ゆるふわコハルと不憫なマコト

番外編

番外編2話 不穏な気配 side真

　はぁ……今日も疲れた。今日が月水金のどれかなら元気も出たのに。残念ながら今日は木曜日。昨日会ったのに既に湖遙不足だ。
　正式に付き合う様になって早一カ月。年末の忙しさから年始休み明けも忙しく、会う頻度は週に三回と変わっていない。
　やっと落ち着いてきたかと思ったら、湖遙も忙しい身だとわかり、誘うのも憚られて結局今の現状が続いている。


　自宅マンションに着き、エレベーターのボタンを押す。駅に近いからと選んだが、無駄に高層なだけに到着まで時間がかかる。早く帰って休みたい今は苦痛でしかない。


　引っ越そうかなぁ……。
　一人暮らしで、帰ってくる時間にはコンシェルジュもいない。厳重なセキュリティは魅力的だが、男一人の部屋に侵入しようなんて奴もなかなかいないんじゃないだろうか。
　そう考えると僕にとってはデメリットの方が優っている気がする。


　やっと到着したエレベーターに乗り込み、自宅のある階のボタンを押した。これまた長い道のりに感じる三十六階。
　エレベーターを降りて自宅ドアの鍵を開け……いつも通り暗い部屋に入るはずだった僕は、ドアを開けた瞬間、その場に鞄を落としてしまった。





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「どうしたよ、またまた元気ねーじゃん。え、嘘だろ……まさかフラれ……」
「てないわ！そんな訳ないだろっ」


　今日はいつも以上に余裕がない。ふざける佐伯にさえ本気で怒ってしまう程に。
　昨夜の出来事が衝撃すぎて、仕事にも支障を来している。


「じゃあどうしたんだよ、何かあったんだろ？」


「……」


　今まで気軽に相談してきたが、これからはそう簡単に相談できない。先日佐伯の彼氏が木崎くんだとわかってからは、湖遙に知られたくない事については絶対に言えなくなってしまった。
　悪意をもってバラすとは思っていないが、善意でバラしてしまう可能性は否定できない。


　今回の事に関しては特に知られる訳にはいかない。僕の問題は僕が解決すればいいんだから。


「あっそ、じゃあ好きなだけ悩んでなさいよ。何かは知らんけど、一人で抱え込んだっていい事なんてないんだからな。後で絶対後悔するぞ、ぷんぷん」


　大袈裟にプイッと顔をそらすと、佐伯は仕事に戻った様だ。
　いつの間にやら隣に未開封の缶コーヒーが置かれている。どうやら僕はいい同期に恵まれたらしい。


「よしっ」


　コーヒーを一気飲みして、気合いを入れ直す。
　湖遙と幸せに過ごす為に、これは早急に解決しなければならない。
　まずは如何にして湖遙に怪しまれない様にするか……。
　あの状態の家には湖遙を呼ぶ事はできない。
　相変わらず二人で会う時はお互いの家かホテルの三択になる事が多く、交互に家に行って、たまにホテルに行くのが暗黙の了解になりつつあった。
　そしてタイミングの悪い事に今日は僕の家の番。
　金曜日だし、ホテルに誘ってみよう。しかし今日を乗り越えたとて、来週からはどうするか……。何とか言い訳して乗り越えるしかない。
　とにかく早く解決しなければ……。