秘密の多い薬屋店主は勇者と恋仲にはなれません!

白縁あかね

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六章 前世の秘密

32話 アーシェとカイルの関係 sideカイル

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 目が開けられない。
 他に方法がなかったとは言え、愛する人をこの手で殺した。
 開けたらその現実を見なければならない……。


 でも、ずっとこのままではいけないよね。自分で決めた事じゃないか。


「ふー……」


 大きく息を吐いて覚悟を決める。屈めていた体を起こして目を開けようとしたその瞬間……。


「大変だわ!カイルっ……この回線まだ使えてるかしら……使えてると信じて話すわね」


 頭の中で、懐かしい様な、比較的最近聞いた様な声が聞こえる。名前も呼ばれているし、僕に話しかけているので間違いはないと思うけど……。


「これからケイトがこっちに戻ってくるはずだから、あなたも一緒に帰ってきて!あなたにしかできない事があるの……お願いね!」


 こちらの返事も待たず、言うだけ言って声は聞こえなくなった。
 何だろ今の……。幻聴……にしてはケイトさんや僕の名前がハッキリ聞こえたしね。


 ……とりあえず目は開けないと。
 もう一度気合いを入れ直して目を開けた。


「っ!?」


 そこに横たわっていたはずの美しい青年の姿が消えている。なんで……。


「無事に女神様の元に行ったにゃ。何でか体まで連れて行ったみたいだけど、これで生まれ変わる事ができるはずにゃ」


 床に降りていたケイトさんが再び台座に登り、お座りして毛繕いを始めた。


「女神様が……。ケイトさんはこれからどうするんですか?」


「んー?ボクの役目はご主人様を見守る事だったからにゃあ。そろそろ天界に帰るけど、ご主人様のこれからを聞いたらまた来るにゃ」


 もしかして、さっきの声は僕に天界に来いって言ってたのかな?
 そんな事ができるんだろうか……。


「ケイトさん、変な事をお伺いしますけど、それって僕もついて行く事はできますか?」


 ピクンと耳を動かして、毛繕いの作業を中断する。
 こちらに向いた顔には、何で?と書かれている様だ。


「できない事は、にゃいけど……。天界には魂だけで行く事になるから、無事にその体に戻れるかはわからにゃいよ?死ぬ事はにゃいけど、意識が一生戻らない事もあり得るにゃ」


 成程……。
 さっきの声が幻聴でないなら、恐らく相手は女神様なんじゃないだろうか。だとしたら、アーシェに何かあったんじゃ……。


「たぶんなんですけど、さっき女神様の声が聞こえたんです。ケイトさんが戻ってくるはずだから、僕も一緒に来る様にって」


「……何でかは仰ってたかにゃ?」


 少し思案して口を開いたケイトさんは、僕の目を真っ直ぐに見ている。僕の正気を測っているのかもしれない。目をしっかりと見返して、ハッキリと答えた。


「僕にしかできない事がある、と。詳しい内容は仰っていませんが、とても焦っている様子でした」


「ふにゅ……わかったにゃ。じゃあ、その台座にもたれ掛かって目を閉じるにゃ」


 無事に認められたらしい。
 言われた通り、座っていた台座から降りてもたれ掛かった。
 目を閉じるとアーシェの事が思い浮かぶ……。どうか無事でいて……。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「やっときたわね!早く早く!大変なのよ!」


 ぐらりと目眩に襲われたかと思うと、急に先ほどの女性の声がした。


「ただいま戻りましたにゃ。早々に騒がしい様ですが、何かありましたかにゃ?」


 目を開けると真っ白で床も何も区別がつかない場所で倒れていた。


 二本足で立つ紳士的な格好の猫からケイトさんの声がする。これが本来の精霊としての姿かな?


「あの子がっ……私の大事な愛し子が……。どうしてこうあの子には変な事ばっかり起こるのかしら……」


「落ち着いてくださいにゃ。ご主人様に何かあったんですかにゃ?」


 金髪碧眼の女性がうろうろしながら頭を抱えている。よく見ると足はうごいていない。どうやら浮いているみたいだ。


「せっかく天界ここに戻ってきたかと思ったら、意識が奥に沈んでしまっているの!このままじゃ創り直しても意味がないわ……」


「創り直し……?生まれ変わりではなくですかにゃ?」


「……?そう言ってたでしょう?」


「……それで、勇者にしかできない事とはなんですかにゃ?」


 僕にはよくわからない会話が続いている。どうやらケイトさんが話しをきいてくれているみたいだ。
 とても不満そうな顔だけど、大丈夫だろうか……。


「流石に一度沈んだ意識は私でも呼び戻せないでしょうし……そこでカイル!あなたの出番よ」


 パッと動きを止めてこっちを見つめる女神様らしき女性の目線を追う様に、ケイトさんもチラリと僕を見た。
 やっぱりアーシェに何かあったらしい。なら僕の返事は決まっている。


「僕は……何をしたらいいんですか?」


 コクンと頷いて、話しの続きを促すと、女神様も頷き返して口を開いた。


「あの子……今はアーシェかしら。彼の深層意思に潜って、アーシェを連れ戻してほしいの」


 ……えっと、どこかに行ってアーシェを連れ戻すのだけはわかる……。けど内容が一切わからない。どこに?どうやって?


「待ってくださいにゃ。あくまで女神様がお創りになったのは勇者の体だけにゃのに、ただの魂にそんな事ができる訳……」
「カイルだから頼んでるのよ。きっとアーシェは前世の記憶に迷い込んでいる。そこに行けるのは前世で近しい関係にあったあなただけだわ」


 アーシェと僕が?前世で近しい関係……?


「そうよ、これでどうかしら。色々説明も省けるし、丁度いいわ。あの時のあなた全部覚えたままだったしね」


 女神様が僕を指差したかと思うと、バチンと頭の中に電流が走ったような衝撃を受けた。
 痛くはないけどそれが一番正しい表現に思う。
 衝撃と同時にある記憶が流れ込んできた。それは僕と女神様が初めて会った時の記憶。そうだったんだ……。


 ……僕はを助けるために、殺す事を承知で生まれ変わっていた、のか……。


「そうよ、だから気落ちしてる場合じゃないわ。まだ救えていないのよ」


「……アーシェのところに、連れて行ってください。今度はが追いかける番ですから」




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