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五章 魔王の秘密

31話 魔王封印の真相 sideアーシェ三歳

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 女神はオレにこう言った。
「私の世界ハコニワで自由に生きてほしいのよ」


 そして、その女神が遣いに出してきた猫はこう言った。
「その体は一度壊すしかないにゃ」


 神の御心は人間ごときには計り知れない。価値観も違う。物事を測る物差しのスケールが違いすぎるんだ。理解できなくて当然なんだろうな。


 あぁ!理解できるかこんな事!!
 死にたいと思っていた時に殺してもらえず、死にたくなくなった頃に死ねだと!?
 ふざけんなよ。絶対に死んでなんかやるもんか。アーデと魔族のみんなとずっと幸せに生き抜いてやるよ!!


 神相手に無謀だったんだよな。逆らった罰ってやつ?だからってオレに殺させるかね……。




 

 「アーデ、親不孝なオレを許して……オレもアーデを愛してるよ」


 玉座によじ登り、アーデの膝の上に座ると、用意していたナイフでアーデの心臓を貫いた。安らかに眠れる様、願いを込めて。


 その瞬間、溢れ出ていた魔力はピタリと止まり、息子であるオレは人間でありながら魔王を受け継いだ。魔族間で話し合った結果、オレに受け継いでほしいと頼まれたから。
 アーデの本当の家族と認められたみたいで嬉しかったんだ。


 大仕事を終えた安堵感と、それを上回る悲しみと罪悪感。
 アーデに拾われてから、死んでたまるかと奮闘してきたが、果たしてオレにここまでして生きている価値なんてあるだろうか。


 アーデに刺したナイフをゆっくりと引き抜く。勢いよく自分の胸に突き立てようとして……刺さる直前でナイフが弾き飛ばされた。


「はっ……死ぬしかないって言ったくせに、死ねなくするなんて意味わかんない……はぁ」


 オレには前世の記憶なんてないけれど、女神曰く自殺したらしい。今度は自殺できない様にしたからって言われてたけど、それは自殺したオレへの罰か?それなら充分過ぎるほど効果的ですね。流石神様。


 玉座から降りてナイフを拾い上げる。
 アーデの血を見ているのが辛くて、ナイフに洗浄魔法を掛けた時、違和感に気づいた。


「あれ……魔力がもう回復した?」


 無風だった室内に緩く風が吹く。地下へ続く扉の隙間に吸い込まれる様に……。


「なっ!?まさかっ!」


 嫌な予感がして、自分の本体が眠る地下へ急いで向かった。





「クッソ!嘘でしょ!?このままじゃまた暴走する!」


 予想通り、アーデの魔力がオレの本体に流れ込んでいる。
 どうしたらいい!?と、とにかくケイトに聞いてみるしか……。


「精霊よ、契約に従い我が元に来たれ。ケイト!」


「っ!ご主人様、何だか様子がおかしいにゃ!魔気が全然集められにゃ……くて……」


 アーデの暴走で広がった魔気の回収を頼んでいたケイトを呼び出す。
 オレの本体を見た途端、段々と言葉を失っていく。


「たぶん、アーデの魔力循環と魔力を得たんだ……アーデの魔力を吸収してるし、発散してもすぐに回復する。このままじゃ暴走しそう……どうしたら……」


「はぁ……また変な加護かにゃ。これは止められないにゃ、仕方にゃい。ご主人様、本体を封印するにゃ。その体を要にすれば、本体の暴走を閉じ込めておけるはずにゃ」


 ケイトはお座りして耳をガリガリとかく。


「封印?どうやって?」


「他の魔法と変わらないにゃ、イメージして魔力を放出すればいい。まずは本体を魔力の膜で覆うんにゃ。なるべく分厚くにゃ。で、その上から魔力の檻で閉じ込めて鍵を掛ける。そして最後に、その鍵をその体の心臓に刺すにゃ」


「……わかった、やってみる。あ、これも一緒に」


 アーデに刺したナイフを、本体に胸の前で持たせる。いつか死ぬ時はこれで死にたい……。


 オレは集中して封印に挑戦した。
 まずは膜で覆う、なるべく分厚く……よし。次は膜を檻で……。
 ーーバリンっ!!


「うわっ!」


 本体を覆っていた膜が勢いよく弾ける。


「落ち着くにゃ、やり方は間違ってにゃいから。本当ならこんな事、人間のできる所業じゃにゃいし、一度や二度の失敗は当たり前にゃ。一つ一つの工程で持ってる魔力を全部注ぐにゃ。もう一度!」


 ケイトに励まされ、何度も失敗しながら封印を施す。すぐに回復するとは言え、毎度毎度枯渇する魔力に、体は悲鳴をあげた。


「はぁ……これで、最後」
 

 目の前には魔力でできた鍵。これを、心臓に刺す……。
 段々と鍵が近づいてくる。スッと目を閉じ胸を張ると、胸の辺りが熱くなった。


 熱が冷めると同時に、張り詰めていた空気がパッと霧散する。
 封印の中では目視できるほど禍々しい魔力が渦巻いていた。


「お疲れ様、ギリギリだったにゃ。中で暴走はしてるみたいだけど、魔力も隔絶してるからこれ以上酷くはならないはずにゃ。これでその体が消えない限り、この封印が解ける事はないにゃ」


 ケイトの声で緊張の糸が切れた体がドサっと倒れる。満身創痍とはまさにこの事だ。


 ケイトが教えてくれた時に素直に死んでおけばよかった。こんな事になるなんて思ってなかったんだ。
 封印もしたんだし、このまま生きていける……なんて希望は持っちゃいけない。生きるって選択をしてどうなった?だから女神はオレに死ぬしかないって言ったんだ……。オレは生きてちゃいけなかったんだ。
 早くオレを殺してくれる人を探さなきゃ。


「はぁー……そうだ。アーデ、見送ってあげなきゃ……」


「これで魔気も集められるだろうし、ボクももうひと頑張りしてくるにゃ」


 のそりと起き上がり、オレはケイトと共に地上へ戻った。





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