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四章 失踪の秘密
27話 聖女の暴走
しおりを挟むうーん、どこなら誘き出せるかなぁ。崖の上とかそれっぽい?
オレは今、暗い森の中を一人で歩いている。カイルとは、今しか採れない薬草を採集するからと帰る途中で別れた。一緒に行くとかなり渋ってきたが、魚の鮮度が落ちるから、とっととパールさんに届けてほしいと追い返した。
月明かりを頼りにズンズンと森を進むと、少し開けた場所に出る。
うん、いい感じの崖だ。ここまでオレに不利な地形なら流石に出てきてくれるだろう。
今まで嘘はつかないようにしてたのに、お前のせいでついちゃったじゃん。
「いい加減出てきたら?まさかここまで追って来るなんて油断したよ。キミ、結構前からちょいちょいオレを見張ってるよね?……聖女様」
ガサガサと草木の擦れる音をたてながら、木の影から長いローブを羽織った聖女が現れる。
「やはりバレていたのですね……」
「そりゃね。でもカイルにはバレてなかったですよ。で、オレに何かご用です?」
聖女は持っていた杖をギュッと握りしめ、ギッとオレを睨みつける。
そんな目で見られる様な事をした覚えはないんだけど。
「貴方は何者なんです?その姿っ……怪し気な妖術でも使っているのですか?」
さっきの湖から覗き見られていたし、隠す必要もないかと思って、元の姿のままだ。
「妖術って……別に普通に魔法使ってるだけですよ。何者かと訊かれても、オレはただの薬屋です」
「嘘っ!だっておかしいじゃないですか!あんな状態から完全回復なんてっ……。私がどれだけ厳しい修行をしても辿り着けない境地を……そんな簡単にできる訳が……」
あぁー、初回のアフターケアの件か。スルーしてくれたのかと思ってたけど、怪しむ方に溜め込んでた訳ね。
「ふははっ」
「なっ、何がおかしいんですか!?」
「いやぁ、ごめんなさい。普通そうだよなって思って。気になったら訊いちゃいますよね。でもね、オレ、カイルに何も訊かれてないんです。治療された本人が何も訊いてこないのに、なぜ関係のないキミに教えないといけないんです?」
聖女は、オレをバカにした様な顔でふんっと鼻を鳴らした。
「そうやってはぐらかすのですね。どうせ言えないだけでしょう?あの時、勇者様に何か妖術でもかけたのですか?勇者様のお心を奪ったつもりでしょうが、無駄ですよ。そのうち神の御導きで私達は結ばれる運命にあるのですから」
「……は?」
知らねーよ。さっきから何だよ妖術って。大体、心を奪っていったのはアイツの方だろうが。
聖女はうっとりとした顔でトリップしている。そのままどっか行ってくんねーかな?
「ふふふふふ……。あぁ、女神アムテミス様。貴女の御導きにより、魔王を倒した暁には私と勇者様は一つになるのですね……」
「なっ!?何でその名前を知ってる!どこで聞いた!!」
その名前だけは聞き捨てならない。
オレの人生を弄び、カイルを創り出した女神。それがアムテミスだ。
しかし女神はこの世に名前を残していない。
知っているなんてあり得ないはず……。
「教会に決まってるじゃないですか。十八年前、女神様から御神託があったのです。
『この世に我が子を落としたり。勇者として育ち、闇を祓いて我が愛し子と結ばれるだろう』
その愛し子とは私の事なのです。生まれた時から回復の魔法を振り撒いていた私を、教会の司教様が見出してくださいました。通常、教会に所属する僧侶は出家しなければいけませんが、私は勇者様と結ばれる為に出家しない聖女となったのです。」
「神託……?」
「ええ。教会の上層部と神託に直接関わる者にしか伝えられない女神様からのお告げです。混乱を防ぐ為、王家にも伏せられているのですよ」
そんなのがあるなんて知らなかった。
生まれた時から回復の魔法なんて、オレとは正反対だな。最初から決められた事だっだって事?勇者と聖女が結ばれる……?
あぁそうか、だから女神はオレに……。コレがオレの役割だったんだな……。
「そうですか……。それで?聖女様と勇者様が結ばれてハッピーエンドってやつですか?残念ですけど、そうはならないですね。勇者様は既にオレと結ばれてますから。あったでしょ?勇者様が朝帰りした日が。今日だって出歯亀してたならわかるでしょう。神託なんて当てにならないもんですね。」
聖女を軽く煽ってやると、顔がみるみる赤く、そして醜く歪んでいく。怒らせすぎただろうか。ふん、少しくらい意趣返ししても許されるだろう。
悪者らしく振舞えているだろうか。カイルが幸せになれるなら、当て馬だって何だってしてやるよ。丁度良いじゃないか。オレは誰とも結ばれず朽ちていく。そう望んでいたんだから。
「そんな……許されません。神託は、絶対で……」
聖女がフラフラと近づいてくる。ちょっと様子がおかしいな?どこまで近づくんだよ。
ザリっと片足が少し後ずさる。
「そう、そうですよ……」
ガッと鳩尾の辺りに衝撃が走る。
「あっ……え?ぐ……これは、予想してなかったかも……」
足の力が抜けてぐらりと体が後ろに傾いた。
オレの腹部には深々とナイフが突き刺さっている。
ギリギリまで両手で杖を握っていたはずだし、ローブでナイフも見えていなかった。殺気もなくて油断したな……。
「貴方さえいなければいいんですね」
トドメにナイフを抜かれ、いい笑顔で胸をトンと押される。オレの体は吸い込まれる様に崖の下に落ちていった。
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