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一章 勇者様の秘密
5話 到着アンタレス sideカイル
しおりを挟む数年前、魔王城から不穏な気が漂い始め、周辺の森が強力な魔物の巣窟となっていった。はっきりとした原因はわからないけど、魔王が原因だろうと言われている。
今はまだ、ある街が砦となり魔物が溢れる事はないが、そんな状況もいつ変わるかわからない。年々増える魔物被害に、民衆は不安を抱えて日々を過ごしていた。
そんな中、王家からこんなお触れがでる。
『勇者決定戦開催!トーナメントを勝ち上がり、魔王を倒して世界を救え!優勝者には大金貨一千枚!魔王討伐で願いを一つ何でも叶える!』
簡潔なお触れは民衆の興味を惹き、僕の村では若い男は強制的に参加させられた。みんな魔王怖かったんじゃないの?やっぱりお金の力は偉大なんだな。やる気はおきなかったが仕方ない。天涯孤独な僕を大切に育ててくれた村なのだから。
そして勇者決定戦。あれよあれよとトーナメントを勝ち進み、僕は勇者の称号を押し付けられた。
魔王討伐出発の日、王城に召集され、ガチャガチャと鎧を着せられる。王様に会うからっておとなしく着せられたけど……何これ、おっも……。逆に動きづらいんですけど。それから謁見の間までガチンゴチンと大きな音をたてて歩いたのだった。
「あなたが勇者ね。私はマーサ、魔法使いよ。よろしくね。ふぅん……いい男じゃない」
「へぇ、あんたが勇者かい。あたしゃリサ、弓使いだよ。見所がありそうじゃないか。よろしく頼むよ」
「勇者様、あなた様が現れるのを心よりお待ちしておりました。聖女エマと申します。よろしくお願い致します。私の勇者様……」
「ど……どうも。カイルです」
謁見の間には王族の方々と、初めて会う三人の女性がいた。魔王討伐のパーティメンバーらしいけど、それにしても圧がすごい……。体をペタペタと触られ、流石に引いてしまった。鎧触って何がわかるんだろ……。
「こちらが聖剣ですわ。勇者様にお似合いの神々しさですわね」
「えっ、いや……」
お姫様手ずから聖剣とやらをずいっと渡してくる。
受け取らないと言う選択肢は与えられないらしい。既にチカチカする様な防具を着せられてますし、普通の武器がいいんですけどね。
「ふぉっふぉっふぉっ。姫は勇者がお気に召したようじゃのぉ。どうじゃ勇者よ、魔王討伐の暁には姫との婚儀を……」
「出発のお時間です!勇者さま!」
「そうね!早速魔王討伐の旅に出ましょう!」
「善は急げだね!よっしゃ、行くよ勇者!」
「ちょっ、えっ?」
いや、助かったけど。王様のお言葉遮ってよかったの?王様キョトンとしてるよ?このまま出てっていいの?お姫様の顔がえらい事になってますけど!?こわっ!ねえ、これ怒られない?大丈夫?
僕は三人に引きずられるように王城を後にした。ごめんよ、重いよね。
王都を出てすぐ防具一式を脱いで、次の街で買い替えた。動きにくいし、目立ちすぎるからね、あの鎧。聖なる鎧とか言われたけど、真っ白で縁が金ピカの鎧なんて悪目立ちするよね。僕も大概失礼なやつかもしれないけど、アレはない。流石に聖剣は売れないので、仕方なく僕の武器になった。
強引な彼女たちのおかげもあって、ものの数ヶ月で最後の砦と言われる街に辿り着いた。
強力な魔物が潜んでるって話だし、少しだけでも魔物の様子を見ようと街を進むと、門番にここから先の魔の森は模擬戦闘システムとやらをクリアしなければ進めないと止められてしまった。
宿屋で一泊して翌日、早速主催の冒険者ギルドへ向かい、システムの参加を申し入れる。説明をしてくれた受付の青年はあまり愛想が良くなく、整った顔立ちも相まって冷たい印象を受けた。
「パーティの代表者はカイル……勇者様ですね?では、勇者様がクリアされれば、パーティの方々は同等の扱いとさせていただきます。途中での一時中断も可能ですし、早速開始しますか?」
申請用紙の職業欄を見て、少し目を細めたのは気のせいだろうか……?
自分で勇者って書くの流石に恥ずかしいよね。でも平民って書こうとしたらエマに泣かれたから仕方なかったんだ。
「あ、はい。僕一人がクリアするだけでいいんですか?」
「ええ。めんど……いえ、クリアできるのであればそれで結構です。では、参加費用大金貨三枚ちょうだい致します」
「はぁ?大金貨三枚?ただ模擬戦するだけだろう?ぼったくりもいいとこじゃないか!」
リサが青年に食ってかかる。
「適正価格です。模擬戦で負った傷は、ギルドが責任をもって治療致しますので。それに、システム自体がこの街の住民の善意で成り立っています。システム参加者全員の安全確保や治療、装備の支給を考えると、むしろ破格なんですよ。街の商人達に感謝こそすれ、ぼったくりなんて以っての外です。ご納得いただけましたら、お支払いを」
「そうだよ、リサ。それに、僕達は一人分で全員通してもらえるんだから、更に良心的だよ?はい、大金貨三枚」
「チッ。そうかい、悪かったよ」
リサさん、それは悪かったって思ってないやつデスネ。
しかしすごい、街全体で支え合ってるんだな。他の街にはない一体感だ。僕はリサを制してお金を支払った。
「チッ。確かにいただきました。では、そちらでお好きな武器をお選びいただき、準備ができたら外の演習場へお越しください」
青年は端にある武器庫を指す。聞こえてますよ舌打ちが……。お相手もなかなか良い性格をしている様だ。ある意味助かったな。
青年は後ろの職員へ声をかけると、外へ出ていった。青年の代わりに、声をかけられた職員が受付に座る。
先に演習場に行ったのかな?早く選んで行かなきゃ。
使い慣れた剣に近い武器を選び、ギルドの横にある演習場に向かった。
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