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一章 魔族の村
2話 魔族の村
しおりを挟むはーっ。やっと見えてきたな、魔族の村。
早朝から重い体を起こして朝食後に出発し、お昼の休憩を経て辿り着いた。
十八年前、殆どは魔王城で過ごしていたが、たまにアーデが連れてきてくれていた場所だ。
オレの世話をしてくれていた人達もここから来てくれていた。みんな、元気にしてるだろうか。
「あれだ、魔族の村。見えるか?カイル」
山間にあるその村は、人目を避けるのには最高の立地。
魔族はかなりの少数種族で、この魔族領にいる魔族はここにいるだけだ。
他にも人族の中に紛れて生活をしている人も居るらしいが、それもごく僅かだろう。
しかし長命であり、性別問わず子どもを身籠る事ができ、よっぽどの事がないと種が絶える事はなく、長年数を減らすことなく栄えている。
魔力には指紋の様にそれぞれ個性があり、魔族の子どもは親の魔力が体内で混ざる事によって生まれて来るから、近い血縁であっても婚姻が認められているらしい。
「何だか変わった建物だね。昔の日本家屋の様な……」
そう言われてみると……どこかの温泉街みたいな感じか。もう前世の記憶はかなり薄れているけれど、ぽわぽわと知ってる光景がうかんできて、カイルの言いたい事が何となくわかった。
魔王城は洋風っぽい城だったのになぁ。
ここは山に沿って建物が建っている為に、坂や階段が多い。特殊な地形なだけに、様式を変えざるを得なかったのかな?後は運び込める素材の種類が違ったとか。
オレはこの世界の集落は、ここかアンタレスしか知らないが、他はどんな感じなんだろう……。
カイルに聞いてもいいけど、王都に行く道中の楽しみに取っておくか。
「言われるまで何とも思ってなかったな。とにかく階段が多くて、当時は大変だったのを良く覚えてるよ。殆どアーデに担がれてた気がする」
「あはは、今も大変なんじゃない?馬では村を歩けなさそうだけど」
げ……ここでも壁になるかレベル一。階段登るくらい大丈夫だと信じたい……。
「……だっこ」
「お任せください魔王様。今からしていこうか?遠慮しないでいいよ?さあさあ」
「いや……結構です」
食い気味早口こわい……。
しかし冗談で言ったけど、一番上までとなるとあながちあり得ない話じゃなさそうなのが更に怖い。
「冗談抜きでね。何かあったらすぐに僕を頼ってよ。その為にいるんだから」
「んっ……ありがと。……はっ、早く行こっ」
不意打ち良くない。急に真面目になられると逆に困る。
赤くなっているであろう顔を隠す為に、横並びだった馬を少し急かして先を歩いた。
「ふふ、かわいい」
後ろから何か聞こえたけど聞こえない。聞こえなかったよーっ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「「おかえりなさいませ、アーシェ様」」
「ただいま。ミクロム、マクロム」
村に着いてすぐに出迎えてくれた二人の魔族。双子で顔はとても似ているが髪色が違う。赤い方がミクロム、白い方がマクロムだ。
頭には控えめな角が二本、耳の先が少し尖っているが、魔族の中では人族にかなり近い見た目をしている。
パッと見はオレ達と変わりない年齢に見えるが、魔族は長命……こう見えて裕に百歳を超えているらしい。そして二人は夫夫でもある。
「お連れ様も、ようこそいらっしゃいました。お疲れでしょう、ご滞在の間は我が家をお使いください。ご案内致します」
……ミクロムが案内役か。
「お世話になります」
「ありがとう、また世話をかけるね」
「いえ、何をおっしゃいますか。子どもにその様な気遣いは不要だといつも言っていたでしょう」
馬はマクロムが預かって厩舎へ連れて行ってくれる様だ。荷物を下ろして担ごうとした所で、ヒョイとカイルに全て持って行かれてしまった。
子どもじゃないと言いたいのに、こんなとこ見られたら何も言えないじゃないか……。
「君達からしたらオレなんて永遠に赤ん坊なんだろうね。敵わないなぁ」
「ふっ、そうですね。さあ、行きましょうか。こちらです」
ミクロムの後をカイルと二人で歩く。
……ミクロム一人か……今のうちに言っておかないとダメだろうな。
ミクロムに聞こえない様に、コソッとカイルに耳打ちをする。
「これから起こる事には目を瞑ってくれ。何を見てもそっとしといてくれ……頼む。むしろなかった事にして欲しいが、無理なら今後話題に出さないでくれ」
「……?」
怪訝そうな顔をしているが、家に着けばわかるさ。あー、見られたくねぇ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「アーシェ!!お前と言うやつは!何でこういつもいつも心配ばかりかけるんだっ!たまには帰って来いって言ってんのに、全然帰ってこねーしよ!やっと連絡寄越したかと思ったら死んだ!?生き返った!?何やってんだこのドラ息子!!お前は俺達の毛を心労で減らそうとでもしてんのか!?そうなのかーっ!!」
玄関の引き戸がピシャリと閉まった瞬間、首根っこをムンズと捕まれ、乱暴にゆっさゆっさと振り回される。
あ……オレ、レベル一なんで……それ以上は死にます……。
「ご……ごめ、なさい……あの、ミクロム……すみません、し……しぬ……」
「こーら、外まで丸聞こえだよ。もっと中に入ってからにしないと。ほら、上がった上がった。お連れ様もすみませんね、騒がしくて」
「い、いえ……アーシェ、大丈夫?」
カラカラと引き戸を開けてマクロムが入ってくる。とりあえずは命拾いしたけど、それは中に入ったら再開していいって事か?
首根っこが解放されてドサリと玄関の段差に座り込む。
カイルが気遣ってくれるが、返事をする気力もない。今のでオレの体力は残りミリ状態だ。
靴を脱いで上がるスタイルの家だが、脱げる気がしない……。そうだ、ポーション……。
カイルにポーションをもらおうと手を伸ばすと、ポイポイと靴を脱がされ、お姫様抱っこで運ばれてしまった。
「随分ひ弱な甘ったれになっちまったんだな。お前にとってはいい傾向か。そっちの話もちゃんと聞かせろよ」
見ないで欲しい。そんなニヤニヤしながら見ないで、恥ずかしいから。後でちゃんと紹介するつもりだったのに、この光景で全てを察されてしまった。
「ミクロム。早く、居間に、案内、しなさい」
「……はい」
うわ……あれはマクロムも相当怒っている。
ミクロムは怒ると爆発してスッキリするタイプ、マクロムは長くじっくり静かに怒るタイプ。双子なのに正反対だよな。ははは……。
そう、これからはマクロムのお説教ターンだ……。はぁ。
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