20 / 58
二章 魔の森の秘密
17話 魔王フェルゴール
しおりを挟む「これをずっと自分で抑えてたんだ……。やっぱりアーデはすごいな」
目の前に魔力の渦を纏ったアーデが座っている。とんでもない魔力が広い空間に充満し、外へ溢れ出ていた。
アーデはオレに愛していると言ってくれた事はない。
何故言ってくれなかったか今ならわかる。オレに辛い想いさせたくなかったんでしょ?
でもさ、話し方や接し方で愛情は充分に伝わっていたし、全然ダメだよ……。
暴風吹き荒れる中、オレには全く影響がない。こんなに深く愛されていたんだ……。
アーデは最後の瞬間を謁見の間で迎えた。きっと死期を悟ってわざと広い部屋を選んだんだと思う。
抜け殻だって言われてもすぐに攻撃なんてできっこない。目は瞑っているけれど、生きていた時と変わらない姿。せめて悪役みたいに変身してくれればいいのに。
オレはアーデの膝に顔を埋めた。
躊躇っている間にも次々と魔力が溢れ出てくる。わかってるよ、早く止めなきゃいけない事くらい!
このままじゃ何も進まないな。深呼吸をして心を落ち着け、この三年間を思い出す。アーデに初めて触れられた時の温もりは、今も鮮明に覚えている。
オレはどうしたい?ずっと一緒に過ごしたかったけれど、それはもう叶わない。アーデには安らかに眠ってもらいたいな。
「アーデ、親不孝なオレを許して……オレもアーデを愛してるよ」
この日、オレは魔王フェルゴールを魔王城の地下深くに封印した。
オレは魔王を倒す事ができない。魔族のみんなもできなかった。
かなり外に魔力が溢れてしまったな……。外の様子を見回りに行かないといけないのに、身体が言う事を聞いてくれない。
呆けていると、謁見の間の扉が勢いよく開かれた。
「アーシェ様!大変です!魔物に人族の村が襲われています!とんでもない数で、我々だけでは抑えきれません……」
「っ!場所は!?すぐに向かう!」
何をやってるんだオレは!!
アーデが守って来た平穏を壊してしまうなんて……本当にオレは親不孝だ……。
魔族のみんなが魔物と戦ってくれている。急いで人族の村に向かったが、そこは既に火の海で、地獄絵図そのものだった。
思念体の体を成長させ、必死で刀を振るう。
何故かどんな武器もしっくりこなかったのに、刀だけは長年連れ添った相棒の様に手に馴染んだ。
アーデが作ってくれたオレの愛刀……。
落ち着いた頃には何人も死者が出ていた。
村人はもちろん、魔族も数人亡くなっている。濃い魔力が溢れ、魔物が強化されていたせいだろう。
オレのせいだ。オレが躊躇ったせいで、大量の魔力が溢れてしまった……。やっぱりオレは……。
ボロボロと涙が零れる。泣いたって結果は変わらない。心ではわかっているのに、涙腺が壊れてしまったのか、涙は止まる事を知らない様だ。
「おい、何泣いてんだ。お前らのお陰で助かったぞ。ありがとな」
黒く力強い瞳が優し気にオレを見ている。こんな時に不釣り合いな視線。大きな手がオレの髪を撫でた。
「違う。オレのせいだから。お陰じゃない」
撫でられていた手を払いのけると、男は怪訝な顔をする。
「お前のせい?何の事だ」
「オレが魔王を抑えられなかった。魔物が強かったのはそのせいだ」
男は眉間にシワを寄せ、灰色の髪を片手でガシガシ掻いている。
「それってわざとなのか?」
「わざとと言えばわざと。オレにはすぐ動けなかった」
「そもそも何でお前が魔王とやり合ってんだよ。てかお前いつくだ。まだ若えだろ」
「息子だから。止めるのは当たり前。三歳だけど、歳は関係ないでしょ」
男はこれでもかと目を開いて驚いている。魔王の息子なんて滅多に会うもんじゃないもんね。
「……複雑な事情は察した。親父が相手なら仕方なかったんじゃねぇか?しかしお前……三歳とは。魔族ってやつは成長がはえーんだな」
「今は刀が振りやすいように大きくなってるだけ。本当はこれ。オレ人間だし」
思念体の成長を元に戻す。男の身長は成長しても見上げる高さだったのに、縮んだせいで更に見上げる事になってしまった。
「待て待て待て待て。魔族の常識がわかんねぇからハッキリ言えなかったが、人間だと?ならこれはお前のせいじゃねぇ。お前が気に病む必要は一切ねぇぞ。子どもは守られるもんだからな」
男はひょいとオレを抱き上げた。見上げなくて良くなったお陰で、首が痛くない。いつの間にか涙も止まっていた。
「とりあえずみんなの所に行くぞ。俺はヴァン。お前は?」
「アーシェ……」
「よし、アーシェ。お前の事を俺達に色々聞かせてくれ」
それから罪滅ぼしのつもりで、オレは全て偽りなく話した。
この惨状にしては結構な人数が生き残ってくれていたらしく、ここを修理しながら生活していくらしい。復興はオレ達も手伝わせてほしい事も伝えておく。
オレ達が死者を出しながらも戦った姿を見ていた村人たちは、魔物が魔族の配下にない事も信じてくれたらしい。少し訝しむ者もいたみたいだが、ヴァンの説得もあり、渋々ではあるが納得した様だった。
それから国王からの支援を受けつつ、村は順調に復興していった。
懸念していた宣戦布告はなく、お金しか支援して来ない国王は無能に違いない。今必要なのは人員だろう。現状把握すらしないつもりか?
正直、戦争になってしまったらしまったで、魔王を倒してもらえると思っていただけに残念だ。
そうだ、国王に戦力を出させればいい。その為には国王の危機感を煽る必要があるな。
結局アーデが守った平和を壊しちゃうのか。でも、もうこうするしか……。
魔族のみんなは守らなきゃ。隣国に逃して、それから……。これから忙しくなりそうだ。
村を壁で囲み、堀を作る。重厚な門からしか森と行き来できない。これで村は安全だ。
オレは魔王の封印を少し弱める。魔王城一帯の森全体に高濃度の魔気が溢れる程度に。
それから村は凶悪な魔物から王国を守る砦、アンタレスとして名を広め、多くの冒険者や商人が訪れた。今や移民も増えて、村の規模から街と呼べる程に活気が溢れている。
これもヴァンさんやトーマ、あの時の生き残ったみんなのお陰だ。
魔物がいつ王国内に侵入してくるかわからない恐怖に慄いて、軍隊でも寄越してくれるかと期待したが、さすがの無能王。この十五年動きなし。
少し薄めの魔気を範囲を広げて拡散しても効果なし。仕方がないので年々魔気の濃度を上げている。このままだと国民に被害が出ますよ国王様よ。
冒険者を鍛えて大人数で魔王城を攻めさせるしかないかと思い始めた頃にやっと国王が動いた。
さぁ。待望の勇者様だ。ここまで付き合ってくれた村のみんなにはとても感謝している。
あの時できなかった罪滅ぼしを……やっと終わらせる事ができるから。みんな、もう少しだけ待っててね。
24
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!
かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。
その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。
両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。
自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。
自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。
相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと…
のんびり新連載。
気まぐれ更新です。
BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意!
人外CPにはなりません
ストックなくなるまでは07:10に公開
3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

黒龍様のお気に入りはー………
月蛍縁
恋愛
この国では一人の王子が其の国の人々から恐れられていた
その者はアルガード・レフリオンと名乗る
国の人々からは黒龍様と言われている
其の黒龍様は一人の女性を気に入り愛していた
其の女の名は
エリオット・アルベルト
この国一の最強執事であり………である
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。

平民男子と騎士団長の行く末
きわ
BL
平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。
ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。
好きだという気持ちを隠したまま。
過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。
第十一回BL大賞参加作品です。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる