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一章 勇者様の秘密

13話 勇者襲来

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 ーーーカンカンカン。カンカンカン。


 んん…うるさい。
 目を擦り重い上半身をのそりと起こす。ふと部屋を見渡すと、もう日が沈んで真っ暗になっていた。
 部屋の照明用魔石に魔力を飛ばすと、部屋がふんわり明るくなる。


 ドアノッカーを叩く音?こんな時間に訪ねて来るなんて、急患かな?ギルドにもポーションはストックしてるはずだけど、森から一番近いうちに直接来る冒険者も稀にいるからなぁ。とりあえず早く出ないと。寝て着崩れた服を軽く整えながら階段をおりる。


 今思うとこれまた何でだったんだろうなーと不思議に思う。だって、いつもならあり得ないんだ。何の確認もなしに玄関を開けるなんて。まぁ開けてしまった今考えても意味はないんだけど……。


「アーシェ、急にごめんね。でも、どうしても君に謝りたくて……」


 目の前に立つ、月明かりでキラキラ輝く金髪を眺めながらそんな事を考えているうちに、ふわっと爽やかな香りをたてながらその金髪がオレの目の前に落ちてくる。


「え、何を……?」


「いや……急に言われても困るよね、ごめん。昨日、その……僕の気持ちを君に押し付けてしまう様な行動をしてしまって、本当に申し訳ないと思ってるんだ。でも……」


 何これ?勇者がオレに頭を下げている。


「ちょっ!まっ待ってください!オレは何も謝ってもらう様な事はありません。だから、勇者様もお気になさらないでください」


 そう、オレが何のために昼間から今まで寝てたと思ってんだよ。忘れたいのよオレは!昨日は何もなかった!それで話は終わりだ。
 そもそも今日は起きられない程度に殴りつけたはずなのに…… 頑丈か!


「それはできない。僕は今までこんな気持ちになった事がなくて、最初はワケもわからずただ君と離れたくない一心であんな無遠慮に触れてしまった。でも今は違う。」


 勇者が顔を上げて、真剣な眼差しでオレを見つめる。いや……だからその目ダメだって。


「アーシェ、僕は君が好きだ。だから、君との全てをなかった事になんてできない。昨日は本当に申し訳なかった」


 また勇者がオレに向かって頭を下げる。
 えっと……結局オレが迫られたって感じたのは勘違いじゃなかったって事?それは……良かった。うん、でもその気持ちは受け入れられないんだ。オレは……


「こんな所で何してるにゃ?」


「えっ?」


「ケ……ケイト。おかえり」


 頭を上げた勇者の横をすり抜け、オレの肩に飛び乗って来る。ケイトは真っ黒な体をオレの顔に擦り付け、チラリと勇者を見た。


「ふにゅ。これが噂の勇者かにゃ?ふーむ、とりあえずこんな所じゃにゃんだし、中に入れてあげれば?」


「えっ、で……でも」


「いや、その必要はないよ。僕が急に押し掛けて来たのに、お邪魔なんてできないから」


 ピクっとケイトが耳を振るわせる。オレからぴょんと飛び降りると、部屋の中へと歩き出した。


「いいから入れにゃ。お前に訊きたい事ができたしね」


「訊きたい事?」


「じゃあ……とりあえずどうぞ。大したおもてなしはできませんけど……」


 二人きりにされたらたまらない。急いでケイトに続いてリビングに向かうと、後ろからおずおずと勇者が付いてきた。


「ごめんね、お邪魔します」


「……どうぞ。お茶入れるから座っててください」


 リビングの椅子を軽く引いて、続きにあるキッチンでお茶用にお湯を沸かす。
 勇者が席に着くと、テーブルに飛び乗ったケイトがジッと勇者を見ていた。


「えっと、訊きたい事って……」
「ご主人様が戻ってきたら話すにゃ」


 何やらオレも行かないと話しをする気がないらしい。
 急いで沸いたお湯を茶葉の入ったポットに入れて、とりあえずカップ二つと一緒に持ってリビングに戻った。


「お茶はもう少し待ってくださいね。ケイト、話って?」


 テーブルにティーセットを置いて、自分も勇者の前の席に着いた。


「ふにゅ。じゃあ単刀直入に訊くにゃ。お前、何者にゃ?」


 ケイトは鋭く目を細め、勇者をジッと見つめながら口を開いた。


「えっと、何者って……?」


「とぼけても無駄にゃ。普通の人間ならにゃんでボクと話せるにゃ?契約者でもないのにおかしいにゃ」


 そこでオレもやっと気づいた。そうだよ、むしろ何で今まで気付かなかったオレ!
 普通、人間にはケイトがいくら喋ってもニャーニャー言ってるだけに聞こえるはずなんだ。それなのに勇者はケイトと会話している。どう考えてもおかしい。
 オレは咄嗟にテーブルの下で身構えた。


「えっ?いや、僕はずっと普通の人間だと思って生きてきたんだけど……違うの?……ですか?」


「ふにゅ。まず人間かそうじゃないかと言われたらボクにもわからんにゃ。でも普通の人間じゃないのは間違いないにゃ。それが嘘じゃないにゃら自分が何者か知らないって事かにゃ?」


 え、何それ。ちょっと勇者が不憫に思えてきた。


「うん……。僕は赤ん坊の頃におばあちゃんに拾われて育ててもらったから、自分の両親を知らないんだ。おばあちゃんも僕は降ってきたとしか言わなかったから。大雑把な人だったから、説明にもなってないよね……実際僕にもよくわからなかったんだ」


 降ってきたって何?そんな事ある?木の上に放置されてたのが偶然おばあさんが通りがかった時に落ちたとか?


「ふーん。じゃあちょっと観てみるかにゃ?まず人間かどうか、それから軽いルーツくらいはわかるかもしれないにゃ」


「お、お願いします!」


「じゃあちょいと失礼して。もしかしたら気持ち悪くなるかもしれにゃいけど、リラックスして受け入れるにゃ。弾いたら観えないからにゃ」


 ケイトは勇者の前に座ると、目を光らせて鑑定魔法をかけた。勇者の体がふんわりと光に包まれていく。


「にゃ!?んとまぁ……予想外にゃー」


 途端にケイトは全身の毛をボワッと膨らませて、勇者をマジマジと見つめた。




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