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一章 勇者様の秘密

2話 勇者の◯◯がボコボコなんですが

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「やっほー。七段階クリア者が出たって聞いたんだけど」


 オレは宿屋に行く前に冒険者ギルドに寄った。よく考えたら、どんな人なのかヴァンさんに訊くの忘れてたよね。


「アーシェさん!こんばんわ。そうなんです、昨日街に来たばかりの男性で、何でも王様から魔王討伐を依頼された勇者様なんだとか。ついにですかね……」


 冒険者ギルド職員のトーマが受付に座っている。オレを慕ってくれていて、年上ではあるがとてもかわいい。青っぽい銀髪に猫目がちな金色の目。いつも目がキラキラしている綺麗な青年だ。


「へぇ、やっと国王も動いたか。重いお尻だ事。しかし軍勢じゃなくて勇者様を立てるとはね。どんなやつなの?これからアフターケア行くけど」


 模擬戦闘中にできた傷は冒険者ギルドが責任をもって治す。料金内のアフターケアだ。何せ無傷でクリアするやつなんていないからね。必ず入ってもらう保険みたいなもんだ。一番最後で暇なオレの役目でもある。ちなみにさっきヴァンさんが買っていったポーション代もギルドが払う。闘士達のケアもギルドの管轄なのだ。


「正確には勇者様御一行ですね。と言っても、今回の参加者は勇者様のみにしてもらいましたので、負傷者は一人です。行けばお仲間の方が教えてくださると思いますよ。魔法使いと弓使いと僧侶の女性です。チッ。まぁ行けばわかりますよ」


 わぉ、勇者ハーレムじゃん。そんな顔しないのよ、トーマ。聞こえてるから舌打ちが。やるなら心の中でしなさい。
 トーマの反応からして、面倒な気配がムンムンしてるよね。とっとと行って、とっとと終わらせよう。


「わかった。じゃあいってくるよ」


「ああぁ!待ってください!ヴァンさんからの伝言です。『見える所しか殴ってねーから、脱がす必要はねぇ』との事です」


 踵を返そうとすると、トーマがオレを呼び止める。思わずピタッと止まってしまった。
 え……。それでぶっ倒したって事は……ヴァンさん鬼や……。早く行ってあげないと、パーティのお姉様達泣いてんじゃないの?
 服から出ていて人を倒せる部位とはドコでしょうね?勇者裸族だったりしてくれないかなぁ……あーヤダヤダ。オレはボコボコになっているであろう患部を想像して身震いした。


「はぁい……ん?」


 ふと、呼び止める為に近くなっていたトーマの顔を見た。


「あれ?トーマ、どうしたの?そのほっぺ。切り傷できてるじゃん。ちょっと待って」


「いいえ!大した傷じゃないですし、大丈夫ですよ!」


 よく見ないとわからない程度のものだけど、左側の頬に二センチくらいの横線ができている。血も出ていない薄皮一枚切れたくらいの傷だけど、トーマの綺麗な顔に傷なんて似合わないからね!
 オレは持っていたカゴからライフクリームを取り出して、トーマのやわらかほっぺに塗り込んだ。


「ダメだ、ちゃんと使え。オレが愛情込めて作ったんだから、たっぷり使ってくれよ?なくなったらまた納品するから言ってくれ」


「はっはい!いつもありがとうございます!」


 トーマの顔が真っ赤になる。ほんとかわいいやつじゃのぉ。


 「じゃあ、勇者様をお救いしてくるよ……。またね、トーマ」


「よろしくお願いします、アーシェさん。またいつでもいらしてください!」


 嫌な予感にゲンナリするが、トーマの癒しで少し気が楽になる。ポンチョのフードを被り、トーマに手を振って今度こそ宿屋へ向かった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「こんばんはー。勇者様御一行は……」 
「あなたが薬屋ね!早く来て!こんな事になるなんて聞いてないわ!」
「そうだよ!あんなになるまで殴りつけるなんて!信じられないよあのオヤジ!今度会ったらただじゃおかないよ!」
「うわぁん!このまま治したら勇者様の歯が……!何とかしてください!」


 ぎょえー。やっぱりこうなるよねー。必死の形相で美女三人が迫ってきた。
 魔法使いらしき人がオレの手を引いて歩き、弓使いらしき人がオレの後ろからキンキン叫び、僧侶らしき人が一番後ろを泣きながら着いてくる。
 カオスー……。やめてー、ここ店だから。他のお客様にご迷惑ですからー。
 宿屋のおかみさんも疲れてるはずなんだけど……今は会えないか。オレは引かれるままに二階の部屋に到着した。


 宿屋は一階が食堂兼バーで、二、三階が客室だ。部屋数を確保する為に、部屋は狭めだが、シングルベッドに机と椅子が一つずつ、ベッド横にはサイドボードとランタン。簡易シャワーも付いている。


 バン!と勢いよく扉が開けられ、部屋の内装が見えた。そのシングルベッドには……予想通り、顔面がボコボコで原型を留めていない男が横たわっている。光源はランタンだけだし、軽くホラーだ。
 すまん。うちのヴァンさんがすまん。
 オレは心の中で両手を合わせて合掌した。




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