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14 トゥオネタル族
296 イロナの里帰り1
しおりを挟む死の大地を二時間ほどで抜けたイロナに驚いていたヤルモであったが、目の前にトゥオネタル族の集落があるのでそちらにも驚かないといけない。
「こう言っちゃあなんだけど、質素な所だな」
集落は広さはあるが、人族の領域の村に毛が生えた程度。家は石造りなのだがムリヤリ岩を積んだような形をしているので、ひとつとして同じ形の家はない。
「うむ……確かに人族の町と比べたら、酷い物だな。我はこんな所に住んでいたのか……」
「いや、そこまで言ってないよ? 俺の村も似たような物だし」
外の世界を知ったがための自信喪失。イロナでもそんなことでへこむのかとかわいく思ったヤルモは慰める。というか、ギリここに負けているので、ちょっと良く言ってるな。
「ま、とりあえず中に入ろうぜ」
「そうだな。主殿を両親に会わせないといけなかった」
「あ……そのために来たんだった……緊張するぅぅ!」
「行くぞ」
「歩くからぁぁ~~~」
目的を思い出したヤルモはガッチガチ。イロナに首根っこを掴まれて引きずられていたが、このままでは心証が悪いので、右手と右足を揃えて歩くヤルモであった。
「イロナだ……」
「イロナ……」
「イロナが帰って来たぞ~~~!」
トゥオネタル族はイロナを見た瞬間、お祭り騒ぎ。人族であるヤルモには気付いていないのか、イロナコールが起こっている。
「大人気だな。やっぱ美人だから、イロナの帰りを待っていたんだろな~」
「いや。おかしい……」
「ん? 何がおかしいんだ?」
「我はそこまで好かれていなかったはずだ。特に女には嫌われていたし、男もほとんど半殺しにしたから、旅立つ前には近付いて来る者も極一部だったのだ」
「へ~~~」
イロナが孤立していたと聞いて、ヤルモは掛ける言葉もない。女性から嫌われているのは嫉妬から来るモノだと慰めようと思ったが、ほとんどの男を半殺しにしたと聞いたからには吹っ飛んだのだ。
「本当に近付いて来ないな」
あと、トゥオネタル族は喜んでいるくせに、イロナから一定の距離は取って一向に近付いて来ないので、「やっぱりここでも怖がられていたんだ~」と、ヤルモはウンウン頷いてる。
「てか、本当に岩みたいな体してんだな。女は普通だ」
騒ぎに慣れて来ると、ヤルモはトゥオネタル族の姿に目をやってしげしげと見ている。そのトゥオネタル族はというと、男は全員上半身裸で半ズボン。ヤルモとさほど変わらない体型だが筋肉が尖っているので、伝承通りと納得。
髪の毛は白い髪の者と黒い髪の者の二種類で、色がまざっている者もいるから年齢が判断しにくい。ただし、男の髪の毛は奇抜な形が多く、上に尖がっている者や横に尖がっている者もいてバラエティーに富んでいる。
女性の髪の毛はそこまで奇抜な人はいない。体型も人族と同じなのでイロナから得た情報通りと納得し掛けたが、服装は気になるらしい。
「なぁ……女が着てる服って、めちゃくちゃ高そうじゃない?」
「値段はよくわからんが、全てトリプル以上の装備だ。男がダンジョンで手に入れた物を贈ったりなんかしてるからな」
「マジか……」
トゥオネタル族は、生活必需品はほとんどダンジョンからまかなっている。モンスターが落としたドロップアイテムがほとんどで、気に入った物や食料なんかは持ち帰っているとのこと。
宝箱はドロップアイテムよりショボイ物しか出ないので踏み潰されることが多いらしいが、布製品は壊れずに残るので持ち帰って女性に配ることが多いのだ。
ちなみにスタンピード以外に深く潜ることをしていないので、それだけでは食料はまかなえないから、食料はダンジョンの1階をウロついている憐れなモンスター。
そのモンスターを無理矢理ダンジョンから引っ張り出して食っているとのこと。海が近くにあるから塩には困っていないそうだ。
騒がしい集落の中をヤルモとイロナが喋りながら歩いていたら、ここで一番大きな岩の塊に到着した。
「ここが我の実家だ」
「岩が積まれているようにしか見えないんたけど……」
「見た目は悪いが、中はかなり広いぞ。何せ我が増築して三階建てにしてやったのだからな」
「なるほど……」
トゥオネタル族の建築方式は、積み石式。近くの岩場で自分で砕いた岩を背負って来て、バランスよく積んだだけ。娯楽の少ないトゥオネタル族では、遊びの延長で家を増改築しているらしい……
「では、入るぞ」
「ちょ、ちょっと待って。深呼吸を……」
「文句を言われたら、我が呼吸できないようにしてやるから大丈夫だ」
「親御さんにも息させてやってくれ……」
「行くぞ」
ヤルモは緊張を和らげたかったが、イロナに続くしかない。だってイロナが親の息を止めようとしてるもん。
そうして人が通れるような隙間から中に入ると……
「イロナ。よく戻った」
「おかえりなさい」
イロナの一族がお出迎え。身長2メートルオーバーで角刈りの父親トピアスと、小さくて優しそうな母親アイリに続き、奇抜な髪形の兄弟や親戚までも笑顔で出迎えてくれている。
「なんだその仰々しい出迎えは……また我と殺り合いたいのか?」
それなのに、イロナは酷い。まぁ家を出る時に、ここにいるほとんどの人を半殺しにしたのだから、イロナとしては恨まれていると思っていたのだろう。
「娘が帰って来たのだ。嬉しいに決まっているだろう」
「怪しい……帰ったら殺してやるとか言っていたヤツの言葉には思えん」
「あ、アレは……売り言葉に買い言葉ってヤツで……ん?」
イロナに睨まれて焦ったトピアスは何か言い訳を考えていたら、オロオロしているヤルモが目に入った。
「なんだそのオークみたいなヤツは??」
文化の違い。初めて人族の男を見たのだから、トピアスは知っている物に当て嵌めたが、そこは女みたいなヤツでもよかったと思う……ムキムキマッチョじゃ無理か。
「この男は我の彼氏だ。近々結婚するから挨拶に連れて来たのだ」
「彼氏……結婚……」
イロナの口から絶対に出て来ないワードが出て来て、一族はフリーズ。ヤルモもいつ切り出そかと思っていた話をイロナにぶっ込まれたので固まってしまった。
「「「「「結婚だと~~~!?」」」」」
そして、一族郎党とんでもなく取り乱すのであったとさ。
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