秘密の多い薬屋店主は勇者と恋仲にはなれません!

白縁あかね

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四章 失踪の秘密

23話 ヴァンさんの挑発

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 手慣れてやがったな、アイツ。やっぱモテる男は違いますわ。
 家に着くまでオレの分のカゴも持ってくれるし、空いた片手で手を繋いできて、エスコートまで完璧だった。
 何かすげームカつく。駄犬かと思ったらとんだ狼だったし。
 オレ……初めてだったのに。あんな……あんなベロベロ……。どうせ今までにも同じ様にしてきたんだろ、他の女に……。
 ムキーっ!もぅ考えるのやめじゃ!


 実はあれからもう数日が経っている。なのに悶々と考えてしまうのは、結局カイルがほぼ毎日会いに来るからだ。演習が終わった後から夕飯までのちょっとした時間。今日はどうだった、とかのたわい無い会話をして帰って行く。帰り際には毎回……キ、キ、キ……。
 顔が赤い?部屋が蒸し暑いだけですし!!


 カランカランーーー


「ん?どうした、こんな寒い日にその顔は。風邪か?」


 ヴァンさんが入店するや否や、窓際の椅子に座って手を広げる。
 いきなり寒いってバラさないでほしかった。


「違うからほっといてよー。そんな事よりパパはサボりですかぁ?最近結構来るけど、お店大丈夫?」


 ヴァンさんの膝に自分から座って、腹回りをぎゅーっと抱きしめる。
 気分はコアラだ。あったかいし落ち着く。
 しかし最近本当によく来るな。カイルが思いの外早く成長しているせいかもしれない。


「あぁ。どうせ殆ど修理依頼だ。そんなもん後でいい。それよりそろそろ魔王討伐の話をしねーとなって思ってな」


「そうだね。きっとここにも影響があると思う。前は漏れ出た程度であの被害だから、今回はきっとあの比じゃないレベルのスタンピードが起こるかもしれない。それに、魔族側にも被害があるかもしれないし、魔族のみんなはここに呼べない」


 ヴァンさんがオレの頭を撫でる。天辺から後頭部までを優しく何度も往復されて、カイルに後頭部を押さえられていた時の事を思い出してしまった。


「だな。まぁでもなるようにしかならんだろ。勇者一行あいつらの出発前に女子供は隣町に逃す……お前、さっきから何だその顔。やっぱ熱でもあんじゃねーか?」


 こつんとおでこにヴァンさんのおでこがぶつかる。あの時はアクアマリンだったのに、今は漆黒のオニキス……オニ、キス。
 見えないけど、自分でも赤くなっているとわかる程にぼっと顔面が熱くなる。


 カランカランーーー


「こんにち、は……」


 パッと振り向くと、店の扉を開けた姿勢のまま、入り口でカイルが固まっていた。
 あわわ。カイルには年齢知られてるのに、これは恥ずかしいぞぉ。
 そっと膝から降りようとすると、ヴァンさんに抱き止められる。


「いらっしゃいカイル。ちょっとヴァンさん、下ろしてよー」


「あぁ。続きはまた今度、トーマも入れてな」


 そう言うとヴァンさんはオレのほっぺにむちゅっと唇を押し付けてくる。そのままほっぺすりすりのおまけ付き。
 やだ!何この親離れできてないところを友達に見られた時みたいな感じ!恥ずかし過ぎる!ヴァンさん何やってんのさっ!!


「ちょっ!ちょっとヴァンさんっ!カイルがいるのに恥ずかしい……」


「いつもはお前からしてくれんのに、今日はしてくれねーのか?」


 そうじゃないそうじゃないそうじゃないーっ!!


「もうっ!意地悪なヴァンさんにはしてあげない!」


 バシッと胸元を押した反動で膝から降りる。
 カイルは相変わらず固まったままこっちをジッと見ていた。


「ごめん、騒がしくて。今日はもう演習終わったの?」


「う、うん。それから、ジムさんが次からはドンさんに相手してもらえって……」


「ほぉ?もうすぐ俺の出番だな。どれだけ強くなったか楽しみにしてるぜ」


 ヴァンさんが挑発的な笑みを浮かべる。
 カイルは珍しく眉間にシワを寄せ、ヴァンさんを睨みつけた。


「そうですね。あの時の様にはならないとお約束しますよ」


「はっ!勘違いすんなよ?俺は別にお前の敵じゃねぇ。お前がるべき相手は魔王だ。俺くらい軽く捻ってもらわねーと困るんだよ」


 ヴァンさんはツカツカとカイルの前に立つと、ポンと肩に手を乗せた。


「俺達はお前に命預けてんだよ。約束すんなら絶対に魔王を殺るって約束しろ。それすらできねーやつにアーシェはやれねぇ。魔王相手にもその殺気を向けられる事を祈ってるぜ」


 言いたい事だけ言って、さっさと帰ってしまったヴァンさんの後ろ姿を、カイルは見えなくなるまで睨みつけていた。
 何さ、オレをやるとかって……え?ヴァンさんオレ達の事どこまで知ってる!?
 今度は親に隠していたエロ本が見つかった気分だ。やめて恥ずかしい!!
 再びボッと顔面に熱が集まってくる。


「あーっ、カイル?別にヴァンさんも悪気があってあんな事言うんじゃないんだよ?昔色々あってさ、ちょっと過保護で大袈裟なんだ」


 う……ちょっと焦って大きな声出ちゃったかも。


「アーシェの大切な人?」


 いつもより声が冷たい気がする。背中を向けたままだから、表情はわからない。


「ん?そうだね。ずっとオレを支えてくれた人だから。街のみんなもだけど」


「そう……。アーシェ、ご褒美の事なんだけど、今からでもいいかな?」


 パタンと扉を閉めて鍵をかけると、掛け看板をOpenからClosedにひっくり返し、カイルはこっちに振り向いた。


「え、急にそんな……」


「アーシェの部屋に行きたいな……僕はここでもいいけど?」


 近付いて来たカイルの表情が読めない。いつも通り誰しもを惹きつける柔和な顔つきだが、目が笑っていない様に見える。
 肩にカイルの腕が巻きつけられ、もう片方の手で顎をクイっと上向かせられた。
 熱の籠ったアクアマリンが突きつけられる。


「ちょっ、ここじゃダメっ!わかったからちょっと離れて」


「うん、わかった。じゃあ部屋に案内してくれる?」


 身長差があって良かった……。あんなのを目の前に突きつけられたら、ここで喰われていたに違いない。




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