秘密の多い薬屋店主は勇者と恋仲にはなれません!

白縁あかね

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一章 勇者様の秘密

8話 街の洗礼 sideカイル

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「次は七段階ですね。流石です勇者様」


「そんな……必死ですよ。皆さんお強いですね」


 トーマさんがタオルを差し出してくる。ありがたく受け取り、額の汗を拭った。


「次はどんな方がお相手してくださるんですか?」


「こんなやつだよ」


 トーマさんと話していたつもりが、反対側から返答がある。振り返りながら、投げつけられた何かをキャッチした。
 これは、ライフポーション?いつも使ってるやつとはちょっと色が違う気がする。入っている瓶も初めて見る型だ。


「飲んどけ。そんな状態で俺とやろうなんて、舐めてんのか」


 背の高い男の人が模擬剣片手に歩いてくる。彼がポーションを投げてくれたらしい。話しからして、恐らく次の闘士だ。


「いや、そんなことは……ないですけど。珍しいポーションですね。いただいていいんですか?」


「あ?トーマから聞いただろ。模擬戦中の治療はギルド持ちだ。まさかポーションなしでここまでクリアしたのか?」


 確かに言ってた。模擬戦で負った傷はギルドが責任を持つって。ポーションもらえるとか詳しくは知らなかったけど。


「目立った傷もなく、ご本人からの申し出もなかったので、必要なしと判断しました」


 しれっと答えるトーマさんをチラッと見ると、何か問題でも?って顔をされた。はい、特に問題アリマセン。


「ったく、とことん舐めた野郎だな。いいか?どれだけ強いか知らんが、戦闘の前は万全に整えるのがこの街の常識だ。どうせアーシェのとこにも行ってねーんだろ。森に行く前には絶対に行け。商店街の外れにある薬屋だ。そのポーションもそこの商品だから、効いたらいっぱい買ってやれ」


「はい……ありがとうございます」


 薬屋さんか。そう言えば回復はエマがしてくれるから、ポーションを使う機会も少なかったし、荷物管理もマーサがしてくれてるから、僕は行った事なかったな……。
 ポーションの蓋を開けて中身を煽る。美味しいなこれ。体中にあった傷達が消え、体力も十分に回復してきた。心なしかいつもより回復している気がする。


「うわぁ、いいですね。美味しいし、すごく回復した気がします」


「ったりめーだろ。したじゃなくて、してんだよ。じゃあ始めるか」


 灰色の髪をかき上げ、男性が真剣な顔になる。


「俺は武器屋のヴァンだ。お前は?」


「カイルです。一応……勇者です」


 これ自分で言うの恥ずかしいんだよね……。


「あ?今何つった?」


「ぇあっ!?すみません」


 ヴァンさんにギロっと睨まれる。怒らせた?何がいけなかったんだろ……。


「チッ。決めた。これから俺はお前を気絶するまでボコボコにする。別に防いでもいいし、反撃してもいい。な。とにかく起きてる限り俺に向かって来い。お前、魔王倒すんだろ?勇者としての覚悟を見せろ」


「それでは、模擬戦闘七段階開始します。お二人とも位置についてください」


 トーマさんは僕からタオルを取り、今までにないほど遠くに離れる。……そんなに?
 僕は一息吐いて気合いを入れ直した。


「構えろ」


 ヴァンさんと向き合い、お互いに構える。服や防具で隠れているはずの全身が、ビリビリと痺れる様な威圧感。今までで一番とんでもない人だ……。


「では、模擬戦闘七段階……開始」
 ヒュッパチンッーー


 開始して踏み込もうとした瞬間、左耳から風を斬る音と、何がが弾ける音が聞こえる。気づいた時には既にヴァンさんが目の前で剣を薙いでいた。


「えっ?ガッ!?」


 慌てて受けようと剣で防ぐが、剣ごと顔面を強打する。僕の体が子どもの様に軽く吹き飛ばされた。
 何があった?左耳と右頬に熱が集まる感じがする。まさか今の一瞬で二回攻撃されたのか!?
 恐ろしく速い。そして、恐ろしく強い。一撃目は見えもしなかったし、二撃目は防いだはずなのに上から殴り飛ばされた。口の中がジャリジャリして、鉄の味がする。


「おい。まだ始まったばっかりだぞ?早く立て」


「すみません。……お願いします」


 口の中の物をペッと吐き出し、ヴァンさんに向かって構えた。
 普通なら勝ち目はない。むしろ、既に二回殺されていただろう。でもこれは模擬戦であり、ルールがある。何があっても諦めない!


 それからは必死で、何が起こったか記憶が曖昧だ……。覚えてるのは、ひたすらに繰り出される顔面への猛攻。攻撃される場所がわかっているのに防げない強さ。途中、意識を失いそうになると、次の絶妙な攻撃で叩き起こされる。
 どのくらい繰り返しただろう。顔の感覚も薄れて目も見えない。それでも僕はヴァンさんに構え続けた。


「その根性だけは認めてやる。だがな、お前本当に魔王を倒したいのか?魔王討伐は、この街の住人みんなの悲願だ。遠足気分で来たんなら、とっとと諦めて帰れ」


 その言葉と共に顎に強烈な衝撃を受け、僕は意識を手放した。




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