上 下
53 / 58
一章 魔族の村

2話 魔族の村

しおりを挟む



 はーっ。やっと見えてきたな、魔族の村。
 早朝から重い体を起こして朝食後に出発し、お昼の休憩を経て辿り着いた。
 十八年前、殆どは魔王城で過ごしていたが、たまにアーデが連れてきてくれていた場所だ。
 オレの世話をしてくれていた人達もここから来てくれていた。みんな、元気にしてるだろうか。


「あれだ、魔族の村。見えるか?カイル」


 山間にあるその村は、人目を避けるのには最高の立地。
 魔族はかなりの少数種族で、この魔族領にいる魔族はここにいるだけだ。
 他にも人族の中に紛れて生活をしている人も居るらしいが、それもごく僅かだろう。
 しかし長命であり、性別問わず子どもを身籠る事ができ、よっぽどの事がないと種が絶える事はなく、長年数を減らすことなく栄えている。
 魔力には指紋の様にそれぞれ個性があり、魔族の子どもは親の魔力が体内で混ざる事によって生まれて来るから、近い血縁であっても婚姻が認められているらしい。


「何だか変わった建物だね。昔の日本家屋の様な……」


 そう言われてみると……どこかの温泉街みたいな感じか。もう前世の記憶はかなり薄れているけれど、ぽわぽわと知ってる光景がうかんできて、カイルの言いたい事が何となくわかった。


 魔王城は洋風っぽい城だったのになぁ。
 ここは山に沿って建物が建っている為に、坂や階段が多い。特殊な地形なだけに、様式を変えざるを得なかったのかな?後は運び込める素材の種類が違ったとか。


 オレはこの世界の集落は、ここかアンタレスしか知らないが、他はどんな感じなんだろう……。
 カイルに聞いてもいいけど、王都に行く道中の楽しみに取っておくか。


「言われるまで何とも思ってなかったな。とにかく階段が多くて、当時は大変だったのを良く覚えてるよ。殆どアーデに担がれてた気がする」


「あはは、今も大変なんじゃない?馬では村を歩けなさそうだけど」


 げ……ここでも壁になるかレベル一。階段登るくらい大丈夫だと信じたい……。


「……だっこ」
「お任せください魔王様。今からしていこうか?遠慮しないでいいよ?さあさあ」


「いや……結構です」


 食い気味早口こわい……。
 しかし冗談で言ったけど、一番上までとなるとあながちあり得ない話じゃなさそうなのが更に怖い。


「冗談抜きでね。何かあったらすぐに僕を頼ってよ。その為にいるんだから」


「んっ……ありがと。……はっ、早く行こっ」


 不意打ち良くない。急に真面目になられると逆に困る。
 赤くなっているであろう顔を隠す為に、横並びだった馬を少し急かして先を歩いた。


「ふふ、かわいい」


 後ろから何か聞こえたけど聞こえない。聞こえなかったよーっ。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「「おかえりなさいませ、アーシェ様」」


「ただいま。ミクロム、マクロム」


 村に着いてすぐに出迎えてくれた二人の魔族。双子で顔はとても似ているが髪色が違う。赤い方がミクロム、白い方がマクロムだ。
 頭には控えめな角が二本、耳の先が少し尖っているが、魔族の中では人族にかなり近い見た目をしている。
 パッと見はオレ達と変わりない年齢に見えるが、魔族は長命……こう見えて裕に百歳を超えているらしい。そして二人は夫夫ふうふでもある。


「お連れ様も、ようこそいらっしゃいました。お疲れでしょう、ご滞在の間は我が家をお使いください。ご案内致します」


 ……ミクロムが案内役か。


「お世話になります」


「ありがとう、また世話をかけるね」


「いえ、何をおっしゃいますか。子どもにその様な気遣いは不要だといつも言っていたでしょう」


 馬はマクロムが預かって厩舎へ連れて行ってくれる様だ。荷物を下ろして担ごうとした所で、ヒョイとカイルに全て持って行かれてしまった。
 子どもじゃないと言いたいのに、こんなとこ見られたら何も言えないじゃないか……。


「君達からしたらオレなんて永遠に赤ん坊なんだろうね。敵わないなぁ」


「ふっ、そうですね。さあ、行きましょうか。こちらです」


 ミクロムの後をカイルと二人で歩く。
 ……ミクロム一人か……今のうちに言っておかないとダメだろうな。
 ミクロムに聞こえない様に、コソッとカイルに耳打ちをする。


「これから起こる事には目を瞑ってくれ。何を見てもそっとしといてくれ……頼む。むしろなかった事にして欲しいが、無理なら今後話題に出さないでくれ」


「……?」


 怪訝そうな顔をしているが、家に着けばわかるさ。あー、見られたくねぇ。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「アーシェ!!お前と言うやつは!何でこういつもいつも心配ばかりかけるんだっ!たまには帰って来いって言ってんのに、全然帰ってこねーしよ!やっと連絡寄越したかと思ったら死んだ!?生き返った!?何やってんだこのドラ息子!!お前は俺達の毛を心労で減らそうとでもしてんのか!?そうなのかーっ!!」


 玄関の引き戸がピシャリと閉まった瞬間、首根っこをムンズと捕まれ、乱暴にゆっさゆっさと振り回される。
 あ……オレ、レベル一なんで……それ以上は死にます……。


「ご……ごめ、なさい……あの、ミクロム……すみません、し……しぬ……」


「こーら、外まで丸聞こえだよ。もっと中に入ってからにしないと。ほら、上がった上がった。お連れ様もすみませんね、騒がしくて」


「い、いえ……アーシェ、大丈夫?」


 カラカラと引き戸を開けてマクロムが入ってくる。とりあえずは命拾いしたけど、それは中に入ったら再開していいって事か?
 首根っこが解放されてドサリと玄関の段差に座り込む。
 カイルが気遣ってくれるが、返事をする気力もない。今のでオレの体力は残りミリ状態だ。
 靴を脱いで上がるスタイルの家だが、脱げる気がしない……。そうだ、ポーション……。
 カイルにポーションをもらおうと手を伸ばすと、ポイポイと靴を脱がされ、お姫様抱っこで運ばれてしまった。


「随分ひ弱な甘ったれになっちまったんだな。お前にとってはいい傾向か。そっちの話もちゃんと聞かせろよ」


 見ないで欲しい。そんなニヤニヤしながら見ないで、恥ずかしいから。後でちゃんと紹介するつもりだったのに、この光景で全てを察されてしまった。


「ミクロム。早く、居間に、案内、しなさい」


「……はい」


 うわ……あれはマクロムも相当怒っている。
 ミクロムは怒ると爆発してスッキリするタイプ、マクロムは長くじっくり静かに怒るタイプ。双子なのに正反対だよな。ははは……。
 そう、これからはマクロムのお説教ターンだ……。はぁ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

処理中です...