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11 アルタニア帝国 帝都2
264 友情9
しおりを挟む「「……あれ??」」
あのイロナがオスカリの会心の一撃をまともに受け、仰向けに倒れているのでは思考が追いつかないヤルモとオスカリ。目を合わせて呆けている。
「やったのか?」
「そんなわけないと思うけど……」
「てか、立ち上がらないけど、やりすぎたか?」
「あの程度でイロナが死ぬとは思えないけど……」
「俺の生涯最高のひと振りを、あの程度とか言うなよ~」
オスカリとヤルモがイチャイチャやっていると、急激に辺りの温度が下がり、この場にいる全ての者が同時に凍えた。
「クフッ……ククククク……ワーハッハッハッハッ」
倒れているイロナが笑い出したからだ。
「なあ……アレ、ヤバくないか?」
「うん。俺たち死んだかも……」
笑いながら、手もつかずにゆ~っくりと立ち上がったイロナを見たオスカリとヤルモは、さすがに抱き合いはしなかったが、二人して死を覚悟した。
「こんなダメージを受けたのは数えるほどだ。二人とも……褒めてつかわす!!」
イロナはけっこう痛かったようだがめっちゃ笑っているので、二人は「ひょっとしたら助かったかも?」と思った。
「さあ! 続きだ~~~!!」
「「やっぱり~~~!!」」
そう思ったのも束の間。手加減を忘れたイロナに、ヤルモとオスカリは一瞬で吹き飛ばされたのであった。
「お、おい……生きてるか?」
「む、無理……ガクッ」
「オスカリ! これ飲め!!」
ヤルモより防御力の低いオスカリが死にそうになったので、ヤルモは慌ててポーションを飲ませて命を繋ぐ。そのドタバタで初めてヤルモに名前を呼ばれたオスカリは、安らかな顔で眠りに就くのであったとさ。
「はあ~。幸せな一時だった~」
オスカリパーティプラスヤルモをボコったイロナは満面の笑み。オスカリの手当てを終えて倒れているヤルモの元へとやって来て腰を下ろした。
「嬉しそうで何よりだ。ところで俺たちの最後の一撃って、わざと受けたんだよな?」
「いや、主殿が捨て身で来るとは思わなかったから、さすがに反応が遅れてしまった。そのおかげで、勇者の本気の一撃を喰らえたってものだ」
「あの攻撃を受けて喜ぶって……」
「反射的に避けてしまうから、なかなか無い経験なんだぞ」
イロナは斬られても喜んでいるので、ヤルモも呆れている。
「それより主殿だ。よく我の一撃で腕が取れなかったな」
「レベルが上がっていたからなんとかな。ま、俺も残ってる自信は無かったから、ギリギリだ」
「ふむ。レベルはいくつになった?」
「えっと……191だけど……」
「なるほど……どうりで最近、悲鳴があがらないわけだ」
ヤルモのレベルが上がったおかげで夜の生活が充実していると思っているイロナだが、事実はなんとか我慢できる程度。ヤルモが痛いのは変わっていない。
「個人的には、もう少し手加減してほしいんだけど……」
「それはできん。戦闘でも手加減が必要なくなるのが理想だ」
「はい? それは俺じゃなくて、アイツに言ってくれよ~」
訓練でイロナの相手はしたくないヤルモ。なんとしてもオスカリに押し付けたいようだが、現時点ではイロナが一対一で楽しめるのはヤルモとオスカリしかいないので、ターゲットは外れないのであった。
この日はイロナブートキャンプのせいで全員動けなくなったので、お開き。疲れ果てて眠りに就き、その翌日……
元聖女のマルケッタ王女が、ヤルモたちが滞在する宿泊場所へやって来た。
「そこへ掛けてくれ」
マルケッタを食堂に案内したヤルモは、イロナとクラーラの立ち会いの元で話をする。
「とりあえず、一筆書いてくれ。俺がこの国を救ったメンバーの一人と、これまでの罪は全て冤罪だったとな。謝罪文も付けてくれよ」
「わかりましたわ」
マルケッタを呼び出した理由は、自分の名誉を回復するため。この手紙をクラーラに故郷の村に運ばせて、誤解を解いてもらう手筈になっている。
今現在もヤルモの命令に逆らえないマルケッタは、指示通りに文章を綴り、書き終わったらヤルモが内容を確認し、手紙には皇家の紋章の入った蝋封を施した。
これをクラーラに預け、故郷に帰った際には村長に渡してもらう。
「それでなんだが……」
ヤルモはマルケッタの目を真っ直ぐ見ながら語る。
「お前は、いまだに俺を犯罪者だと思っているのか? 発言を許可するから、俺に対して思っていることを言ってくれ」
本題はこっち。ヤルモは大嫌いなマルケッタの本心を聞こうと呼び出したのだ。
「フンッ……ようやく自由に喋れるのですわね。耳の穴をかっぽじってよく聞きなさい!」
マルケッタの尊大な態度は変わらないので、ヤルモもやれやれといった仕草をし、酷いことを言われると覚悟した。
「我がアルタニア帝国を救っていただき、感謝していますわ!」
「え……」
「あのとき指示に従っていれば、あるいは魔王に帝都を滅ぼされなかったのに……申し訳ありませんでした」
「な、何を言ってるんだ……」
マルケッタの感謝と謝罪に、ヤルモは驚愕の表情を浮かべている。
「ヤルモのことを見直したと言っているのですわ。散々酷いことを言ってごめんなさい……わたくしのせいで、アルタニア帝国を滅ぼしてしまうところでした……本当に……本当にありがとうございました……ありがとうございました……」
先程まで尊大な態度だったマルケッタが涙を落としながら謝罪するので、ヤルモの体が震える。
「お、俺じゃない。アルタニアを救ったのは俺じゃない。イロナだ。ユジュールの勇者だ。カーボエルテの勇者が言ってくれなかったら戻って来なかったんだ」
「そうですわね……クリスタにも感謝しなくてはいけませんわね。それに、オスカリ様……イロナさんも、本当にありがとうございました」
マルケッタは憑き物が取れたような優しい顔でヤルモに近付いた。
「その中心にいたのは、ヤルモ……あなたですわ。アルタニア帝国の全国民を代表して、感謝します」
そして、マルケッタに抱き締められたヤルモは、堪え切れずに涙をなが……
「プッ……また何か企んでいるのか? もう引っ掛からないぞ。わはははは」
いや、マルケッタの態度が違いすぎて笑いを堪えるのに必死だったようだ。
「今回は本当ですわよ!」
「……そう言ってまた騙すんだろ?」
「誰か! この男に人の心を教えてあげてくださいまし!!」
というわけで、感動的なマルケッタの謝罪は台無し。いくら言ってもヤルモは、マルケッタの謝罪も感謝も信じないのであったとさ。
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