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三章 二人だけの秘密

19話 例の疑惑を確認してみた

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 ーーーカンカンカン。カンカンカン。


 やっぱり来たか……。とてつもなく居留守を使いたいが、流石に約束を破るのは良くない。ぐぬぬ……。


「いらっしゃい、今日お店は休みですよ。どんなご用件でしょうか?」


 悪足掻きだって?大いに結構。素知らぬふりで、訪ねてきた勇者を出迎えた。


「アーシェ、昨日トムさんの演習が終了したんだ。だから、その……君の都合さえ合うのなら、今日一緒に過ごせたらと思って。どうかな?急に来ちゃったし、都合悪い?」


 ぐっ!そうじゃん!別に今日と約束した訳じゃなかったんだし、予定入れておけば良かったんじゃん!
 律儀にお店まで休みにしてやる事なかったんだ……。いやもうほんとどうしたの最近のオレ!
 そんな捨て犬みたいな目で見るなよ!断りづらいなぁもう!


「いえ……都合は別に、悪くはないですけど。特に何も考えていなかったので、どうしたものかと……」


「そっか!良かった。じゃあ……アーシェの事が知りたい。いつも休日は何をして過ごしてるの?」


「いつもですか?うーん、ポーションの素材を採りに行ったり、庭の手入れをしたり……って、こんな所でなんですから、中にどうぞ」


 一緒に過ごすのはもう諦めた。今日を逃れたとしても、どうせいつかはしなきゃいけないなら、すぐ終わらせてしまおう。それよりまず、オレは勇者に確認しておきたい事があった。


「ありがとう、お邪魔します」


 前と同じ様に席をすすめる。
 お茶を用意して、お互いの前に置くと、対面で椅子に座った。


「えっと、色々話す前に、勇者様に確認したい事があるんですけど……。その、オレはこんななりしてますけど、実は成人しててですね、十八歳なんです。」


「そうなんだね。僕と同じだ。ふふ、何だか嬉しいね。」


 何が嬉しいんだ。それより年齢に対して特に反応なし?うーん……お前ロリコンじゃないの?


「あ、もしかして勘違いしてるのかな……。オレ、男なんですけど」


「ん?うん、そうだね?」


 性別も反応なし……ショタコンでもないと?
 もしかして見た目幼ければ年齢性別はどうでもいいとか?


「あー。見てもらった方が早いですね。勇者様には特に効果がないみたいなので見せますけど、他の人には黙っててくださいね?」


 年齢相応に体を成長させる。見た目も変えられるけど、オレは年齢操作しかしていない。本当に便利だよな、思念体。


 オレが子どもの見た目をしている理由はズバリ、人と深く関わりを持たないためだ。
 子どもなら可愛いがられて終わりだが、大人は、その……性的な対象として見られる事がある……。
 男が多い冒険者相手の商売だから問題ないと思っていたが、たまにいるんだよね……しつこく口説いて来る変態が。それがめんどくさくなって、見た目の年齢を下げている。


 勇者には意味がなかったので、バレても問題ない。むしろ、あの容姿でないとダメなら勇者とのこんな関係は終わるだろう。もしかしたら諦めてくれるかもしれない。だから一緒に過ごすだのなんだのの前に確かめておきたかった。
 流石の勇者もびっくりしたみたいで、パチクリと目を開いている。


「アーシェ、その姿は……」


「オレの本当の姿です。騙して申し訳ないとは思いますが、お気に召さなければ今日はお帰りいただいても……」
「綺麗だ……」


 ……は?はぁ!?
 い、今何て言った!?はーっ!?
 言われ慣れない台詞に顔が熱くなる。オレは今とんでもなく間抜けな顔をしているかもしれない。


「あっ、ごめん……つい。あまりにも綺麗だったから。あれ、また言った?」


 こっいっつっ……!わざとか!わざとなんかお前!
 そういえばコイツ、タラシ野郎だったな。いつもそんな調子で女どもをタラシ倒してんだろ。ふんっ、オレには関係ないけどな!どこでタラそうがどうでもいいんだからな!!


「ケホンッ。いえ、大丈夫です。言われ慣れない言葉だったもので、驚いただけですから。それより、本当は十八歳で年相応な見た目の男ですが……」


「あぁ、他の人には秘密なんだよね。教えてくれてありがとう。絶対に言わないよ。どんな見た目でも君は素敵だけど、成長した君は、なんて言うかその……とても魅力的だから、僕も秘密にしておきたいしね」


 どんな見た目でも、す、すて……すてーき、だと!?よくそんな小っ恥ずかしい事をしれっと言うな!?
 いや、そこじゃなくて。どんな見た目でも良いって事?何それ、見せ損じゃないか。諦めてくれるかと思って見せたのに逆効果?
 むしろ見せたせいでこっちがダメージ受けたわ!


「そ、そうですか。そうしていただけると助かります」


「うん、約束するよ」


 何故か勇者がモジモジしている。色々言われて困ってるのはオレの方なんですけど。


「あの、何か?」


「あっ、うん!その……僕には秘密じゃなくなったんだし、二人きりの時だけでもその姿でいてほしいなって思って」


 えっ。今日以降二人きりなんて状況ありませんけど?


「別に構いませんよ」


 だってそんな日はもう来ないからな。


「っ!ありがとう!ふふ、嬉しいな」


「いえ、そんな大した事じゃないですし……。それに、すれ違う程度の間とか、すぐ近くに人がいたりする所では戻しませんよ?」


 何がそんなに嬉しいんだか……。めちゃくちゃ笑顔じゃん。イケメンが爆発したらすごい破壊力なんだな。


「わかった。その方が二人だけの秘密って感じでワクワクするね」


 いやーっ!更に笑顔ーっ!!眩しすぎて直視できませんわ!
 少し緩くなったお茶をすすって、再び熱くなってきた顔を誤魔化す。
 別に昔からオレを知ってる人は知ってる事だし、二人だけの秘密なんて大袈裟なんだよ。
 だいたい、そんな機会はもうないんだからな!!




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