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12 凱旋
279 帰還5
しおりを挟むクリスタたちと再会を果たして深夜近くまで話し込んでいた一同は、ヒルッカが睡魔に負けたのでお開き。さすがに特級ダンジョンから戻って来たばかりでは疲れていたみたいだ。
この日は「また明日」と言って、嬉しそうに解散したのであった。
翌日は、クリスタパーティの疲れを取るために、イロナブートキャンプはお休み。しかし、イロナの戦闘欲求に火がついていたので、ヤルモが餌食になっていた。
夜にボロボロのヤルモを見たクリスタたちが懐かしい感情に浸っていたら、ヤルモに引き戻される。
「明日は、お前たちだからな……」
そう。ヤルモは前菜。メインはクリスタパーティだ。舌舐めずりしているイロナを見たクリスタたちは、引き攣った笑いをするのであった。
次の日は、朝からお城の訓練場に移動。ウサミミ亭の庭は手入れがされているし、お客がいては迷惑になるからの配慮。
ヤルモが提案した近所の空き地は却下。勇者パーティがイロナひとりにボコボコにされるところを民に見せるわけにはいかないのだろう。
ただし、訓練場にはカーボエルテ王族が揃い踏みしていたので、ヤルモはクリスタをギロッと睨んだ。
「なんで王さんが居んだよ」
「私に聞かれても……いちおう人払いは手紙で頼んでおいたけど、二人のことが気になって来たんじゃない?」
「チッ。あのオッサンは……そうだ! お前、俺のこと嵌めやがっただろう?」
「嵌める? なんのこと??」
キョトンとするクリスタにヤルモが詰め寄ったところで、イロナの大声が響く。
「まずは勇者パーティ! お前たちからだ!!」
その声に、クリスタたちは嫌そうな顔をし、ヤルモも嫌そうな顔をする。
「あの言い方だと、俺の出番もあるのか……」
「あはは。御愁傷様。これで私たちが不甲斐ないことをしても殺されないわね」
「いや、勇者たちでイロナを満足させてくれたらいいんだぞ?」
「あの時より強くなったとは思うけど、イロナさんを倒せるとか天狗にならないわよ」
「頑張れ。死ぬほど頑張るだけでいいんだ」
「はいはい。怒られる前に行くね」
ヤルモの激励を軽く受け流したクリスタは、仲間を伴って前に出て、ダンジョンボスと戦うような陣形を取った。
「少し見ぬ間に、いい顔をするようになったじゃないか」
「イロナさんとヤルモさんに鍛えられたんだもの。不甲斐ないところを見せるわけにはいかないからね」
「フッ……その意気は良し! 存分に発揮するがよい!!」
「行くよ!」
「「「「はい!!」」」」
斯くして、クリスタパーティとイロナとの戦闘が開始するのであった。
「おお~。見違えるような動きになってる」
クリスタパーティはここ数ヵ月でレベルが上がり、ダンジョンボスとの戦闘を何度もこなしていたから連携もよくなっているので、ヤルモは褒めながら見ている。
しかしながら、イロナには一切通じず。模造刀なのにクリスタパーティにダメージが積み重なり、イロナから「まだまだ!」とダメ出しをくらいまくっている。
「まぁこんなものか」
およそ5分の戦闘で、クリスタパーティは早くもボロボロ。イロナは及第点のようなことを言ったから、クリスタはこの地獄が終わったのだと勘違いしてしまう。
「お、終わった~~~」
「何を言っている。本番はここからだ」
「へ?」
「しばし休憩だ。その後、主殿を入れて戦うから、それまでに死ぬ気で体力を戻すのだぞ」
「うそ~~~ん」
「うそ~~~ん」と言いたいのはヤルモのほう。昨日もボコられたのにと、渋々前に出た。
「1時間は持たしてね」
「んなに持つかよ。いいとこ10分だ」
「せめて30分!」
「イロナに聞け」
休憩時間は、ヤルモのさじ加減で決まるようなものではない。イロナの気分しだいだ。クリスタのお願いにヤルモはイロナの気分時間を告げただけで、タッチ交代。
珍しくヤルモから突っ込んで行った。
「うっわ……ヤルモさん、めちゃくちゃ強くなってる」
「私たち相手では、イロナさんのあの力も引き出せなかったのですね……」
ヤルモとイロナの戦いがクリスタパーティの時より激しさを増しているのでは、クリスタとオルガも驚きを隠せない。
「それにしても、ヤルモさんのあの武器なんだろう?」
「丸太ですかね? ……え? なんか出ましたね」
「遠距離の武器かな? また変なことになってるわね」
ヤルモの武器がバズーカに代わっていたのでは、そりゃ何かわかるわけがない。クリスタたちは戦車モードを思い出して話が弾む。
それからヤルモが甚振られて15分……
「おっと。主殿ばかりと遊んでいる場合ではなかった」
「はぁはぁ……やっとか……」
「では、次は本番だ!」
「休憩は?」
「主殿には必要なかろう」
「はぁ~~~」
予想より長く戦わされたヤルモはけっこう疲れているのに、イロナは休憩をくれない。なので、「作戦会議をする」と言って少しでも休もうとするヤルモ。
「見た通りだ。俺たちの攻撃なんて一切通じない」
「うん。無理だよね」
たった数分イロナと戦っただけで、クリスタは諦めモード。
「長時間戦うのも無駄なだけだ。短期決戦を挑むつもりで、死力を尽くせ」
「そこまでしないと満足してくれないんだ……それでもしも、いいのが入ったらどうしよう? イロナさん、怪我とかしない??」
「そんな心配はいらん。オスカリの攻撃をまともに喰らったのに、笑ってたんだからな」
「それはそれで怖いんだけど~~~?」
ヤルモの話はクリスタたちからしたら、ただの恐怖体験談。しかし、作戦はこれしかないのでやるしかない。
「さあ、行くぞ!!」
「「「「「はい!!」」」」」
斯くして、ヤルモとクリスタパーティは、イロナ相手に捨て身の戦闘を行うのであった。
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