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第一幕 プロローグ
プロローグ side???
しおりを挟むカランカランーー
店の扉に取り付けられたベルが鳴る。
「いらっしゃいませー」
「ポーションがほしいんだが、ライフポーションを三つ……おや?お嬢ちゃんが店番かい?」
帯剣したガタイのいい男が入ってきた。みるからに冒険者って感じ。ボクは棚の上で伏せながら、くぁーっとあくびをした。
「かしこまりました。ふふふ、私がここの店主ですから。お客様、当店は初めてですね?他にもヒールポーションがありますよ。ライフポーションより効果が高い私特製のポーションです。斬られた手足なんかも引っ付けちゃいますよ。他にも一時的に力が増すアタックポーションなんかもおすすめですが、いかがですか?」
男は目を丸くして驚いている。そりゃそうでしょうな。そんなポーション他では売ってないからにゃ。
「なんだって!?そこまでの傷は神殿に行かないと治せないだろう!それに、力が増すポーション?他の街では聞いた事もないぞ」
「一度使っていただければわかりますよ。私はずっとここでお店をやってますし、ご不満であればいつでも返品受け付けます。自慢の当店だけのオリジナル商品ですからね!他にもディフェンスポーションなんておすすめで……」
店主と名乗った彼は、ボクのご主人様。
カウンターにずらりと瓶を並べ、各ポーションについて説明し始めた。
始まると長いんだにゃー、これが。ご主人様の悪い癖にゃん。これだから商人ってやつは。
襟足が腰まである暗めの青髪を細く編み、長い睫毛に縁取られた少し垂れ気味の目は、瞳がエメラルドの様に輝く。背が低く、色白で血色の良い肌はとても華奢に見える。フリルのついたエプロンに幼い事も相まって、言われなければ誰も男だとは思わない見た目だ。わざとみたいだけどにゃ。
「いやぁ!流石、最後の砦アンタレス!こんないいポーションが買えるなんて!」
男は結局、幾つものポーションを購入した。毎度ありにゃん。今日の晩御飯が豪華になる予感がして、舌なめずりをする。
かわいいご主人様に、大抵の男は財布の紐がゆるゆるなのにゃ。もちろんポーションの効果もあるけれど、初見の客にここまで買わせるのはさすがだにゃん。
「ふふふ。喜んでもらえて良かったです。この街に来たばかりですか?」
「そうだ、昨日到着したところでな。一日休みを取って、明日から討伐に出ようと思ってるんだ」
おっと。ご主人様、悪い顔が出てるにゃん。僕は起き上がって、カウンターの上に降り立った。
ほらほら、ボクを撫でて落ち着くにゃん。にゃふー、そこそこー。
ご主人様はボクを撫でながら、男に花の様な笑顔を向けた。愛想笑いもここまで来ると天才の域だにゃ。
「そうなんですね。では、この街に模擬戦闘システムがあるのはご存知ですか?冒険者ギルドに行けばわかると思いますが、森に入るには受けておかないといけないんです。腕試しにも丁度良いですよ」
「ほぉ?では明日ギルドに行く予定だから、一度訊いてみるよ。どうもありがとう、また来るよ」
カランカランーー
「毎度ありー。お気をつけてー」
男は扉を開けて、手を振って出ていった。
「悪い顔ー。自分でぼこぼこにして、また薬を売りつけるなんて……ご主人様流石にゃ」
「人聞きの悪い事言うなよ。このシステムは善意だから。あんなのちょっと進んだだけで死んじゃうでしょ。それに、まずオレまで辿り着かないし、治療もギルド持ちだよ。早く強くなって欲しいなって思っただけ。下手な鉄砲、数打ちゃ当たるってね」
あー。また悪い顔してるにゃん。そんな顔は看板娘に似合わないにゃ。
ボクは黒くツヤのある体をご主人様に擦り付ける。最後に自慢の尻尾でサラッと顎をさらって、また棚の上に陣取った。
「ひぇー!なんて魔性な猫なんだ!肉球フニフニの刑だーっ!降りてこーい!」
ここは、かわいい看板娘(男)と(喋る)黒猫がいる普通の薬屋さん。今日も元気に営業中。
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