上 下
232 / 360
09 アルタニア帝国

212 アルタニアの魔王7

しおりを挟む

 ヤルモたちが心配して見ていても、イロナVS魔王の戦闘は激しさを増す。

 魔王は13本もある触手のような剣をムチのように振り、辺りには常に空気を引き裂く音が鳴り響く。

 そんななかイロナはというと、絶賛削り中。深く踏み込まずに触手剣を斬り落とそうとしているが、早くも使っていたロングソードが折れた。
 しかしもう一本は鞘に収めていたので、折れた剣の柄は魔王に向けて投げ付け、それと同時に新しい剣を抜く。

 また激闘を繰り広げ、イロナと魔王の戦いが30分にも及ぶと、二本目の剣も折れてしまった。
 それを見た勇者パーティが城壁から飛び下りようとしたが、イロナが空を飛んで武器が刺さっている場所まで移動していたのでヤルモが止める。

 イロナはレジェンドの槍を握ると、追って来ていた魔王に連続突き。どうやらこれはスキルだったらしく、突きが空を飛ぶ。
 本来ならば魔王はまったく下がらないのだろうが、一瞬に百発もの突きが全身に放たれたのだから、半分近くしか防御できず。残りが触手や体に当たり、数メートル地面を削った。
 その隙に、イロナは剣を鞘に収めて槍を構える。どうやらお気に入りのロングソードは残り一本なので温存するようだ。

 イロナの槍術は、別段下手というわけではなく、なんならこの世界のトップクラス。ただ単に剣が好みなだけで使わなかっただけ。
 そんなイロナがレジェンドの槍を振るったならば、攻撃力が倍増。SSS級トリプルのロングソードは気に入っていたこともあり、自然と手加減していたようだ。
 力の加減が必要なくなったイロナの槍は、ひと振りで魔王の触手剣が飛ぶほど。次々と切断し、魔王を追い詰めるのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


「おお~。巻き返して来た」

 イロナの剣が折れた時は心配していたオスカリであったが、武器が変わってからは安心して見ている。

「てか、いい槍持ってるじゃねぇか。なんで今まで使ってなかったんだ?」
「イロナの趣味だ」
「そ、そうか……にしても、槍も達人レベルなんて、やっぱ嬢ちゃんはすげぇな」

 イロナの趣味に少し引っ掛かるものがあったオスカリは、ヤルモに質問を続ける。

「ところでなんだが……お前たちの職業ってなんなんだ??」
「イロナが戦乙女で、俺がただの戦士だ」
「「「「「嘘つけ~い!!」」」」」

 中級職と下級職の羅列に、勇者パーティは仲良く総ツッコミ。魔王と単体で斬り合うイロナが中級職なわけがない。さらには、重火器を発射するヤルモが戦士なんてありえるわけがない。
 そのことを大声で詰め寄る勇者パーティに、ヤルモはこれしか言えない。

「詮索するな! 何を聞かれても俺は喋らないぞ! あと、イロナに聞いたら殺されるから、マジでやめとけよ!!」

 当然の秘匿ひとく。ついでにイロナの名前を出して脅し。本当はイロナに聞けば簡単に教えてくれるのだが、こう言っておけば勇者パーティも引くしかない。殺されたくないから……


 イロナVS魔王の戦闘が長時間になると、今度は違う心配がオスカリにのし掛かる。

「もう一時間だぞ……嬢ちゃんは大丈夫か??」
「どうだろう……」

 ここはヤルモも知らない情報なのでイロナをよく見ると、息が上がっているように見える。

「あんなに疲れているイロナを見るのは初めてかも……」
「てことは、俺たちの出番だな!」
「「「「おう!」」」」

 ヤルモが自信なく答えると、オスカリが大声を出して勇者パーティが続く。イロナでもてこずる化け物を見ても、勇者パーティは物怖じしていない。

「行くのか? イロナに殺されるかもしれないぞ??」
「どっちしにろあの嬢ちゃんが倒れたら打つ手がなくなるだろうが。ぶっちゃけ、俺たちだけじゃ無理だ」
「そうだろうけど……」
「お前はどうするんだ? このまま嬢ちゃんが殺されるのを見ているのか??」

 オスカリの問いに、ヤルモは考えてしまう。

 旗色が悪いのは確実。
 しかし邪魔したら殺される。
 でも、このままだと世界が滅んでしまう。
 やるしかない……
 なんとか勇者パーティにだけ罰が行くようにできないだろうか??

 行くのは決定したが、勇者パーティに罪をなすり付けようとするヤルモ。

「チッ……行きゃあいいんだろ! イロナの相手はお前たちがしろよ!!」

 いいアイデアが思い付かないヤルモは、勇者パーティにお願いするしかない。

「いや、そこはヤルモがなんとか……」
「「「「うんうん」」」」
「俺に擦り付けんな!!」

 どうやら勇者パーティもヤルモに擦り付けようとしていたらしく、出陣が遅れるのであったとさ。


「こんなことしている場合じゃなかった!?」

 しばし揉めていたら、オスカリの目にイロナの戦闘がチラッと入り、焦りながら指示。

「行くぞ!」
「「「「おう!!」」」」
「イロナの相手はお前たちがしろよ!」

 勇者パーティが城壁から飛び下りると、ヤルモもグチグチ続く。するとヘンリクが下から風魔法を当ててくれたのでふわりと着地。そのままダッシュで戦闘区域に急ぐヤルモたちであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


「チッ……まだ発狂にもならんのか」

 幾千もの斬撃を避け、幾千もの斬撃を放ったイロナは、さすがに疲れて来た模様。

「致し方ない。少し無理するか」

 なので、戦術の変更。今まで触手剣狙いだったのを、体狙いに変える。
 イロナは空気を蹴って空を飛び、最高速度で方向転換や飛ぶ刺突で攻撃、それとフェイントを加えて飛び回り、13本の触手剣を掻い潜って再び魔王の懐に飛び込んだ。

「喰らえ~! 【百花繚乱ひゃっかりょうらん】!!」

 そしてスキルの発動。これは相手を血みどろにして、花が咲き乱れるようにする技なのだが……

「グオオォォ~~~!!」
「しまっ!?」

 その一撃目で、魔王の【発狂】が発動。今まで与えたダメージがついに花開いたのだが、スキル発動中ではタイミングが悪すぎる。

 イロナは下から来た赤黒い槍を喰らい、13本の触手剣の一斉攻撃を受けるのであった……
しおりを挟む
感想 225

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...