秘密の多い薬屋店主は勇者と恋仲にはなれません！

一章 勇者様の秘密

7話 連戦 sideカイル

　思わず身構える。トーマさんは気にした様子もなく、小石を拾い上げた。


「この小石を投げて落ちた瞬間、開始。斬られたら死ぬって思って戦えよ？俺に斬られてる様じゃ、二段階の通行許可なんてだせないからな」


　トーマさんは片手で剣を構えた。


「それじゃ、模擬戦二段階……開始」


　もう片方の手に持っていた小石をピンッと上に弾く。地面まで五メートル、四メートル、二メートル、三十センチ……！

　キーンッ
　小石が地面に落ちた瞬間、同時に踏み込み、お互いの模擬剣が音をたてる。ギリギリと剣で押し合っていると、トーマさんがニヤリと笑った。


「さぁ、ほんの少し本気出してあげるから、受けるか流しなよ？」


　キンッ！ガキンッ！キーン！
　トーマさんの連撃を剣でいなす。これが当たったら即失格になるんだろうな。
　子ども達の時点でわかってたけど、トーマさんもかなり強い。今も相当手加減されているのに反撃の余地が無い。普通に戦ったら勝てないな……。よし、こうなったら……！


「くっ！」


「ふはっ、いいね！いつまで耐えてくれるかな？」


　剣を受けながらよろける。そんな隙を見逃してもらえるはずもなく、トーマさんが踏み込んでくる。
　よし！今！


「はぁっ！」


「っ！」


　よろける体をそのままに、剣を薙ぎ払う。転がって体勢を整え、すぐトーマさんに向き直った。


「そこまで。二十回躱せたらクリアにしてあげようと思ってたのに、反撃してくるとはね。チッ。いいよ、ムカつくけど二段階通行許可してあげる」


　これからまた激しい連撃がくるかと身構えたのに、襲ってきたのは言葉の魔球だった。


「あ……ありがとう、ございます？」


「まだまだいけるでしょ？次、呼んであるから。準備しなよ」


「ひぇ……」


　それからさっき出ていった子ども達が、順番に闘士を連れてきてくれた。

　三段階の本屋のおじいさん、四段階の宿屋のおかみさん、五段階の役所のおじさん、六段階の防具屋のおじさんと模擬戦をクリアしたけど……。
　とんでもない、この街の住人みんなとんでもない！何故、一般人がこんなに強いんだ！？
　本屋のおじいさんはやたら素早いし、宿屋のおかみさんは大量の火球飛ばしてくるし、役所のおじさんには行動全部先読みされるし、防具屋のおじさんはひたすらカッチカチで攻撃通らないんだけど！？
　とにかく全てがとんでもない！何だこの街は！


　次の七段階で、本当の意味で街の洗礼を受ける事になるのを、この時の僕はまだ知らない。