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八章 無くなった秘密
40話 大丈夫大丈夫
しおりを挟む完全復活!には程遠いけど、漸く不自由なく体を動かせる様になった。
レベル三桁だったのが、一にリセットされた感じ。今や街の子ども達より弱い気がする。
長かったわ……本当に長かった。時間にして二ヶ月程。
たまにケイトが様子を見に来てくれていて、今日やっと馴染んだとお墨付きをもらったのだ。二ヶ月程度で馴染むのはかなり早い方らしい。本来ならもっとかかるって事?
……恐ろしい。
これでやっとあの恥の日々達におさらばできるのだっ。
「お疲れ様だったにゃ。一応これで無事生まれ直しが完了したけど、前の様に強くない事は重々理解しておかないとダメだにゃ」
「わかってるって、無理はしないよ。女神は元気?こっちは無事に元気になったから、ありがとうって伝えておいて」
「うにゅ、伝えておくにゃ。女神様にゃあ……元気すぎるくらい元気にゃ。ご主人様達を見て何かに目覚めたらしくて、他の神々と精力的に交流してるにゃ。今度は何をしてくれるやら怖くてしかたないにゃん。ご主人様はこれからもここに住むのかにゃ?」
ここはオレの家のリビングダイニング。当然の様に隣にはカイルが座って、オレの手を握っている。
目の前で紅茶を嗜むケイトがチラリとカイルを見た。そう言えばオレの世話をする為に残ってくれていたが、パーティの仲間達は魔王討伐完了の報告があるからと先に王都に帰って行ったんだった。カイルも……王都に行くよな。
オレもそのうち魔王として国王様とは一度会っておかなければならない。今回の顛末の説明と、停戦協定の再確認が必要だ。しかしその為にはまず、魔族の皆んなの総意を確認しに行かなければならない。一旦離れる事になるけど、またいつかは会える。大丈夫……。
「そうだね、これから長い間留守にはするけど、ここに戻ってくるよ。まずは魔族の村に行って、これからの事を話してこなきゃ」
「ふにゅ、その方がいいだろうにゃ」
離れ離れになるのかと思うと寂しくなって、カイルの手をきゅっと握った。
オレほんと今までどうやって生活してたっけ……。
「なら先に魔族の村だね。それが終わったら王都に行ってもいい?欲しい物があるんだ」
「え……カイル、王都に帰るんじゃ……?」
カイルはキョトンとしたかと思うと、眉をひそめてオレの両手を握ってきた。
「まさかとは思うけど……アーシェ、もしかして僕と離れて平気だなんて思ってないよね?」
「いやっ……離れるったって大袈裟な。数ヶ月、長くて半年くらいのもんだし、お互いの立場を考えたら仕方ないだろ」
「ふーん……とにかく僕はアーシェについて行くから」
言うだけ言ってプイッと前を向いてしまった。ちゃっかり片手は握ったままで。
何だよ、誰も平気だとは言ってないのに……。
「別にいいけど、あんまり気分のいいものじゃないかもしれないぞ?魔族領だからな。表立って敵対はしてこないだろうけど、やっぱり人族を良く思ってない連中もいるしね。特にお前、勇者だし」
「だったら余計にアーシェ一人で行かせる訳ないでしょ。もうケイトさんが言ってた事忘れたの?」
む。確かにオレは今レベル一のクソ雑魚ですけど。でも忘れてもらっちゃ困るのはこっちも同じだ。
「あのさ、オレ魔王なの。人間だけど、魔族領は実家みたいなもんなわけ。里帰りくらい一人でできるわっ」
「……どっちにしても僕がアーシェと一緒にいるのは決定事項だから。魔族領には二人で行きます。以上!」
「まあまあ、ボクも二人で行った方がいいと思うにゃん。それと、何かあったらボクも呼ぶといいにゃ。ちゃんと呼んでくれないと、手助けはできないからにゃ。忘れずに覚えておくんだにゃ」
アレでしょ、神様ルール。天界からの援助は基本見込めないけど、ケイトとは契約を通して助力を求める事ができる。呼ばなくても契約回線を使って下界に降りてはこれるけど、干渉はできないんでしょ。今は呼んでないけどケイトから降りてきてくれてる状態。
「大丈夫、わかってるよ。ちょっと心配しすぎじゃない?」
「全然わかってないよね……」
「仕方ないにゃ。しっかり守ってやってくれにゃ」
解せぬ。わかってるっつってんのに。ここ二ヶ月で過保護になり過ぎじゃね?まぁ気持ちはわかるけど、もう動けるっての。
それに、戦闘力的にはガクッと下がったけど、魔力はすこぶる安定している。
魔族領では魔力量が物を言う環境だ。
アーデから引き継いだ魔力は女神が回収して、本来もっていた魔力量に戻っているが、その時点で通常の魔族より多い。人族に懐疑的な連中でさえ、オレが魔王になる事には反対しなかった。あれから十五年も経っているからはっきりはわからないけど、恐らく一番多いはずだ。
思念体なしに安定できるのは、女神ボディ様々ってところだな。
魔力循環もあるから、別に多くなくても良かったんだけどね。魔王としての威厳が必要でしょって事で残したらしい。
とにかくお陰様で魔法はバンバン使い放題。……刀振り回してばっかで、あんまり攻撃手段に魔法は使ってこなかったんだけどな。
「ま、大丈夫だろ。魔法があれば何とかなる!」
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