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本編

2話 バーでの出会い side真

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 最悪だ……。今度こそこの世の終わりだ……。
 僕は人生で何度目かの絶望を味わっている。
 今度こそ僕をくれる女性に出会えたと思っていたのに、本当に酷い……。


 昨日まで付き合って三ヶ月になる彼女がいた。今までに何人かの女性と付き合ってきたけど、全員から同じ理由でフラれていた為に、今回は特に大切にしているつもりだったんだ。それが逆効果になるなんて……。


 自慢じゃないが、僕のアレは大きい……らしい。自分では少し大きいくらいだと思っていたのに、女性とベッドの上でいざと言う状況になるとアレを見られた瞬間、毎回そこで関係が終わる。「ごめんなさい」と言われるのがトラウマになりそうだ。本っ当に自慢にならない……。


 今回の別れは特に酷い……。
 彼女といい雰囲気になる度に、悪いとは思いながらも何とか誤魔化し、その代わり他の面では彼女が望む事はできる限り叶えてきた。
 そして昨日の事。会社から言い渡された一週間の出張に出ていたが、思いの外早く仕事が終わって予定より二日程早く帰宅できた。サプライズで彼女の家に行くと……ベッドで絡み合う彼女と知らない男。
 思い出すだけで泣きそう……。彼女が言うには寂しかったと、理由があったなら言ってほしかったと。そんなの僕だって、不満があったなら浮気する前に言ってほしかったよ。
 ベタな展開だって?実際の現場見たらそんな事言ってられないからね?


 はぁ、今日は仕事も手につかない。休憩時間でもないのに机に突っ伏してしまった。


「おーい。サボりなんて珍しいな。何だよ、またフラれたか?」


「……」


 声のした方に、眉間にシワを寄せながら下唇を噛んだ顔を向ける。
 どうだ、顔面のパーツが全て中央に寄っているだろう。これが図星を突かれて悔しい男の顔だよ!


「ちょっ!ぶははははっ!不細工すぎんかそれ!げほっ。ここ会社だぞ、騒がせるなよ」


「知らないよ。お前が勝手に騒いでるんだろ。笑い過ぎだし」


「ほぉ?慰めてやろうと言う俺にそんな態度で良いのかね?長い付き合いなのに寂しいなぁおい。で、何があったんだよ」


 散々人を笑った後にしれっと本題を放り込んでくる。素直に答えるのも癪に触るが、今の僕にそんな抵抗をする気力もない。
 にやにやと返事を待つ同期、佐伯に目元だけは表情を変えずに答えた。


「三ヶ月付き合ってた彼女に浮気されて別れた。ガッツリベッドの現場を見てしまって……。もう僕はコレがある限り誰とも一緒になれないんだ……」


 後半はもう涙目だ。両手で股を押さえてぐでんと机にもたれかかる。


「またかよ。モテ巨根なんて、字面だけなら全男の敵なのにな。お前のソレ、一回見てみてぇよ、今度一緒に銭湯行こうぜ。まぁあれだ、そんな時は飲んで忘れるに限る!明日休みなんだから、今日は俺に付き合えよ」


 何も気にせず入るだけならいいけど、見られる目的で銭湯はごめんだ。どうせまたはしゃいで恥ずかしい想いをするに決まっている。


「銭湯はお断りだけど飲みには行く。飲んでもやってられないけど、飲まないともっとやってられない」


 そうだ、今日は飲んで忘れよう。明日以降の事はまた明日考えればいい。頑張ってくれ、明日の僕。今日の僕はお酒に逃げる事にした。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「寂しい想いをさせたのはわかってるけど、それも二人の仲を守るためだったし、何だったらこの二十五年間我慢してる僕の方が寂しかったよ!他のおねだりは充分叶えてきたのに……本当に酷いっ」


「そうだなぁ。お前にも事情があるんだもんな。言いたい事は今のうちに全部吐いとけ」


 佐伯に支えられながら小洒落た看板のバーに入る。本日二件目にしてはかなり酔ってしまっているかもしれないがまだまだ飲み足りない。
 ヨロヨロと歩いて目についたカウンターに座って突っ伏した。


「おっおい。お前、そこはダメだって、こっちに来い。すみません、お邪魔しちゃって」


 何やら佐伯が謝っている。お前こんな所で何をやらかしたんだ。
 のそっと顔をあげて横を見ると、少し背中を丸めてカウンターに両肘をついている人と目が合った。


「あはは、大丈夫ですよぉ?俺、寂しぃくで飲んでたんで、少しくらい賑やかな方が楽しいですし……あれ?おにぃさん泣いてるんですか?」


 何だか一人を強調された気がしたが気のせいか……。
 少し体をこちらに向けたその人は、手を伸ばして僕の目元を袖でクイクイと拭ってくれた。しかしこの人……。


「……俺?男の子?こんなにかわいいのに……」


 わぉ、ポロッと出た。声に出すつもりはなかったのに……。
 案の定、僕の涙を拭ってくれていた手をピタリと止めて、トロンとしていた目をパチクリと大きく見開いていた。


「ぷっははっ。そぅですよぉ?こう見えてちゃあんと下には立派なモノがぶら下がってるんですからぁ。女性が良かったのかな?ごめんねぇ?」
 

 ふにゃっと顔を緩めて笑いながら言われたとは思えないセリフが、グサッと胸に突き刺さる。
 立派な……モノ……。
 途端に僕の目からは滝の様にボトボトと涙が落ちていく。そんなモノがあるから僕は誰とも幸せになれないんだ。


「うわっ、お前泣き過ぎだろ。ごめんねー、コイツそのぶら下がってるモノが大き過ぎるって理由でフラれまくってんの。特に昨日別れた子とは色々あったらしくて……。本当にごめん、ほら、あっちに座り直すぞ」

 
 佐伯が腕をぐいぐい引っ張ってきて痛い。もうちょっと優しくしてくれても……。


「待ってください。俺が無神経に言ったせいで泣かせてしまったんですよねぇ。話したら少しは気が楽になるかもしれないし、その役目、俺に任せてみませんか?」


 引っ張られていない方の手を両手で握られ、じんわりと温もりが伝わってくる。自然と涙もスッと引いていき、思わず手をギュッと握り返していた。


 男の子を挟んで僕の反対側に座っていた男性が、チッと舌打ちをして席を立つ。
 見苦しい物をお見せしてすみませんねぇ。仕方ないじゃないか、傷心なんだから……。


「お前…… はぁ。ほんとにいいの?今のコイツすこぶる面倒くさいよ?」


 男の子はチラリと後ろを見ると、すぐにふいっとこっちに向き直った。


「かもですねぇ。でも失恋して泣いちゃうなんてかわいいじゃないですかぁ。おにぃさんイケメンなのに、こんなにボロボロ泣くなんて、ギャップがあっていいと思いますよ?あ、俺、如月湖遙きさらぎこはるって言います。湖遙でいいですよぉ」


 僕の頭をなでなでしながらにっこりと笑う。すごくいい子だ……悲しみに埋め尽くされていた心が洗われていく様だ。


「湖遙くん……いい名前だね。僕は柊真ひいらぎまこと、真でいいよ」


「湖遙くんね、俺は佐伯伸哉さえきしんや。湖遙くんかわいくて恋人が嫉妬しちゃうから、佐伯って呼んで」


 パチンとウインクを飛ばしているが、そんな事してる方が恋人に怒られるだろう。


「あはは、了解です佐伯さん。名前呼ぶだけで嫉妬してくれるなんて、かわいい恋人さんですねぇ」


「でしょでしょ?もっと他のエピソードも聞きたい?この前なんかねー……」


 後ろから僕にのしかかりながら話す。重い……。


「お前っ、重いから座れよ。それに、湖遙くんには僕の話を聞いてもらうんだからな」


 佐伯を肩から外し、湖遙くんと反対側の席を視線で指す。
 座ったのを見届けてから背中を向けた。


「はいはい、そうでした。ここまで話を聞いてやったのに、薄情者め。一人で飲むからそっちでよろしくやってろ。バーテンさん、サングリアくださーい」


 後ろから声が聞こえる気がするが気のせいだ。


 それから湖遙くんとお酒を飲みながら話した。昨日の事だけじゃなくて、僕のこれまでの恋愛全てを否定せずに聞いてくれる。
 これは……好きになってしまっても仕方ないのでは……?僕ってこんなにちょろかったっけ……。不思議と男である事も気にならない。これはきっと運命だ。


 それから、気分が良くてお酒もぐんぐんと進んで……。
 記憶はそこまでで終わっている。そして今、見覚えのない部屋のベッドの上。
のそりと起き上がると、捲れた布団から現れたのは自分の上半身。但し服は着ていない。
 チラッと持ち上げてみると、下半身までもが何も纏っていなかった。


「んう……さむいー」


 横からした聞き心地の良い声にびっくりして目を向けると、昨夜散々お世話になった青年が丸まって眠っている。
 少し布団からはみ出した彼の体も肌色だ。


 よく見るとベッドの周りに昨日着ていた服が散乱している。初めての状況だが、これは明らかに事後と言うやつでは……?


 ……まだ告白もしていないのに。やってしまった……のか?運命との初めてを覚えていないなんて……あり得ないぞ僕!兎にも角にもやってしまったなら……。
 責任。その言葉が頭をぐるぐるしてなかなかベッドから抜け出す事が出来なかった。




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