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七章 アーシェの秘密
37話 ムカつく嬉しいサプライズ
しおりを挟む「ふにゅ、ほぼ覚えてるみたいだにゃ」
ケイトが短い足を器用に組んで、優雅に紅茶を飲んでいる。
オレもいただこう。
「何それ。あまりにも扱いが雑なのでは?」
カイルが両手を握りしめて肩を震わせている。本人よりも怒ってくれるなんて、やっぱりカイルはオレの味方でいてくれるんだな。
「だって良かれと思ってつけた加護があんなに影響するだなんて思わなかったのよ……それに、役に立った加護もいくつかはあったはずだわ。あなたにも恩恵があったはずだけど……雌雄の種とか」
「っ……それはそうですが、あまりにも説明不足でしょう」
カイルの顔が赤い。そんなに怒らなくていいんだぞ?
「カイル、オレは大丈夫だ」
カチャリとソーサーにカップを戻し、握られた手の上に自分のを軽く添えると、カイルも力を緩めて手を繋ぎ返してくれた。
女神に話しの続きを目で促すと、頷いて口を開く。
「あなたを送り出してすぐ、世界が大きく揺らいだの。強すぎるあなたの存在に、多くの者の運命が引き寄せられて、書き換えられてしまったのよ……。風をおこすどころか、嵐だったわね。流石の私も慌ててケイトを世界に送り出したわ。その時はなるべく早くあなたを呼び戻す事が最善だと思ったのよ」
ここからは初耳の話になりそうだ。でもやっぱりオレのせいで皆んなの人生をめちゃくちゃにしてしまったんだな。
「ご主人様、あまり気負ってはダメにゃ。これは決してご主人様のせいじゃにゃいんだから」
「そう、あなたのせいじゃないわ。ケイトを送り出した後、あなたの未来が見えて魔王になる事がわかったの。だから勇者を送り込む事にしたのよ」
皆んなの視線がカイルに集中する。そう言えば廻瑠の魂も元の世界から連れてきたんだろうか?
「いたのよそこに。ちょうどいい拾い物をしたわ」
女神節過ぎて意味がわからん。だから何でそこにいるのかが聞きたいんだよ。
「またそれだと説明不足です!僕がここにいられたのは、雅くんのおかげなんだ。君がオレを追いかけて来てくれたから、オレ達の魂は混ざり合う様に絡まっていて、一緒に世界を渡ってきたみたい。それから君だけが先に転生してしまって、僕が切り離されてしまったんだ」
「で、ちょうどそこに転がってたと……ふっ」
女神節を一喝したカイルがわかりやすく説明してくれたけど、その辺に転がってるコイツを想像して少しツボった。
「そうそう。それで、急遽な事だから、私の子として生み出した体を使ったのよ。その方が加護も馴染みやすいからね。それからいつも通り、記憶も沈めて自我が生まれる前に体に移して……まぁそこで少しやっちゃったのよね」
そう言えばケイトが予想してたな。まさか……。
「うん、落としちゃった。だってすんごくうまく創れたのよっ。喜ぶに決まってるわ!聞いてくれる?まずやっぱり勇者なら強くないとダメでしょう?でもいきなり強くても心の成長にならないから……」
「ストップにゃー。話が逸れるからストップー。本当は王家に縁のある貴族に引き取ってもらえる様な所に降ろすつもりだったらしいにゃ」
成程、でも平民になっちゃった訳ね。ある意味良かったのでは?貴族なんて碌なもんじゃない。
「そうよねー。あなたをすぐに捨ててしまう様な人達だもの!今思えばこれで良かったのよ」
「え……」
オレ貴族の子だったの……?いや、確かに生まれた時はバタバタしてて気にならなかったけど、そう言われたら家デカかったな。
「でもただの平民だと苦労も多いかと思って、神託を下したのよ。あなた達が惹かれ合う事もわかってたし、ちゃんと神託で宣言しておけば、平民だからって無理矢理誰かと結婚させられたりもしないかと思って」
そうだよ、神託っ。何だアレ。
繋いだままだった手をぎゅっと握りしめる。カイルからも緩く握り返されて、少しは落ち着いて話せそうだ。
「オレ達がこうなる事がわかってて、何故あんな神託を?聖女と結ばせてどうするつもりなんだ?」
「聖女?なぁに、それ?」
「えっ、聖女を知らない?あんたが何か手を回したんじゃないのか?回復魔法が得意な女性で、教会が聖女に育てたらしいんだけど」
「知らないわ。私はちゃんとあなた達が結ばれるって言ったけど」
何だったっけ……神託の言葉。
「『この世に我が子を落としたり。勇者として育ち、闇を祓いて我が愛し子と結ばれるだろう』……ね?」
あーそうそう、そんな感じだったわ……で?
ね?じゃなくない?
「それさ、オレの事知らない人が聞いてもオレだってわからなくね?散々暴走しまくって魔物活性化させてるやつを、誰が神の愛し子だと思う?しかも魔王よ?無理じゃね?」
「……そうなの?」
疑問を投げられたケイトが盛大なため息を吐く。これだから神ってやつはって顔だな。
「伝わらないでしょうにゃ。実際、間違った人間を選抜して育て、勇者に充てがっていますからにゃ」
「私ったら、またやったのかしら……。でも、あなた以上に愛された存在なんていないでしょう。全属性の魔法を使えて、独自の魔法まで編み出したくらいなんだから」
また女神が落ち込んでしまったみたいだ。
……ん?
「独自の魔法?」
「えぇ。薬を介してのみだけど、光の回復と聖の治癒を掛け合わせた魔法を使ってるじゃない。あれはあなたが作り出した新たな複合魔法よ」
ケイトの耳がピクンと反応する。
あれって何某の加護のおかげじゃないの?
「ハイヒール……聖属性だけではなかったんですかにゃ?」
「瀕死の人を救えるなんて、ほぼほぼ私達の領域よ。聖属性単体の魔法じゃ精々傷の完治だけでしょう。カイル、あなた一度ここに戻って来かけてたでしょ?あんなの呼び戻せるなんてすごい事なんだから」
女神はカイルを見ているが、当の本人はいまいちわかってなさそうに首を捻っている。
……戻って来かけた?
「っ!まさかあの時!?」
「あのね、人間はあんなに頭部を殴打されれば普通死ぬわよ?私からも戻る様には手助けしたけど、あの状態の体に魂は定着できないわね。あなただから救えたのよ。ほら、愛し子なんて表現あなたにしかあり得ないのに……」
あっぶな!あぶない所だったなヴァンさん!ほんとうちのパパはオレが絡むと容赦ない……これからはオレの事なんか忘れて幸せになってほしいな。
未練を残さない為に、最後は短い手紙をケイトに届けてもらったんだ。
死にそうだから魔王城に勇者送ってくれって、ただそれだけ。ほんとオレってば前世も今も親には碌な事してねーな。
「?これから親孝行していけばいいじゃない」
「え?」
「だからー、これから戻ったら、今度は後悔しないようにすればいいのよ」
戻る?どこに……。
「アーシェ。女神様がね、新しく君の体を創ってくれたんだよ。今の姿と変わらない、アーシェの体を」
なんだ、そーゆー事か。ほんと女神節わかりにくい。まったく……は?
「今までと変わらない生活ができる程度の加護はつけたけど、余計な加護は付けてないし、私の子だからかなり頑丈よ。もう魔力が暴走するなんて事はないわ。今度はカイルもいるし、ケイトも契約してるから、私に聞きたい事があれば、いつでも呼ぶといいわ」
戻れる……あの街に?オレのまま?本当に!?
「そもそもそのつもりだったのよ?作り直すって言ってたつもりだったんだけど……言ってなかったかしら?」
呆然とするオレを、カイルもケイトもにこやかに見つめてくる。お前ら先に知っててわざと黙ってたな……。
「サプラーイズ。なんてね」
今世でもコイツには勝てる気がしない。
くっそ!ムカつくけど嬉しいからぎゅってしてやる。これからは素直になると決めたんだから。
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