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12 凱旋
281 帰還7
しおりを挟むお城で行われた食事会の席で、ヤルモが各種最高ランクのカードを返そうとしたら、聖女オルガが用意したカードは受け取ってもらえたのだが、その他のカードはクリスタとカーボエルテ王が受け取ってくれない。
「やっぱ俺のこと、飼い殺そうとしてない?」
「「たはは」」
「『たはは』じゃねぇよ」
そりゃ、魔王と戦えるほどの戦力を手放すのは、王族としてはマイナス行為。騙してでも残って欲しいのだろうが、騙したとバレるとヤルモが確実に逃げるので、折衷案を出していた。
「貴族カードが一番いらないんだけど……」
折衷案は、騎士カードは没収。冒険者カードはSランクからAランクに降格。貴族カードは男爵家から一代限りの名誉貴族に変更。
「貰っときなよ。貴族カード便利だったでしょ?」
「まぁ、ちょっとは……でも、面倒なことしないといけないんだろ?」
「ないない。名前だけの貴族。普通は上位貴族からナメられるポジションだけど、それには王印が押されてるから大丈夫。命令とかはできないけど、貴族に見せたら逃げて行くはずよ」
「な~んか騙されてる気がするんだよな~」
「あはは。ヤルモさんらしいね~。私たちは、ヤルモさんにこの国で暮らして欲しいから、最大限の譲歩をしているだけよ。力尽くや甘い誘惑だと、よけい逃げるでしょ?」
クリスタが言う通り、下手に策を張り巡らされたらヤルモは確実に逃げる。それよりも、自由にどこにでも行けると確約したほうが残る可能性が高いと、ヤルモ自身も思ってしまった。
「ま、いざとなったら破いて捨てたらいいか」
「あはは。破られないように気を付けなきゃね~」
ヤルモが折れることで、カード問題も解決。クリスタは「絶対にちょっかい掛けるな」とカーボエルテ王に念を押して、お城をあとにしたのであった。
その夜、クリスタたちの帰りが遅かったからエイニが心配してヤルモの部屋で夕食に同席していたら、クリスタがヤルモの予定を聞いていた。
「ここ最近ぜんぜん稼げてないから、特級ダンジョンに潜ってみるつもりだ」
「お父様からあんなに貰っていたのに……」
「お前たちは若いからそんなことを言ってられるんだ。俺ぐらいの歳になると、いつ引退してもいいように準備しておかないといけないんだからな」
「だからお金に意地汚いんだ!」
「ヤルモさんが意地汚い理由がようやくわかりましたね」
「意地汚いってなんだよ」
「「あ……あはははは」」
ヤルモのお金の使い道の正解がわかったようだけど、クリスタとオルガは言い方が酷い。だからヤルモに睨まれるのだ。
「でも、確かに引退後のことを考えておくのは早いほうがいいか。私と聖女様はいいとして、他は……」
クリスタは王女様なので、勇者を引退しても王家に残ったりどこかの貴族が引き受けてくれるから問題なし。オルガも聖女なので、引退後も教会が世話してくれるから大丈夫。
パウリは騎士から出向しているので、いざとなったら軍隊の要職を用意してもいいし、王家直属の護衛としても使えそう。
問題は庶民のリュリュとヒルッカ。皆の再雇用の話を聞いて、二人に引退後の不安がいきなりのし掛かって来た。
「リュリュ君は……魔法アカデミーの教師に推薦してあげよっか? 勇者パーティの後衛なら、引く手数多でしょ」
「あ、ありがとうございます!」
「わたしも! わたしも再雇用先が欲しいですぅぅ」
リュリュが決まると、職業がシーフのヒルッカは焦って手を上げるが、クリスタは悩んでいる。
「う~ん……うちの密偵とか? それとも暗部? いや、女の子にそれはきついか……」
「え……わたしって、そんな危険な仕事しかないのです!? お皿洗いでもいいですから雇ってくださ~い」
「冗談、冗談よ。ヒルッカちゃんなら、お嫁さんって選択肢があるからね。もしもの時は、お見合い相手用意してあげるから」
「もしもの時ってなんですか~」
クリスタのもしもの時は、ヒルッカが意中の相手にフラれた時。ヒルッカの意中の相手はクリスタたちにバレバレなので、からかっているみたいだ。
そこに、リュリュも焦りながら参戦する。
「ヒーちゃんお見合い結婚するの!?」
「しないしない。しないよ? だってわたしは……」
「わたしは??」
「もう! リュー君のバカ~~~!!」
「あっ! ヒーちゃ~~~ん!!」
ヒルッカが怒りながら部屋から出て行くので、リュリュは追いかけるのであった。
「「「「「ズズズーーー」」」」」
二人が部屋から居なくなると、何故か全員が同時にお茶をすすってほっこりしていた。
「若いって素晴らしいね~」
「青かったですね~」
クリスタとオルガは、二人の青春が面白かった模様。その他も似たような感想を遠い目をして言っている。
「うむ……確かに若人が色恋沙汰に右往左往している姿は面白いな」
イロナまでこんな感想を言うので、ヤルモは不思議に思う。
「おい、誰だ。イロナに変な知識を入れたヤツ……」
そう。色恋沙汰に疎いイロナの口から到底出て来る感想ではないから、ヤルモは犯人探しをしているのだ。
「パウリ以外の全員かよ!」
クリスタたちがそろりと手を上げるので、ヤルモはいつかの女子会を思い出すのであったとさ。
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