47 / 58
八章 無くなった秘密
40話 大丈夫大丈夫
しおりを挟む完全復活!には程遠いけど、漸く不自由なく体を動かせる様になった。
レベル三桁だったのが、一にリセットされた感じ。今や街の子ども達より弱い気がする。
長かったわ……本当に長かった。時間にして二ヶ月程。
たまにケイトが様子を見に来てくれていて、今日やっと馴染んだとお墨付きをもらったのだ。二ヶ月程度で馴染むのはかなり早い方らしい。本来ならもっとかかるって事?
……恐ろしい。
これでやっとあの恥の日々達におさらばできるのだっ。
「お疲れ様だったにゃ。一応これで無事生まれ直しが完了したけど、前の様に強くない事は重々理解しておかないとダメだにゃ」
「わかってるって、無理はしないよ。女神は元気?こっちは無事に元気になったから、ありがとうって伝えておいて」
「うにゅ、伝えておくにゃ。女神様にゃあ……元気すぎるくらい元気にゃ。ご主人様達を見て何かに目覚めたらしくて、他の神々と精力的に交流してるにゃ。今度は何をしてくれるやら怖くてしかたないにゃん。ご主人様はこれからもここに住むのかにゃ?」
ここはオレの家のリビングダイニング。当然の様に隣にはカイルが座って、オレの手を握っている。
目の前で紅茶を嗜むケイトがチラリとカイルを見た。そう言えばオレの世話をする為に残ってくれていたが、パーティの仲間達は魔王討伐完了の報告があるからと先に王都に帰って行ったんだった。カイルも……王都に行くよな。
オレもそのうち魔王として国王様とは一度会っておかなければならない。今回の顛末の説明と、停戦協定の再確認が必要だ。しかしその為にはまず、魔族の皆んなの総意を確認しに行かなければならない。一旦離れる事になるけど、またいつかは会える。大丈夫……。
「そうだね、これから長い間留守にはするけど、ここに戻ってくるよ。まずは魔族の村に行って、これからの事を話してこなきゃ」
「ふにゅ、その方がいいだろうにゃ」
離れ離れになるのかと思うと寂しくなって、カイルの手をきゅっと握った。
オレほんと今までどうやって生活してたっけ……。
「なら先に魔族の村だね。それが終わったら王都に行ってもいい?欲しい物があるんだ」
「え……カイル、王都に帰るんじゃ……?」
カイルはキョトンとしたかと思うと、眉をひそめてオレの両手を握ってきた。
「まさかとは思うけど……アーシェ、もしかして僕と離れて平気だなんて思ってないよね?」
「いやっ……離れるったって大袈裟な。数ヶ月、長くて半年くらいのもんだし、お互いの立場を考えたら仕方ないだろ」
「ふーん……とにかく僕はアーシェについて行くから」
言うだけ言ってプイッと前を向いてしまった。ちゃっかり片手は握ったままで。
何だよ、誰も平気だとは言ってないのに……。
「別にいいけど、あんまり気分のいいものじゃないかもしれないぞ?魔族領だからな。表立って敵対はしてこないだろうけど、やっぱり人族を良く思ってない連中もいるしね。特にお前、勇者だし」
「だったら余計にアーシェ一人で行かせる訳ないでしょ。もうケイトさんが言ってた事忘れたの?」
む。確かにオレは今レベル一のクソ雑魚ですけど。でも忘れてもらっちゃ困るのはこっちも同じだ。
「あのさ、オレ魔王なの。人間だけど、魔族領は実家みたいなもんなわけ。里帰りくらい一人でできるわっ」
「……どっちにしても僕がアーシェと一緒にいるのは決定事項だから。魔族領には二人で行きます。以上!」
「まあまあ、ボクも二人で行った方がいいと思うにゃん。それと、何かあったらボクも呼ぶといいにゃ。ちゃんと呼んでくれないと、手助けはできないからにゃ。忘れずに覚えておくんだにゃ」
アレでしょ、神様ルール。天界からの援助は基本見込めないけど、ケイトとは契約を通して助力を求める事ができる。呼ばなくても契約回線を使って下界に降りてはこれるけど、干渉はできないんでしょ。今は呼んでないけどケイトから降りてきてくれてる状態。
「大丈夫、わかってるよ。ちょっと心配しすぎじゃない?」
「全然わかってないよね……」
「仕方ないにゃ。しっかり守ってやってくれにゃ」
解せぬ。わかってるっつってんのに。ここ二ヶ月で過保護になり過ぎじゃね?まぁ気持ちはわかるけど、もう動けるっての。
それに、戦闘力的にはガクッと下がったけど、魔力はすこぶる安定している。
魔族領では魔力量が物を言う環境だ。
アーデから引き継いだ魔力は女神が回収して、本来もっていた魔力量に戻っているが、その時点で通常の魔族より多い。人族に懐疑的な連中でさえ、オレが魔王になる事には反対しなかった。あれから十五年も経っているからはっきりはわからないけど、恐らく一番多いはずだ。
思念体なしに安定できるのは、女神ボディ様々ってところだな。
魔力循環もあるから、別に多くなくても良かったんだけどね。魔王としての威厳が必要でしょって事で残したらしい。
とにかくお陰様で魔法はバンバン使い放題。……刀振り回してばっかで、あんまり攻撃手段に魔法は使ってこなかったんだけどな。
「ま、大丈夫だろ。魔法があれば何とかなる!」
20
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
魔王の溺愛
あおい 千隼
BL
銀の髪が美しい青い瞳の少年。彼が成人の儀を迎えた日の朝すべてが変わった。
喜びと悲しみを分かち合い最後に選ぶのは愛する者の笑顔と幸せ───
漆黒の王が心を許したのは人の子。大切な者と心つなぐ恋のお話。
…*☆*…………………………………………………
他サイトにて公開しました合同アンソロジー企画の作品です
表紙・作画/作品設定:水城 るりさん
http://twitter.com/ruri_mizuki29
水城 るりさんのイラストは、著作権を放棄しておりません。
無断転載、無断加工はご免なさい、ご勘弁のほどを。
No reproduction or republication without written permission.
…*☆*…………………………………………………
【公開日2018年11月2日】
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
異世界に来たのでお兄ちゃんは働き過ぎな宰相様を癒したいと思います
猫屋町
BL
仕事中毒な宰相様×世話好きなお兄ちゃん
弟妹を育てた桜川律は、作り過ぎたマフィンとともに異世界へトリップ。
呆然とする律を拾ってくれたのは、白皙の眉間に皺を寄せ、蒼い瞳の下に隈をつくった麗しくも働き過ぎな宰相 ディーンハルト・シュタイナーだった。
※第2章、9月下旬頃より開始予定
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
転生魔王様は最強勇者様に魔王討伐を諦めさせたい
はかまる
BL
なんてことの無い只の平凡な男子高校生を過ごしていたある男は、不慮の事故で亡くなり転生すると多くのモンスター達を従える魔王へと転生していた。
既に世界最強の勇者は自分を倒しに王都を出て魔王城へと向かっている。
このままだと折角転生した魔王人生もあっという間に終了してしまう。なんとか勇者を説得できないかと正体を隠して近づくが……。
(毎日19:00くらいに1話~2話投稿します)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる