上 下
14 / 58
一章 勇者様の秘密

11話 模擬戦闘システムの目的 sideカイル

しおりを挟む



 翌朝、結論から言って僕はアーシェに会えなかった。店に行くと『本日臨時休業』の張り紙がしてあったからだ。


 一晩経っても気持ちは落ち着かなかったけど、冷静に振舞えるようになってきたし、少しだけでも会えたらと思ったんだけど……。驚かせただろうし、謝りたかったな。


 今日は予定通り模擬戦を再開する事になった。
 仲間に話を訊くと、どうやらあんなにボロボロにされたのに、結果は合格らしい。
 次が最後だ。きっとまたとんでもない目に遭うに決まっているけど、今の自分には都合がいい。少しでも気を紛らわせたいし。でも、もしかしたらまたアーシェがアフターケアに来てくれるかもしれないって下心も湧いてくる。
僕って本当はこんなやつなんだ……。悲しくなってきたかも……。


 複雑な心境のまま、冒険者ギルドへ向かう。中で昨日と同じようにトーマさんが受付に座っていた。


「おはようございます。昨日はありがとうございました。これから模擬戦の再開は出来ますか?」


「おはようございます。元に戻って良かったですね」


「えぇ。ご心配をお掛けしました」


 ……あの、トーマさん半笑いなんですけど。ニコッと返したつもりだけど、きっと引き攣ってるだろうな。喜んでもらえて良かったデス。


「最後の模擬戦は、パーティの皆様もご参加いただきますが、準備はよろしいですか?」


「は?団体戦なのかい?」


「いえ?」


 リサの質問に、トーマさんが逆に『は?』と言いたそうな顔をする。


「一対多です。闘士一人と勇者様パーティでの戦闘になります」


「へぇ?そりゃあ聞き捨てならないね。あたしらが弱いって言いたいのかい?」


「え?はい。昨日の戦闘を見て何も感じなかったのですか?残念ですね」


 トーマさんは困った顔でこめかみに拳をコツンと当てる。いっけねーのポーズだけど、今すると違う意味にみえるよね……。
 でもトーマさんの言わんとする事はよくわかる。何せ僕は昨日の戦闘で、ルール上はクリアしてるけど、勝利できたのは一段階の子ども達にだけだ。


「はぁ!?何だって!もっぺん言ってみな!」


「では、残念な頭の持ち主でいらっしゃるようなので、ご説明いたしますね。便宜上、このシステムは模擬戦と言う形式をとっていますが、目的は参加者の強化です。要するに指導して差し上げているのですよ」


「何でたらめ言って……!」
「リサ。彼の言う通りだよ」


 リサの言葉を途中で遮る。ハッキリ残念な頭って言ったな。あれはもうワザとだよね……。
 それにしても指導が目的か。そうだと思った。どの闘士も普通に戦ったら勝てない人ばかりだったし……。特にヴァンさんのと戦力差は、僕なんかが勇者でいいのかと思う程だ。


「勇者様は賢明で助かります。あなたの様なプライドだけ無駄に高く、実力がない冒険者が多くて、指導演習となるとそもそも受けていただけないのですよ。なので、基本一対一の模擬戦闘になったのです」


 なるほど。確かに、最後の砦まで来る様な冒険者達だ。今更指導なんて受けないだろうな。


「そうなるとまた別の問題がおきましてね。複数で来られると面倒くさ……何度も模擬戦をしないといけなくなるので、パーティは代表者一名のみお相手しています。しかし、それはあくまで魔王城までの通行許可取得の話で、魔王討伐は別です」


「別……?と言うと?」


「七段階までクリアすると、魔王城付近まで通行許可が下ります。そして、八段階は魔王城への入場許可、つまり魔王討伐に向かえるって事です。そうなると、パーティみなさんの実力を向上させたいわけですよ」


 要するに、今まではただの通行許可をもらうだけの最低限で、これからが本当の戦闘力向上の為の訓練……と。


「最後の戦闘では、闘士を倒す事が目的となりますが、当然大人の闘士達を一人も戦闘不能にできなかった勇者様に、最後の闘士は倒せません。とにかく耐えて、少しでも多くの事を学んでください」


「……わかりました」


 わかってる。それでもやっぱり悔しいものは悔しい。さっきから黙っているマーサとエマも渋い顔をしている。二人もわかってたんだな。いや、リサもわかってるけど食ってかかったんだろう。


 正直、僕達はこの街に来るまで戦闘面において苦労した事はない。彼女達も王家に選ばれた実力者だ。自信もあったし、それだけの実力を持ち合わせていた。
 しかし、この街ではこの程度の強さは普通。むしろ弱い方なんだろう。それだけこの街は危険度が高い。魔王城に近く、凶暴化した魔物からこの国を守っている。
 そんな街の人達がずっと倒せずにいる魔王。それを僕達は倒さなければならない。


「みんな、聞いてくれる?僕達はこれまで、この街の人達に守られてのうのうと生きてきた。今度は僕達がこの街の人達を守るべきだと思う。魔物に脅かされる事なく、平穏に暮らしてほしい」


 この街を守る事は、結果的にここに住むアーシェも守れる。こんな時にまで君の事を考えてしまう……。


「その為に、僕はもっと強くなりたい。この街の人達よりも強くならないといけない。だから……」


「そうね、その通りだわ」

「はい。私もそう思います。力を合わせて、もっともっと強くなりましょう!」

「はぁ、わかったよ。意地を張っても仕方ないしね」


 全てを言わなくてもわかってくれる。やっぱり根は良い人達なんだな。


「ありがとう。すみません、お待たせしました、トーマさん。パーティで模擬戦に参加させてください」


「ご理解いただけた様で何よりです。ではご案内致します。武器はより実践に近い状況を経験していただきたいので、愛用の物をお使いください」


 トーマさんは僕達に促すと、スタスタとギルドの奥に続く通路を歩き出す。模擬剣を使わなくて良い程の実力差なんだとは思いつつ口にはださない。


「あれ?昨日とは違う場所なんですか?」


 トーマさんは一番奥にある扉の前で僕達の方に向き直った。


「これから起こる事、見聞きした事は他言無用でお願いしますね。第八段階については、闘士の希望で極秘事項ですので、ギルド内で行います。これが守られない場合は殺傷が行われた時と同じ対応を致しますので、ご承知おきください」


 殺傷と同じ……。この街から追い出されるって事か。
 トーマさんはキィーと音をたてて扉を開く。扉の先には地下へ続く階段がみえる。暗くて先は見えない。いつの間に持っていたのか、ランタンを片手に階段を降りていく。


「ご理解いただける方のみついてきてください。それから、ここから先は私語も謹んでくださいね」


 僕達は慌ててトーマさんに続く。階段は短く、三度折り返して建物二階分程度降りた所で扉があり、開くと明るい広間に出た。どうやら地下の演習場らしい。


「それではどうぞ中程までお進みください。闘士がお待ちです」


 ふと演習場の中央を見て、僕は驚愕のあまりピタリと動きを止める。
 小柄でツヤツヤした暗めの青色を後ろで編んだ……天使。
 そこには僕が会いたくて仕方がない人が、会いたく無い場所で待っていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...