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一章 勇者様の秘密
14話 負けてないから!
しおりを挟む「どうしたの?何かわかった?」
一回り大きくなったケイトを撫でて毛を落ち着かせる。
チラッと勇者を見ると、目を丸くして驚いていた。
「え……大丈夫ですか?僕、何か変でした?」
「んにゃー……大丈夫にゃ。ちょっとびっくりしただけだし、勇者はとりあえず人間ではあるにゃ」
ケイトはブルブルと全身を振り、毛繕いを始めた。
「人間ではあるって、何だか含みのある言い方だね。何かあるの?」
そろそろいい感じに蒸れたお茶をカップに注いで、勇者と自分の前にカップを置きながら、意味深なケイトに尋ねた。
「ふにゅ。人間と言う種族ではあるけれど、人間と人間から生まれてないにゃ」
は?人間って人間から生まれる以外にあるの?別の種族と人間のハーフでかろうじて人間みたいな?
オレと勇者の顔に困惑が滲み出ている。
「えっと、混血だけど括りは人間って事?」
「んにゃー、そう言う事じゃなくて、一番近い言葉だと始祖かにゃ。勇者の中からあの方の力を感じるにゃ。加護もあるけど、それだけじゃなくて、根本的な内部から感じるし。あの方に創られた人間って事だにゃ」
「あの方……?創られた?」
勇者は首を傾げているが、オレはケイトが言わんとする事がようやく理解できた。
ほぉ?このタイミングで女神が創った勇者ねぇ……。って事はあれだな?この勇者、本気で鍛えないとね。絶対魔王を倒せる逸材でしょ。
ちょっと顔がニヤけるのは許してほしい。ずっと待ってたんだから。
「限度はあるけど、鍛えれば鍛えるほど強くなる加護付き。お前は正真正銘、魔王を倒す為に生まれた勇者にゃ」
「女神様って、そんな器用な事できる神だったんだね」
皮肉っぽくなるのも許してほしい。そうなるのにも理由があるのだから。
「いにゃあ。ボクの予想では完成して喜んでるうちに、手からすっぽ抜けたとかじゃにゃいの?降ってきたのはそのせいだにゃ、たぶん。何もやらかしてないなんてなさそうだしにゃ」
ケラケラ笑いながら言うケイトに、それでいいのかとついジト目で見てしまう。しっかりしてくれよ神なんだから。
「えっと、僕は……それはどう言う事?」
呆けていた勇者が無事に帰ってきたらしい。おかえり、そらそうだよね。普通に生きてたつもりが急に創られたとか言われてもよくわかんないよね。
「うーにゅ。人間は人間に違いないし、そんなに難しく考える必要はないにゃ。ちょいとばかし周りに好かれやすくて運が良くて、頑張れば頑張る程実力が伸びるってだけにゃ。神通力的な物が使えるなんて事もないしにゃ」
人間である以上、不思議な力で急に強くなる事もなければ、賢くなる事もないって事だ。
「この世界の全ては神々が創造してできた物で、人間もそのうちの一つです。今や繁殖によって生まれた者達ばかりですから、勇者様は神に創造された、今では珍しい生まれの方と言う事ですね。その創造主たる女神様に加護を戴いているので、他の人間よりも恵まれているとも言えます。ただし、あくまで人間なので、努力をしなければ何も成せません。これからもこの街の住人も協力しますので、魔王を倒せるくらい強くなってください」
「ありがとう。僕達だけじゃ難しいだろうなって思ってはいたんだ……。きっと仲間も同じ気持ちで落ち込んでるだろうし、協力してもらえるのはすごくありがたいよ」
やっと落ち着いたのか、勇者は出したお茶を一気に飲み干した。そらぁびっくりしたら喉も渇くわな。でも、熱くない?それ。
ここでオレはケイトが帰って来る前の状況を思い出していた。このままさっきの事は忘れてとっとと帰れ勇者!
「では、また明日からギルドに通ってください。今度はちゃんと演習としてお相手させていただきます。住人の安全保護の為に多少お金は戴きますけど、森に入ればすぐに補填できますし、問題ないでしょう」
「また闘士の人達がお相手してくれるのかな?」
「そうですね。勇者様は、この街の一般男性くらいには強そうなので、三段階のトムさんから始めましょうか。トムさんと互角になってきたら、次の段階の闘士に進めるようになりますよ。お仲間もご一緒に頑張ってくださいね」
ほら、ええ感じで締めくくったぞ。納得したなら帰れ帰れ。
自分で入れたお茶を飲み切って解散の雰囲気を醸し出す。ぎぇー、やっぱ熱いじゃんこれ!
「ありがとう、仲間にも伝えておくよ。」
よし、これで話しは終わりだな。先に立ってカップを回収……しようとしてできなかった。
なぜなら勇者の綺麗な手がオレの手をスッと掬い上げたから。
「アーシェ。すぐに僕の気持ちを受け入れてほしいとは言わない。でも、考えてほしい。トムさんの演習を終える事ができたら、僕に時間をくれないかな?少しでもいいから、一緒に過ごしたいんだ」
「いぁっ、でもっそのっ。はぁ……オレはあなたの気持ちには応えられません」
こーゆーのはハッキリ言うのが一番だ。気持ちを落ち着けて、しっかりと勇者を見ながら言ってやった。
よくわからないけど、少しチクっとした感じがする。勇者に共感してんのかな……。
「それでも構わないよ。アーシェが嫌でないのなら、一緒に過ごしてくれるだけでいいんだ。それに、ご褒美があれば演習へのモチベーションも上がるしね」
パチンと爽やかなウインクが飛んでくる。それはイケメンにしか許されない行為なんだぞ……。わかってやってるならやっぱりこいつはギルティだ。ショタコンタラシの変態め。
オレがこいつを避けるのは、気持ち悪いとか嫌いだとか、そんな事じゃない。単純にその好意に応えられないってのが原因。
そう、困った事に嫌ではない。何ででしょうね?変態なのに……。
仕方ない。これも魔王討伐の為だ!
「……わかりました。それで少しでも早く強くなってくれるなら、時間作ります。」
オレは決して勇者の押しに負けた訳じゃないぞ。とっとと魔王を倒してくれるならそれでいい。その為なら何だってするってだけ。そう!負けてないから!そんな目で見るなケイト!
「良かった!嬉しい、ありがとう。明日から頑張るから。急にお邪魔してごめんね。今日はこれで帰るよ。お茶、ごちそうさま」
これまたイケメンにしかできない笑顔で席を立つ。何でそんなにキラッキラしてんのコイツ。てか、手離してくれませんかね。よく考えたらずっと握られたままなんですけど。
「いえ、お粗末さまです」
勇者と共に玄関へ向かう間も手は離れてくれなかった。
「じゃあまたね、アーシェ」
最後にオレの手を両手で握って、離れたかと思うと勇者はさっさと帰って行った。
あっさりしてんじゃん。ほんとよくわかんない奴だね、アイツも……オレも。
「手、避けれたよね?どうしたの?ご主人様らしくないにゃ」
「別に。避ける必要ないかなって思っただけだよ」
そう。危害を加えられる訳でもなし、別に避けなくても問題ない。
「ほんとに?わざわざその姿でいる癖に?」
「……」
十八歳の成人したオレが、十歳程度の見た目である理由を思い出す。いや、儲けの為だし!もう一つの理由なんてさっきは忘れてただけだわ!
無言でドアを閉める。ケイトの横を通り抜けてさっきまで眠っていた寝室へ戻った。
しわくちゃになったシーツの上にそのまま横に突っ伏す。
ケイトも部屋に入ってきて、定位置のカゴに丸まった気配がした。
「オレにも訳わかんないよ」
枕に埋もれた声に、ケイトから返事が来る事はなかった。
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