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一章 勇者様の秘密
6話 模擬戦闘開始 sideカイル
しおりを挟む「なっ……何で?」
「きゃはは」「あはは」
「おい!ちゃんと準備運動しろよ!」
「「「はーい」」」
演習場に着くと、子ども達が走り回っていた。ここで合ってる?まさか演習場って他にもあるのかな?
「武器は剣でよろしいですね?準備が良ければ開始しますので、こちらへ」
演習場の入り口でオロオロしていると、いつの間にか先程の青年が隣に立っていた。
えっ気づかなかったんだけど……。
「あ、はい。お願いします」
「パーティの皆様は場外でお待ちください」
青年は演習場の中心へ歩き出す。
「それではルールをご説明致します。基本的に各闘士達の指示に従ってください。クリア条件は各段階の闘士に通行許可をもらう事です。闘士が満足するまで戦ってください。攻撃手段に制限はなく、お渡しした武器での攻撃はもちろん、打撃、魔法も使っていただいてかまいません。が、あくまで模擬戦であり殺傷は御法度ですので、一人でも死人が出た時点で模擬戦の参加資格剥奪はもちろん、アンタレスへの立ち入りも禁止とさせていただきます。降参、戦闘不能、又は審判からの制止で試合終了となりますのでご注意ください。今回の審判は私、トーマが担当します」
トーマさんの後について演習場の中心へ向かいながら模擬戦のルールを聴く。さっきまで遊び回っていた四人の子ども達が中心に集まり、それぞれ模擬剣を持っている。
「っ!?まさか……」
「まぁ、簡単に言えば……殺す以外は何でもありなんで、今回はこの子達と遊んであげてください。ちなみに逆もしかりですから、死なないように頑張ってくださいね」
トーマさんは片眉を吊り上げてへらりと笑う。そんな悪い顔もできたのか……じゃなくて!やっぱり子ども達が相手なのか!
「みんな!待望の勇者様だ!丁重におもてなししよう」
「「「「勇者…?」」」」
子ども達の前に立たされる。何だ?この視線……。
「この人がアー……まを…」
「仕方ないってわ……ダメ……るせない」
「……少しでも苦…… やる!」
子ども達が何かこっちを見ながらコソコソ話し合っている。何を言ってるかはわからないが、あまり友好的には見えない……。
「えっと……よ、よろしくね?」
「「「「よろしくお願いしまーす」」」」
思わず引き攣った笑顔になってしまったが、子ども達はにっこり笑い返してくれる。逆に怖いんだけど……。
僕が模擬剣を構えると、子ども達も一斉に構える。
「それでは、模擬戦一段階……開始!」
トーマさんの合図と共に、子ども達が飛びかかってくる。間をすり抜けて、四人全員の模擬剣を切りつけた。
再び子ども達が僕に向かってきたその時。
「そこまで!みんな、剣を下ろしなさい」
「えっ!」
「どうしてとめるの!?」
「まだいけるよ!」
「なんで!」
トーマさんが制止し、子ども達が口々に抗議する。
「ちゃんと剣を見なさい。手加減されたからまだ繋がってるけど、本気なら折られてる」
さっきの一撃で、子ども達の剣に切れ込みを入れておいた。折ると危ないかと思って手加減した事までバレている。
子ども達は悔しそうに唇を噛んだ。
「絶対強くなって倒してやる!」
一番背の高い男の子が走って演習場を出ていってしまった。
正直、子どもの強さじゃない。侮って戦った大人は呆気なく倒されているのだろう。
「すみませんね、すぐに負けたのが悔しかったようで」
トーマさんがヘラヘラ笑いながら謝ってくる。大人気ないって言いたいんだろうか……。子ども達と言い、トーマさんと言い、僕は嫌われているのかな……。
「さて、このまま二段階へ挑戦されますか?」
「そうですね……はい。今日は進める所まで進んでみようと思います」
確か八段階あるんだよね。中断できるって言ってたし、四段階まで進めたら明日は森に行ってみようかな。それ以上進めたら明日も挑戦してからにしよう。
「わかりました。準備致しますので、少々お待ちください」
トーマさんは残った子ども達に何か話しかけると、子ども達は演習場から出ていった。
隅にある武器置き場から、模擬剣を持ってトーマさんが近づいてくる。
「では、二段階を始めましょう。今回私は、審判兼闘士としてお相手致します」
トーマさんはあの悪い顔で僕に剣を向けた。
「かかってこいよ、勇者。本気で来ないと死ぬかもね?」
物凄い気迫に、僕はゴクリと喉を鳴らした。
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