51 / 58
第二幕 プロローグ
第二幕 プロローグ side???
しおりを挟む魔の森の魔気が晴れた。これの意味する事を知らない魔族はいない。
あんな膨大な魔力を制する者がいようとは……。
ついにこの時が来てしまったと嘆く者、やっとくたばったかと嘲笑する者。
俺のこの気持ちはどちらだろうな。
外が見える様に大きく開け放たれた戸。外気は冷たく、頬は刺された様にチリチリと痛む。
この肌の色では赤くなろうとも誰にも気付かれる事はない。ただ一人を除いては。
……いや、もう誰もいないか。
キセルも咥えていないのに、口から吐き出されるため息は白い。
藺草の香がする床に片膝を立てて座り、目の前の円卓には酒瓶が一つと、対になった二つの盃が置かれている。
誰もいない席と、自分の前に置かれた盃に、並々と酒を注いだ。
縁側の先に見える月を肴に、盃の中の酒を一気に煽る。
お前も呑める歳になっただろう。好んで呑むかは知らんが、今日くらいは付き合え。
山の裾に沿ってならぶ暗い色の瓦屋根も、そろそろ白く染まる時期が迫っている。静まり返った村の中は、寒さも相まって喪の雰囲気に拍車をかけていた。
ふん……普段は人族が魔王である事にグダグダと喧しい年寄り連中も、今日ばかりは大人しいものだな。宴会でも始めるかと思っていたぞ。
今更魔王などお飾りだと思っていたが、何だかんだと言っても、影響は大きいのだな。
そんな静けさに似付かわしくない足音がドタバタと響き、部屋の前で止む。
チッ……無粋な。
「何事だ。こんな夜に……騒がしいぞ」
「もっ申し訳ありません!しかし若様、大変でございます」
今更恭しく引き戸を開ける男……長老会の誰ぞの倅だったか。まぁどうでも良い。
男は敷居と畳縁を跨いで頭を伏せる。
……どうでも良いが、こいつの代でこの家は終わりだな。
「良い。早く用件を申せ」
無礼に対する礼儀は持ち合わせていないのでな。そのまま伏せているがいい。
持っていた盃を机にカツンと音を立てて置く。魔王崩御以上の一大事などあるものか。
つまらぬ用件ならその首を掻き切ってくれる……。
「ま……魔王アーシェより魔報です。そのうち戻る、と……」
「……なっ」
んだと……生きている?あの状態からどうやって……。
口元を手で押さえ、ぎりっと力を込める。
「詳しい事は戻ってから話すとの事ですが……如何なさいますか?」
「……間違いなく魔王からの魔報か?」
「はっはい、間違い御座いません。直接ご覧になりますか?」
不毛な事を聞いたな……俺自身が一番わかっているだろうに。しかし確かめずにはいられない。
先程から土下座の体勢を崩さぬ男から、微かに感じる。俺が間違うはずもない者の魔力……。
「いらぬ。帰ってくるのであれば、出迎えの準備をせねばな。しかし今日はもう遅い、明日から動けば良かろう。下がれ」
「はっ」
男の気配が消えた事を確認して、力を込めて抑えていた表情を崩す。
「くははっ……生きていたか。アーシェ……アーシェ」
チラリと部屋の隅にある鏡を見る。
誰にも見せる訳にもいくまいよ……。こんなドス黒い心の内を。醜く歪み、口角が上がる事をやめられないこの顔を。これはたった一人に向ける為の感情だ。
あの死にたがりが俺を捨てて逃げた時……あの時程自分が魔族である事を憎く思った事はない。魔力量の差が大き過ぎて手出しができぬ……。基本魔族は自分より多くの魔力を持つ者に反抗する事はない。できぬに等しいか。
魔王城の地下に通い、触れる事すらできず小さな体が俺と同じ様に成長していく様を見ている事しかできなかった。動けない人形など、死んでいるも同然なのにな……何度殺してやりたいと思った事か。
もうアーシェとは生きて会う事もないと思っておったが、それが……。
「生きて帰って来る……くくっ……早く戻って来い。次こそは逃がさん……」
********************
10
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
異世界に来たのでお兄ちゃんは働き過ぎな宰相様を癒したいと思います
猫屋町
BL
仕事中毒な宰相様×世話好きなお兄ちゃん
弟妹を育てた桜川律は、作り過ぎたマフィンとともに異世界へトリップ。
呆然とする律を拾ってくれたのは、白皙の眉間に皺を寄せ、蒼い瞳の下に隈をつくった麗しくも働き過ぎな宰相 ディーンハルト・シュタイナーだった。
※第2章、9月下旬頃より開始予定
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
転生魔王様は最強勇者様に魔王討伐を諦めさせたい
はかまる
BL
なんてことの無い只の平凡な男子高校生を過ごしていたある男は、不慮の事故で亡くなり転生すると多くのモンスター達を従える魔王へと転生していた。
既に世界最強の勇者は自分を倒しに王都を出て魔王城へと向かっている。
このままだと折角転生した魔王人生もあっという間に終了してしまう。なんとか勇者を説得できないかと正体を隠して近づくが……。
(毎日19:00くらいに1話~2話投稿します)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる