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14 トゥオネタル族
298 イロナの里帰り3
しおりを挟む「魔王だと……」
祖父の死因を聞いて、イロナは複雑な顔。また魔王と戦える喜びと、いくらなんでも親類が亡くなっているので悲しみが少しはある模様。その横顔をヤルモは心配そうに見ているけど、「また魔王かよ」とかも思っている。
「どうしてこうなったか詳しく話せ」
「うむ。アレはイロナが戻る少し前……」
父親のトピアスは、とうとうと語るのであった……
トゥオネタル族では普段ダンジョンに入る者は、地下1階にいるモンスターを追い出して食材にする者か、子供のレベルアップに付き合う者、何か甘い物を探す者しかおらず、比較的浅いところまでしか潜らない。
最下層まで行くのは魔王が発生してスタンピードが起こる時のみ。これは強靱なトゥオネタル族が楽しむためには、難易度の高いモンスターの群れや魔王がいないと面白くないからの無謀。
しかし、トゥオネタル族では魔王発生はお祭りのようなものらしい。
お祭りなので、ダンジョン攻略はどこか緊張感はない。我先に一人で突っ込む者がいたり、パーティを組んでより早く最下層まで辿り着こうとする者がいたり。
これだけ余裕を持てるほどトゥオネタル族は強いのだから、スタンピードは誰一人死なずに終了。ここからはスタンピード終了時に先頭にいた者が、どんどん地下に進んで魔王を狙う。
ダンジョンの迷路で時間が取られるので結局は追い付かれるが、そこは騙すことはなく、自分の情報を出して最短距離を割り出す。
そうしていたら、最終的には最下層手前でトゥオネタル族は全員集合してしまうので、最後のセーフティエリアでは、ダンジョンで手に入れたドロップアイテムで酒盛りになるらしい……
残り2階となれば、あとは早い者勝ち。全員ダッシュで、四天王と魔王の取り合いになるそうだ。
ちなみにイロナは、ほぼ孤立。残り10階で抜け駆けし、ドラゴン以外は無視して四天王と魔王を一人で倒したことがあるんだとか……
その日もいつものようにスタンピードの兆候を感じたトゥオネタル族はお祭り騒ぎとなり、戦える者全てでダンジョンに潜って、スタンピードを蹴散らして進軍した。
だが、四天王を倒したまではいつも通りだったのだが、魔王の間での戦闘が一向に終わらない。ギャラリーが増え行くなか、一組目が倒れると次が襲い掛かり、その数はレイド戦のようになっても魔王は倒れなかったのだ。
魔王が倒れないということは、トゥオネタル族の戦士が倒れているということ。つまりは、怪我人や死者が出て、戦士が減っているのだ。
まさかの事態にトピアスは混乱して、トゥオネタル族全ての特攻を仕掛けようとしたらしいが祖父に止められた。祖父はそれでも勝てないと判断したそうだ。
このままでは全滅になってしまうので、祖父は年寄りだけを集め、命を懸けて生き残ったトゥオネタル族を逃がして今日に至る。
このこともあって、最強のイロナの帰還はトゥオネタル族の希望なので、イロナのことが嫌いな人でも喜んでいたのだ。
「そうか。我がいない間にそんなことがあったのか……」
全ての話を聞き終えたイロナは、それだけ告げると口を閉ざす。ヤルモはイロナなら「情けない」とか怒ると思っていたのだが、塞ぎ込んでいるように見えるので、悲しんでいるのかもしれないと意見を変えた。
その他の人もイロナが怒ると思っていたらしく、顔を見合わせて目だけで何かを語っていた。
「事情はいま話をした通りだ。だからイロナ……オヤジの仇を取ってくれ」
そんななか、トピアスに頭を下げられたイロナは……
「ああ。わかった。もう寝る」
それだけ言って席を立つのであった。
「あ、えっと……イロナ~」
残されたヤルモは、イロナの傍にいないと命の危機があるので、追いかけるのであった……
「ここがイロナの部屋か~」
山積みにされた岩の頂上にある部屋に入ったヤルモは、キョロキョロしている。初めて入る女子の部屋だから仕方がない。
(なんだこの折れた剣の数々は……百本以上あるぞ? あのベッドも服を丸めて作っているような……てか、アレってレジェンド防具じゃね?)
いや、女子の部屋と思えない殉職した剣の数々と、ありえない使い方をされた防具の数々が気になってしょうがないらしい。
「あ、お義母さんにお土産渡すの忘れていたな。そうだ! クッキーでも食べるか?」
珍しくよく喋るヤルモ。イロナがベッドに寝転んでから一切喋ろうとしないので、沈黙に耐え兼ねたみたいだ。
とりあえずクッキーをイロナの顔の前に持って行ったら、ヤルモは指ごとかじられて痛い思いをする。それでもイロナにクッキーを食べさせていたら体を起こした。水分が欲しくなったみたいだ。
「なんだか大変な時に帰って来ちゃったな。イロナは大丈夫か?」
ジュースを飲み干したイロナは、ようやく口を開く。
「大丈夫なのだが、何かがおかしい。胸がザワザワするのだ」
「あ~……」
ここでヤルモはイロナが塞ぎ込んでいる理由に気付いた。
「それは悲しみってヤツだろう。イロナはおじいさんのことを好きか尊敬かしてたんだな」
そう。イロナは初めての感情に戸惑っていたのだ。だけどヤルモもそこまで詳しくないから微妙な言い方だ。
「我は悲しんでいるのか……」
イロナも口に出して納得しているように見えたので、ヤルモは隣に座ってイロナを抱き締めた。
「主殿?」
「俺が悲しい時、こうしてくれただろ? それですっごく心が軽くなった。頼りない男だけど、イロナを抱き締めるぐらいならいつでもできる。たまには俺のことも頼ってくれ。な?」
「主殿……」
イロナは答えを告げずにヤルモに身を任せる。そんなイロナを優しく抱き締め続けるヤルモであった……
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