12 / 58
一章 勇者様の秘密
9話 走馬灯 sideカイル
しおりを挟むここ、どこだろう。
狭い一本道で、両側に絵画が飾られている。暗くて自分の体すら見えないのに、絵画だけはハッキリと見える不思議な空間。
この絵画の光景には見覚えがあった。
おばあちゃんと暮らした森だ……懐かしい。
僕は物心ついた頃には、森でおばあちゃんと二人暮らしだった。狩りに出かけた時に急に降ってきた僕を拾って、そのまま育ててくれたらしい。降ってきたって何だろうね?
おばあちゃんはとても豪快な人だった。そして、めちゃくちゃ強かった。おばあちゃんの倍ぐらいある背丈の熊を、単身素手で倒してしまう程に。そんなおばあちゃんに育てられた僕も、そこそこには強くなったと思う。
歩きながら額に飾られた光景を眺める。これは全部自分の記憶だ。絵画を見つめていると、その時の記憶が今、実際に起こっているかのように、鮮明に思い出される。
やがて絵画は段々と森から村に変わっていった。
五歳の時におばあちゃんが亡くなって、これからは一人で生きていかないとと思っていた矢先、買い出しに近くの村へ出かけた時に、村の女性達にここで住む様に勧められたんだ。いつもおばあちゃんと来てたから、一人で歩いているのを心配してくれたんだと思う。
あれよあれよと住む場所も用意され、引越し作業はいつの間にか終わっていた。まだ幼い僕を心配してくれた村の女性みんなで、入れ替わり立ち替わり世話をしてくれる。親切な村だったな。朝起きたら同じベッドで寝ていたり、よく抱きしめられたりして、かなり過保護に育てられた。
流石にずっとお世話になるのも申し訳なくて、徐々に一人で何でもこなす様になり、十歳を超える頃には一人で生活でにるようになっていた。
村の光景がたくさん並んでいるうちの一つに、満面の笑みの少女が描かれた絵画がある。この子……近所に住んでた子だ。
「好き!私と付き合って」
「え……?あの、ごめんね。好きってなあに?何に付き合えばいいの?」
仁王立ちで腰に手をあてていた女の子が、目をガッと開いてびっくりした顔をする。
おかしな事言ったかな……。
「なに?好きがわからないの!?あなた、人生の大半を損してるわよ!こーんなに幸せな気持ちになれるのに!」
「そうなの?僕も知りたい。教えてくれる?」
好き……?そんなに幸せになれる物があるなんて。
「仕方ないわね。いいわ、教えてあげる!好きにも色々種類があるけれど、私が言ってるのは、人を好きになるって事よ。いつもその人の事を考えちゃって、ずーっと一緒にいたいし、いつまでも触れ合っていたくなったりする。その人でいっぱいになって、溢れちゃうのよ!」
「いつも考えちゃうの?何だか大変そうなんだけど……」
「それがいいんじゃない!好きな人の事を考えるだけで幸せなんだから!」
当時はまだ幼い。少女もきっと、言いたい事全部は伝えきれなかったんだと思う。それにしたって、成長した今でも、よくわかんないけど。
好きについて語る少女は紛れもなく幸せそうな笑顔だ。僕はそんなふうになれる人が今までにいただろうか……。おばあちゃんがそれに近い気がするけど、ずっと考えたりはしない。いつかは僕にもそんな人ができるんだろうか……。
「あなたも時が来ればわかるわ。せっかく創ってあげたのに、戻ってきちゃダメじゃない」
どこからともなく声が聞こえたかと思うと、バン!と大きな音と共に目の前から絵画達が消える。何も見えなくて、目を開けているのか閉じているのかもわからない。
全身の感覚も鈍っていて、体を動かす事ができなかった。
34
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!
かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。
その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。
両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。
自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。
自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。
相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと…
のんびり新連載。
気まぐれ更新です。
BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意!
人外CPにはなりません
ストックなくなるまでは07:10に公開
3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

黒龍様のお気に入りはー………
月蛍縁
恋愛
この国では一人の王子が其の国の人々から恐れられていた
その者はアルガード・レフリオンと名乗る
国の人々からは黒龍様と言われている
其の黒龍様は一人の女性を気に入り愛していた
其の女の名は
エリオット・アルベルト
この国一の最強執事であり………である
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。

平民男子と騎士団長の行く末
きわ
BL
平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。
ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。
好きだという気持ちを隠したまま。
過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。
第十一回BL大賞参加作品です。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる