秘密の多い薬屋店主は勇者と恋仲にはなれません!

白縁あかね

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二章 魔の森の秘密

15話 連れて行かれた先は

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 何と言う事でしょう。光る光る、まあ光る。研けば研くほど輝くではないか。
 わかってはいたけど、これ程までとは思っていなかった。
 勇者がメキメキ強くなっている。
 トムさんと演習を始めたのが昨日の事。そして今やほぼ互角まで成長していた。


「トムさんの速さに慣れてきたようですね。チッ。今日中には追いつくでしょう。次からはパールさんに依頼しましょうか」


 何故か勇者が気に入らない様子のトーマと勇者御一行の戦闘を眺める。また舌打ち出てるから!

 パールさんに声をかけなきゃいけないのはわかっている。
 でもそれは困るよね!だって勇者と一緒に過ごさないといけないんだもの!すごく困る!


「ぇあー、そうなんだけどね。でもパールさんの都合もあるだろうし……。その……やっぱもぅ今日でトムさん卒業になっちゃう感じ?」


「何かご不満ですか?であれば明日も……いや、アーシェさんが納得するまでトムさんと戦闘させましょう!」


 トーマがガッツポーズで提案してくれたけど、それだとトムさんの負担が大きい……。
 ちょいちょい腰痛の為にライフクリームを買いに来るトムさんの姿が脳裏に過ぎる。


「いや、トムさんに無理はさせられない。次回からパールさんに依頼しよう。演習が終わったら勇者様御一行にも都合を確認しておいて」


「わかりました。でも、別にアーシェさんの為なら誰も負担だなんて思いませんよ?」


 うぁー。変な事言ったせいでトーマにも気を遣わせてしまった……。ごめんよぉ。


「ありがとう。みんなには本当に感謝してるよ」


「それはこちらの台詞です」


 トーマのニッコリ笑顔は本当に癒しだ。


 この街……正確には元村の住人には頭が上がらない。感謝の気持ちと、罪悪感は十五年経った今も変わらないんだ。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 オレは、生まれた時から膨大な魔力を持っていて、あまりの多さにうまく扱う事が出来なかった。
 生まれてすぐに魔力暴走を起こし、両親に捨てられ、孤児院に預けられたが、孤児院でもオレを持て余して、ついにはどこかの深い森の奥に捨てられてしまった。
 生まれた時から意識があったオレは、ここで死ぬんだと悟った。
 死んだらまたあの空間に行けるだろうか……。女神に一言文句を言わなければ気がすまない。いや、一言ですむ訳がない。


 色々言いたい事を考えていて、ふと気がついた。
 待って。捨てられてから数日経ったよね?
 赤ん坊のオレは当然の事ながら一人では飲み食いできない。軽く一週間は経ったでしょ。赤ん坊でなかったとしても、それ程の間、水分すら摂らないで生きている今の状況はおかしい。
 これ、もしや女神が自殺できん様にするとか言ってたやつ?嘘だろう……?
 この状況で成長するまで過ごせと?いや、栄養すら摂れていないのに成長できるのか?

 途方に暮れるを通り越して絶望感すら漂い始めた頃、それは突然訪れた奇跡だった。


「おや?こんな所に赤ん坊とは。うーむ……この魔力。であればはお主かのぉ」


 真っ黒い影がオレを覆う。よく見ると人型ではあるが、とても大きい。
 長いローブに顔はフードで隠れて明らかに怪しいけど、ここを逃したらオレはここで終わる!


「あぶ!ばぶ!ばぶぶー!」


 ですよねー。オレ赤ん坊だわ。しゃべれる訳なかった。
 それでもオレは必死に訴え続けた。形振り構っていられない。赤ん坊だからか、感情が溢れて涙が止まらないが知った事か!
 助けて!こんな所はもう嫌だ……お願いだからオレを置いて行かないで!


「うー!ぶぁっびぇーっ!!」


「ふむ、わかった。ここから動けなくて困っとるんじゃな。お主、家はどこじゃ?連れてってやろう」


 えっ?話しかけてきた?
 オレの言葉がわかっている様な台詞に、ピタリと涙が止まる。


「ばぶ、ばぶあぶぶー。ばぶぶあぶぶばぶ」
(オレ、捨てられたの。だから家はない)


「そうじゃったか。確かにその魔力は手に負えんじゃろうて。ならうちに来るか?年寄りの家じゃから、若者わかもんはつまらんかもしれんがのぉ」


 やっぱりオレの言葉がわかるのか!?
 一も二もなくブンブンと首を縦に振る。いつの間にか首座ってたよオレ。


「そうかそうか。これからは賑やかになりそうじゃのぉ。ワシはアーデルファルトじゃ。アーデで良い。お主、名前は?」


 そう言えばオレ、名付けられる前に捨てられた。名前も知らない。


「ばぶ。あぶぶばびー」
(ない。わからない)


「ふむ。では帰りながら考えるとするか。お主が好きな名前を名乗るが良いぞ」


 見た目に似合わず、優しい手付きでオレをふわりと抱き上げる。チラリと見えたフードの中身は、少し強面だが年寄りらしいシワで柔らかい印象のお爺さんだった。
 しゃべると見える大きな犬歯はその印象に反してとても凶悪である。
 もしや優しいフリして持って帰って食べられるってやつ?
 でもここにずっといるよりいい。齢〇歳にして悟ったのだ。人は死ぬより孤独と暇が辛いのだと。何度も死にたいと願ったのだ。丁度良かったじゃないか。


 そんな予想に反して、家に着くなりアーデは甲斐甲斐しくオレの世話を焼き始めた。
 一人では寂しい想いをさせるだろうと、どこからか色々な人を呼んでくれて、話し相手もできた。そう、本当に色々。人数的な意味じゃなくて……。
 昨日は角の生えたお姉さんが、今日は耳の尖った大きなお兄さんがオレと遊んでくれている。


 アーデの言う家は、それはそれは立派な魔王城なのでした。




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