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二章 魔の森の秘密

18話 突然現れた不思議な子ども sideヴァン

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 何もねー。
 王国の隅にあるど田舎の村。主な特産品もなく、娯楽なんてある訳ねぇ。
 あるとすれば少しばかり他の村に比べて魔物素材が多く取れるくらいか。
 毎日毎日、畑仕事に明け暮れて、たまに出る魔物を狩るだけの日々。


 俺十八歳なんだが?何だこの枯れた生活は。同じ年頃の娘もいるっちゃいるが、こんな狭い村ん中で良い仲になったってチャカされるのがオチだ。正直は困ってねーし、孫孫うるせー両親にはわりーが、俺にはそもそも家庭を持つなんてのが向いてねーんだよ。


 最近は五歳になったトーマが剣を教えろってうるせーから、少し相手をしてやっている。この時間は嫌いじゃねぇ。
 子どもはかわいいと思うし、欲しくねー訳じゃねーが、叶わん夢だな。


 そんな毎日同じ様な日々が壊れる日が来るなんて、この時は思いもしなかった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 その日は何かがいつもと違う。少し曇ってるが、そんな事じゃなくて……。
 気持ち悪い空気が全身に纏わり付く様な感覚。嫌な予感がした。


「親父、お袋。今日は外に出んな。何かあった時にはすぐ逃げられる準備を……」
「キャーーーーー!!!!」
「魔物だ!!」
「何だこの数は!」


 急に外から悲鳴が聞こえる。魔物が襲撃してきたらしい。


「チッ!行ってくる!近所の連中連れて逃げろ!」


 武器を持って家を飛び出し、悲鳴が聞こえた方に走って向かう。
 既に何人かが戦ってはいるが、いかんせん数が多く、防戦一方で怪我人も出ている様だった。
 無我夢中で剣を振るうが、魔物はどんどん増え続けている。心なしかいつもより魔物が強い。家から火の手があがる。このままじゃ村が……!


「加勢する!我々は敵ではない!」


 急に現れたローブの集団から、次々に魔法が放たれ、魔物を一掃する。
 明らかに怪しいが、今は少しでも人手がほしい。
 謎の集団も加わって戦うが、何処からともなく現れる魔物の勢いは、一向に収まる気配がなかった。


「みんな!待たせてごめん!状況は……良くないか。魔気は抑えてきたから、後少し頑張ろう!」


 ローブの集団に声を掛ける青年……と言うには少し若い男。
 全身に強い気を纏ったその男は、長く結われた髪を振り乱し、見た事もない武器で魔物を掃討して行く。
 華奢な見た目に反してとんでもない強さだった。


 段々と魔物は減り始め、最後の一匹を倒す頃には、村はほぼ全壊していた。
 これからの事を考えると頭が痛いが、命があるだけ良いだろう。
 ザッと村を見渡すと、隅の方で先程の男がボロボロと泣きながら立っていた。


「おい、何泣いてんだ。お前らのお陰で助かったぞ。ありがとな」


 思わず男の頭をワシワシと撫でる。
 泣いてる子ども見るとほっとけねーんだよ。



「違う。オレのせいだから。お陰じゃない」


 乱暴にしすぎたか、手を払われてしまった。


「お前のせい?何の事だ」


 この魔物の襲撃は普通じゃねーとは思っていた。でもそれがコイツの仕業とも思えない。
 じゃねーとコイツは何の為にあんなに必死に戦ったかわかんねーだろ。


「オレが魔王の魔力を抑えられなかった。魔物が強かったのはそのせいだ」


 グッと眉間にシワが寄る。意味がわからん。魔王?そんな壮大な話になんのか?
 片手で頭をガシガシと掻いた。


「それってわざとなのか?」


「わざとと言えばわざと。オレにはすぐ動けなかった」


「そもそも何でお前が魔王とやり合ってんだよ。てかお前いつくだ。まだ若えだろ」


「息子だから。止めるのは当たり前。三歳だけど、歳は関係ないでしょ」


 は?三歳だと?まだ赤ん坊に毛が生えたくらいのガキじゃねーか。
 魔王の息子って事は魔族か。魔族の常識なんて知らねーが、それにしたっておかしな状況になってんだなって事くらいはわかる。


「……複雑な事情は察した。親父が相手なら仕方なかったんじゃねぇか?しかしお前……三歳とは。魔族ってやつは成長がはえーんだな」


「今は刀が振りやすいように大きくなってるだけ。本当はこれ。オレ人間だし」


 男は光ったかと思うとグングンと縮み、俺の胸元くらいあった身長が腰下くらいになる。
 人間で三歳のガキだぁ?コレが?
 ダメだ。俺だけじゃ理解しきれねー状態なのはわかった。だがもう一つわかる事がある。


「待て待て待て待て。魔族の常識がわかんねぇからハッキリ言えなかったが、人間だと?ならこれはお前のせいじゃねぇ。お前が気に病む必要は一切ねぇぞ。子どもは守られるもんだからな」


 目下の子どもを抱き上げる。三歳なんてまだまだ親に甘えて鼻垂らしてるもんだろ。武器振り回してつえーなんてあっちゃいけねぇ。
 無性にコイツは守ってやんなきゃならねーやつだと思った。


「とりあえずみんなの所に行くぞ。俺はヴァン。お前は?」


「アーシェ……」


「よし、アーシェ。お前の事を俺達に色々聞かせてくれ」


 村の惨状の割に、村人の被害は思ったより抑えられていたらしい。
 そこそこの人数が瓦礫に腰を下ろして集まっていた。


「どうしたヴァン。何だその子どもは」


「この騒動の事がわかるかもしれねーから連れてきた。話し聞いてやってくれ」


 椅子になりそうな瓦礫に座り、膝に乗せると、アーシェはぽつりぽつりと話し始めた。


 まず、俺達に加勢したローブの集団は魔族であった事。
 アーシェは魔王の養子で人間である事。
 騒動の発端は、魔王の死際に起こった暴走が原因であり、今は封印して安全になった事。
 自分では倒せないが、最終的にはその魔王を倒したいと思っている事を話した。
 アーシェは魔王から頼まれた暴走の抑止を躊躇ってしまった為に、多くの魔力が漏れ出した事でスタンピードが起こったと言う。


「だから、この村が襲われたのはオレのせい。魔王も魔族のみんなも関係ない。謝ってすむ問題じゃない事もわかってる。だから、まだここに住むなら復興の手伝いをさせてもらいたいし、終わったら死んで罪滅ぼしを……ぁ痛っ!」


 やっちまった……げんこつ。アーシェの頭からゴチンと良い音がなった。


「さっき言ったろ。お前のせいじゃねぇ。何が罪滅ぼしだ。どこに親殺しを躊躇うやつに罪があるってんだ。躊躇って当然だろ。まぁお前の気がすむなら好きにすりゃいいがよ、これだけは忘れんな。お前は何も悪くねぇ」


 涙でキラキラと宝石みたいに光る目を真っ直ぐに見ながら言ってやった。どれだけ俺が悪くねーって言っても、コイツには届いてねーみたいだが……それでも何回だって言ってやる。


 後からわかった事だが、あの騒動で親父とお袋は死んだらしい。近所の連中と集まって逃げようとした時に魔物に襲われ、みんなを庇って殺された。
 お陰で助かったとお礼を言われたが、俺じゃなくて親父達に言ってやってほしい。墓を建てたらたまに墓参りしてやってくれと言っておいた。
 またアーシェに泣きながら謝られたが、お前が俺の子どもになれば孤独は免れるなって言ってやったら、たまに二人きりの時にパパって呼んでくる様になった。
 悪い気はしねぇ。


 それから宣言通り、アーシェと魔族達は、村の復興に尽力してくれた。
 反感を持っていた連中も、アーシェの献身に心動かされたらしく、もぅ誰も悪く言うやつなんていない。
 むしろ金しか寄越さねーお偉いさんより、信頼できる。

 
 そもそもこんな田舎には何もなかった。それがみるみる立派になっていく。
 アーシェは自分の為だと言い張ってるが、立派な砦も、豊富な魔物資源も村に欠かせない物になっていた。結果的に村を発展させたアーシェにみんな感謝している。
 いつしか誰からともなくアーシェの願いを叶えてやりたいと思う様になり、俺達の目標も魔王討伐になっていた。
 正直複雑だ。このまま平穏が続くならそのままでいいじゃねーかとも思うが、アーシェの決意は思ったより固い。
 俺達じゃコイツの心までは癒してやれねーみたいだ……。




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