秘密の多い薬屋店主は勇者と恋仲にはなれません!

白縁あかね

文字の大きさ
上 下
2 / 58
第一幕 プロローグ

プロローグ side???

しおりを挟む



 カランカランーー
 店の扉に取り付けられたベルが鳴る。


「いらっしゃいませー」


「ポーションがほしいんだが、ライフポーションを三つ……おや?お嬢ちゃんが店番かい?」


 帯剣したガタイのいい男が入ってきた。みるからに冒険者って感じ。ボクは棚の上で伏せながら、くぁーっとあくびをした。


「かしこまりました。ふふふ、私がここの店主ですから。お客様、当店は初めてですね?他にもヒールポーションがありますよ。ライフポーションより効果が高い私特製のポーションです。斬られた手足なんかも引っ付けちゃいますよ。他にも一時的に力が増すアタックポーションなんかもおすすめですが、いかがですか?」


 男は目を丸くして驚いている。そりゃそうでしょうな。そんなポーション他では売ってないからにゃ。


「なんだって!?そこまでの傷は神殿に行かないと治せないだろう!それに、力が増すポーション?他の街では聞いた事もないぞ」


「一度使っていただければわかりますよ。私はずっとここでお店をやってますし、ご不満であればいつでも返品受け付けます。自慢の当店だけのオリジナル商品ですからね!他にもディフェンスポーションなんておすすめで……」


 店主と名乗ったは、ボクのご主人様。
 カウンターにずらりと瓶を並べ、各ポーションについて説明し始めた。
 始まると長いんだにゃー、これが。ご主人様の悪い癖にゃん。これだから商人ってやつは。


 襟足が腰まである暗めの青髪を細く編み、長い睫毛に縁取られた少し垂れ気味の目は、瞳がエメラルドの様に輝く。背が低く、色白で血色の良い肌はとても華奢に見える。フリルのついたエプロンに幼い事も相まって、言われなければ誰も男だとは思わない見た目だ。わざとみたいだけどにゃ。


「いやぁ!流石、最後の砦アンタレス!こんないいポーションが買えるなんて!」


 男は結局、幾つものポーションを購入した。毎度ありにゃん。今日の晩御飯が豪華になる予感がして、舌なめずりをする。
 かわいいご主人様に、大抵の男は財布の紐がゆるゆるなのにゃ。もちろんポーションの効果もあるけれど、初見の客にここまで買わせるのはさすがだにゃん。


「ふふふ。喜んでもらえて良かったです。この街に来たばかりですか?」


「そうだ、昨日到着したところでな。一日休みを取って、明日から討伐に出ようと思ってるんだ」


 おっと。ご主人様、悪い顔が出てるにゃん。僕は起き上がって、カウンターの上に降り立った。
 ほらほら、ボクを撫でて落ち着くにゃん。にゃふー、そこそこー。
 ご主人様はボクを撫でながら、男に花の様な笑顔を向けた。愛想笑いもここまで来ると天才の域だにゃ。


「そうなんですね。では、この街に模擬戦闘システムがあるのはご存知ですか?冒険者ギルドに行けばわかると思いますが、森に入るには受けておかないといけないんです。腕試しにも丁度良いですよ」


「ほぉ?では明日ギルドに行く予定だから、一度訊いてみるよ。どうもありがとう、また来るよ」


 カランカランーー
「毎度ありー。お気をつけてー」


 男は扉を開けて、手を振って出ていった。


「悪い顔ー。自分でぼこぼこにして、また薬を売りつけるなんて……ご主人様流石にゃ」


「人聞きの悪い事言うなよ。このシステムは善意だから。あんなのちょっと進んだだけで死んじゃうでしょ。それに、まずオレまで辿り着かないし、治療もギルド持ちだよ。早く強くなって欲しいなって思っただけ。下手な鉄砲、数打ちゃ当たるってね」


 あー。また悪い顔してるにゃん。そんな顔は看板娘に似合わないにゃ。
 ボクは黒くツヤのある体をご主人様に擦り付ける。最後に自慢の尻尾でサラッと顎をさらって、また棚の上に陣取った。


「ひぇー!なんて魔性な猫なんだ!肉球フニフニの刑だーっ!降りてこーい!」


 ここは、かわいい看板娘(男)と(喋る)黒猫がいる普通の薬屋さん。今日も元気に営業中。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!

かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。 その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。 両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。 自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。 自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。 相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと… のんびり新連載。 気まぐれ更新です。 BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意! 人外CPにはなりません ストックなくなるまでは07:10に公開 3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

黒龍様のお気に入りはー………

月蛍縁
恋愛
この国では一人の王子が其の国の人々から恐れられていた その者はアルガード・レフリオンと名乗る 国の人々からは黒龍様と言われている 其の黒龍様は一人の女性を気に入り愛していた 其の女の名は       エリオット・アルベルト この国一の最強執事であり………である

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

処理中です...