秘密の多い薬屋店主は勇者と恋仲にはなれません!

白縁あかね

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八章 無くなった秘密

39話 ただいま戻りました sideカイル

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「んん……アーシェ……?」


「はぁー……ふぅ」


 とんでもない。
 なんだこの可愛さは。女神の子はパッシブ効果で人を惹きつけるらしいけど……。これはとんでもない。僕はそうでもないのに……惚れた効果で上乗せされてるのかな?
 アーシェの体は、今までの体を元に創られてはいるけれど、殆どが女神様の力によって構成されている為に、女神の子として創り直されているらしい。


「うぐ……ごめん、待たせたかな。声もでない?結構重症だね……とりあえず街に帰ろうか。皆んな心配してるだろうしね。ポーションとか色々試してみよう」


 目が覚めてまたすぐに気絶するかと思ったよね。そんなパッシブなくても、元々アーシェは綺麗だったのに、それが更に輝いて見える。
 あー……連れて帰らないとダメかな。ダメかぁ。
 ちょっと魔が刺したけど、ちゃんと送り届けますとも。


 動けず声もでない様子のアーシェを抱きかかえる。
 軽っ……これは帰ってすぐに何か食べさせないといけないね。……と考えていたところで、アーシェが僕にすりすりと頬擦りをしている。
 ……一瞬、まな板の上の鯛を想像してしまった。鯉じゃなく鯛。美味しくいただきますとも、元気になったらね。
 両想いになったと思うと、なかなか歯止めがきかない。止める気もないけどね。


「……あんまり可愛い事してると襲うからね?ダメだよ、我慢してるんだから。元気になったらたんまりご褒美もらうね」


 とりあえず安静にできるところに連れて帰らないと。
 クテンと大人しくなったアーシェを抱えて街へ向かった。


 途中、パーティの仲間達が駆けつけてくれたけど、やっぱりエマが突っかかってきた。
 アーシェは言わなかったけど、神託とか余計な事を言ったのはコイツだろう。
 一般的ではない神託と言う存在を知っているのは恐らく教会の関係者……。しかしアンタレスに教会はない。なら答えは一つでしょ。
 僕とアーシェの邪魔をする奴は誰であっても許さないからな……。そんな奴に向けてやる感情は一つもない。苛立ちすらももったいないよね。
 アーシェの頭に軽くキスを落として気持ちを落ち着ける。
 正直、だから何なんだって思うよね。神託だなんだって、僕の気持ちはこれっぽっちも加味されていない。そんな言葉にいちいち構ってあげるほど今は暇じゃないんだよね。
 適当に返事をして納得させたところで、彼女達を放って魔王城を出た。そのうち追いついてくるでしょ。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 しばらく歩き続けて、漸く街が見えてきた。壁の外には大量の魔物の死骸が転がっているが、特に破られた形跡はない。無事に街は守られたようだ。


「アーシェ、見えてきたよ。ほら、街は無事みたいだ」


 アーシェの顔が安心した様に緩む。今まで心を許してこなかったってケイトさんは言ってたけど、きっと拒む態度をしていただけで、アーシェ自身は街の人達を信頼していたに違いない。これだけ大切にしてきたんだから、きっと街の人達もわかっているだろう。だからこそアーシェを殺す事ができなかったし、僕の事も敵視してたんだろうね。
 お互い想い合ってる感じがちょっと嫉妬しちゃうかも。


「アーシェ」


 呼びかけに少し首に力が入った事を確認して、上半身が上がる様に抱え直すと、アーシェの唇に軽くちゅっとキスをした。
 あは、ぽかんとしてる顔も可愛いよね。


「おっと」


 ひょいと一歩後ずさると、壁の上から矢が降ってきて、今まで立っていた所にズバッと刺さる。そのまま立ってたら脳天に突き刺さってたよね。殺すヤる気満々かよ。怖いなぁもう。
 やっぱり見られてたよね。まぁんですけど。


「てめぇ!ふざけんなよ!!すぐに行くからそこで待ってろ!動くなよ!!」


 暫くすると、閉まっていた門がゆっくりと開き、中からヴァンさんとトーマさんが駆け寄ってくる。
 アーシェを見ると二人ともピタッと固まってしまった。
 そうなると思ったよね。だから牽制したのに。


「アーシェ……か?生きてるのか!?」


 ヴァンさんが何とか動ける様になったらしく、ゆっくりと近付いてくる。
 はぁ……正直見せたくない。できればどこかに隠してしまえればいいのに……。


「はぁあ……ふぅはぁ」


 アーシェが懸命に口をパクパクして何かを伝えようとしている。


「今は体が動かなくて、声も出ないみたいです。そのうち動ける様になるはずですから、経緯はアーシェから聞いた方がいいでしょう」


 その方がゆっくり時間も取れるだろうしね。
 嫉妬はするけど、アーシェから大切な人達を奪いたい訳じゃない。
 特にこの人達は、アーシェを守ってくれるだろうしね。


「そうか……こんなに大きくなってたんだな……」


 ヴァンさんはアーシェの頭を撫でながら、見た事もない優し気な表情をしている。薄らとだけど、目には涙が滲んでいるようだ。
 まさに親の顔って感じ。
 アーシェは鼻をフフンと鳴らして得意げな顔をする。何それかわい……。


「ぶははっ、やっぱ大きくなってもお前はお前だな。……おかえり、アーシェ」


 アーシェは大きな目を潤ませて、軽く下唇を噛んでいる。泣くのを我慢しているらしい。やっぱり二人の間には深い絆ができているんだね。


「アーシェさんっ、おかえりなさい!立ち話も何ですし、お家にお送りしますよ」


 トーマさんが手を伸ばして僕からアーシェを受け取ろうとしている。
 え、渡す訳ないよね。抱える手に力が入ってしまった。
 アーシェは軽くプルプルと首を横に振り、頭をコテンと僕の首元に預けてスリスリしてくる。
 あは、僕がどれだけ我慢してるかも知らないで……。


「よし、一緒に帰ろうねアーシェ。動ける様になるまで僕が責任を持ってお世話しますから安心してください、じゃ」


「待て……」


 早口で言ってさっさと立ち去ろうとした所で、地を這う様なとんでもなく低い声で呼び止められる。


「わかってるか?相手は動けねーんだからな……?手ぇ出したら殺すぞ……」


 もうさっき殺されかけましたけどね?


「大丈夫です、は出しませんよ」


「口もだボケ。既に前科持ちだろ、さっきの忘れてねーからな……。何かあったら許さねーぞ」


 バレたかー。怖いだなぁ……。既に手を出してるのがバレたら今度こそ本当に殺されそうだよね。もうそう簡単には殺されてあげないけど。
 アーシェがオロオロしてて可愛い。


「何もしませんよ……」


 今はね……。
 まだ固まったままのトーマさんの横を抜けて、僕らは無事街に戻って来た。




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