ。鍵がかかるなら尚良し。だから最低二部屋は必要だな。毎日同じベッドで寝ようがそれはお前らの勝手だが、ちゃんと二つ用意しておく事をおすすめする」


「……参考にさせてもらう。それならファミリー向けの部屋で探せばいいか」


 何だかえらく真実味を帯びていて、無碍にできない。何かあったんだろうか。


「そんな事よりさ、一緒に住むなら親御さんの許可は取ったのか?一応成人してるけど、学生だし、お坊ちゃまは色々あるだろうて。それに、将来まで考えてんなら取ってるよな?」


「……」


「お前……マジかよ。前に集まった時に思ったけど、お前あれはないべ。湖遙くんの誕生日も環境も何も知らなかっただろ。もう少し相手に興味持てよ。俺が湖遙くんの親なら今のお前に我が子はやらん。絶対に」


 ……御尤も。言い訳のしようもない程の正論パンチ。
 別れ話をされ過ぎて、いつの間にか相手を知る事よりも囲い込む癖がついてしまったらしい。
 相手の事を知りたいから一緒に住むのではなく、知ってからより仲を深める為に住むのが一般的だろう。しかも相手はまだ学生。親御さんも絡んできて当然だ。


「……デート、してきます……」


「おう、頑張れよ。何か可哀想になってきたわ。恋愛初心者かよ」


 部屋を探す前に、まずはすっとばしてしまった恋人としての時間を作るべきだった……。
 本当にムカつく言い方なのに的を射てて言い返せない。
 そうだ、これなら……今に見てろよ佐伯……。





********************


 これにて湖遙怒る編終了なので、一旦休載します。
 ではまた、再開した時はよろしくお願いします。


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