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五章 魔王の秘密
28話 魔王討伐へ sideカイル
しおりを挟む昨日も楽しかったな。初めての釣りだったけど、あんなに釣れるものなんだね。
宿屋に帰っておかみさんに渡したら、びっくりしてたよ。
アーシェも楽しんでくれてたみたいで良かった。
あれから無事に帰っただろうか。最後に何か言いかけてたみたいだけど……。今日の演習が終わったらまた会いに行って聞いてみよう。
今日からはついにヴァンさんとの演習だ。
少し顔がヒリつくのは気のせい気のせい。
パンパンと両頬を叩いて気合いを入れ、仲間と一緒にギルドへ向かう。
道中、心なしかいつもより武装した人が多い気がした。
「こんにちは。今日からよろしくお願いします」
受付に座るトーマさんの前に座っていたヴァンさんに声をかける。ギルドの中もいつもより騒がしい。
何かあったんだろうか?振り向いたヴァンさんの顔がとても険しい。
「あぁ、来たか。急で悪いが……お前ら、魔王城に行って魔王を殺してきてくれ……」
ヴァンさんとトーマさんが僕を睨みつける。
何かの罰だろうか?身に覚えがないんだけど……。
「すみません……僕、何かしましたか?」
「冗談で言ってんじゃねぇよ。……実は魔王の封印が解けかけてる。どっかのバカが封印の要を傷つけたらしい」
「え?魔王って封印されてるんですか?」
魔物の凶暴化は魔王のせいだって聞いてたのに…… どう言う事だろう。
「そこから説明が必要だったか。そうだ、魔王は魔力暴走を起こして封印されてる。そこから漏れ出た魔力が森の魔物を凶暴化させてやがるんだ。暴走を止めるには殺すしかねぇ。だからお前らには、封印を解いてから魔王を殺してほしい。解いたら一気に魔力が吹き出てくるだろうから、なるべく早く……やってくれ」
何だろう。始めはめんどくさそうに睨みながら話してたのに、段々と弱々しくなっていってるのは気のせいかな……?
「わかりました……。まずは封印の要を壊せばいいんですね。それも魔王城にあるんですか?」
「あぁ、謁見の間で待ってる。正面から入ってひたすら真っ直ぐ、突き当たりにある扉が謁見の間だ。とにかく行きゃわかる」
ヴァンさんは話は終わりとばかりに立ち上がる。何故そんなに魔王城内部に詳しいのか、何が待ってるのかとかは教えてもらえなさそうだ。
「あ、アーシェに会ってから向かっても大丈夫ですか?」
昨日最後まで送れなかったし、今日無事に帰って来られるかもわからないからね。
「アーシェさんは所用で街にいません。ポーションが欲しいのであればこちらでご用意しますのでお申し付けください。時間も一刻を争うので、すぐにでも出発しなければなりません」
「そう……ですか。」
トーマさんの顔も険しい。それだけ危うい状態なんだろう。
アーシェの顔が見られないのは残念だけど、僕達が魔王の暴走を止めれば街は守られる。結果的にアーシェが守れるならそれで……。
僕らはヴァンさんとトーマさんに連れられて森の入り口の門へ向かった。
着いた門は固く閉ざされていて、鎧を着た冒険者や街の住人達で溢れていた。
「門を開けてくれ。勇者が出発する」
ヴァンさんが門番さんに声をかけると、ガガガっと音を立てて少しだけ門が開く。
「これから俺達は、押し寄せるだろう魔物に備える必要がある。見送りはここまでだ」
「はい、ありがとうございます。じゃあ、行ってきます」
見送ってくれた二人に背を向け、門に向かって歩きだす。
「っ!?」
ーーーガキンっ!
急に背後から殺気がして、剣で受け止める。
危なかった……。顔ギリギリに細い刀身が迫っている。真剣だ……。
「お前なんかに……」
「やめろトーマ。一撃だけって約束だ。防がれたら諦めろって言ってただろ」
「……チッ」
トーマさんは鬼気迫る様子で僕を睨みつけながら、仕方ないとばかりに剣を弾いて刀身を納めた。
察するにヴァンさんも承知の状況らしい。
「何をしてるの!?急に襲いかかるなんて、これがこの街の見送り方なのかしら!」
「はっ、野蛮な思考ですね。雑魚のまま送り出しても意味ないでしょう?試しただけです。今のを受けられるなら少しは安心ですね。お気をつけて」
ザッとパーティ三人が僕とトーマさんの間に入ってきたが、トーマさんはヘラっと笑って雑踏の中に消えていった。
「アイツにも複雑な事情があってな。お前が悪い訳じゃねーが、許してやる必要もねーし、俺らも謝らねーよ。魔王城までは馬に乗って行け。乗り捨てりゃ勝手にここまで帰ってくるからよ。悪ぃが帰りは徒歩だ」
門番さんが四頭の馬を連れてきてくれる。
剣を鞘に収めて、それぞれ一頭ずつ手綱を握った。
「……わかりました、ありがとうございます。この子達が襲われては大変ですもんね」
さっきの攻撃は気にしない事にした。きっとあれはトーマさんと、ヴァンさんにも必要な行動だったんだろうと思うから。
僕らは馬に跨って、街を後にする。
後は頼んだと聞こえた声は、いつものヴァンさんらしからぬ弱々しい声だった。
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