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09 アルタニア帝国
194 魔都1
しおりを挟むイロナは勇者パーティとの実戦訓練をご所望なので、オスカリはアルタニア軍を仕切っている賢者ヘンリクを必死に探したが、捕まらず。
どうやら二日滞在する流れになるから苦情が来ると思って……というか、イロナブートキャンプに参加させられるのを怖がって、ヘンリクは雲隠れしてるっぽい。
ヤルモイロナペアと勇者パーティの元へは使いの者しか現れず。滞在場所には整備されたそこそこ広い建物に案内され、二日間、みっちりイロナにしごかれたヤルモと勇者パーティであった。
ヘンリクがヤルモたちの前に現れたのは、出発の日の朝。イロナ以外はぐったりして馬車に乗り込んで寝ている。文句を言う元気も無いようだ。
それから二日後、帝都の近くで陣を張るアルタニア軍。明日の作戦の為に、勇者パーティとヤルモたちも指揮官の集まるテントに呼び出された。
そのテントには、最高司令官で操り人形の皇帝が玉座に座り、マルケッタとヘンリクが両隣に腰掛け、各将軍クラスが椅子を埋めている。
勇者パーティは空いてる席に適当に座り、ヤルモは椅子をテントの端に移動してイロナと座った。主要メンバーなのに、参加したくなかったみたいだ。
「さて、帝都の現状なのだが……」
ヘンリクの口から、斥候からの報告が告げられる。
現在帝都は一日中黒い霧に覆われていて、魔都といっても過言ではない状態になっている。
いまのところ中の確認は済んでいないが、禍々しい気配があるので、魔王が鎮座しているのは間違いないとのこと。それだけ、魔王の放つ気配は異様なのだろう。
魔王の種族はヴァンパイアと割れているのでヘンリクは、血を吸って眷属を増やしていると予想している。その予想を確信させているのは、アルタニア軍の死者と、帝都住人の生き残りの数。
あまり詳細な情報を得られていないが、万単位でアルタニア国民が消えているのだから、それに近い数が死んでいるのは確実。最悪、その数が眷属になっていることを覚悟するようにと、各隊に行き渡るように指示を出していた。
「チッ……やりづれえなぁ~」
元人間と戦うと聞いたからには、オスカリも苦虫を噛み殺した顔をする。勇者パーティやヤルモも同じ気持ちのようだ。
「ここまではいいな?」
ヘンリクが確認を取ると、出席者は静かに頷く。
「次に突入する順番だ。まず第一陣は、勇者パーティ、ヤルモパーティ、それと伝令兵だ。しばらく戦って、どんなモンスターがいるか確認を取る」
「「「「おう!」」」」
「はぁ~」
ヘンリクの作戦に、勇者パーティはいい返事で返し、ヤルモはため息が出てしまった。こんな大事になっているから、あまり乗り気になっていないようだ。
そのやる気の無さに気付いたヘンリクは、ヤルモに声を掛ける。
「心配するな。魔王はヤルモたちに譲る」
ヘンリクがこんなことを言うので、出席者は勇者パーティがやらないのかといった感じでどよめきが起こり、ヤルモは「そういう意味じゃなかったんだけどな~」と思いながら、視線が集まっていたので体を小さくする。
「まぁそれは譲ってもらわないと困るけど、魔王までどうやって辿り着くかだな。中を見てからになるけど、最悪、休みなく魔王戦だ」
「たしかに……」
ヘンリクの作戦にはスタミナ配分が抜けていたのでヤルモが付け足すと、オスカリが立ち上がった。
「んなもん、俺たちを使え。魔王の前まで連れて行ってやる。ま、そっちの嬢ちゃんがいいって言ったらだけどな」
「これでどうかな~??」
これまでのイロナの行動を考えると、まず無理な作戦。いつだって誰よりも早く切り込んでいたのだから、ヤルモたちの心配が伝わるかどうか……
「ふむ……外に出た魔王は強くなっていると聞くし、少しは温存したほうがいいか……だが、ドラゴンは我の獲物だからな」
「「う~い」」
やっぱり伝わらず。自分が楽しむことしか考えていない。しかし、ドラゴンさえ与えたら大人しくなると聞いて、ヤルモとオスカリはホッとしていた。
これで作戦会議は終了となるはずであったが、将軍たちの質問がヤルモとイロナに集中する。そりゃ、作戦の要が勇者パーティではなく、得体の知れない男女では心配なのだろう。
なのでヤルモは、クリスタが用意してくれていた各種カードを見せて答えとする。今まで使わずに済むならと出し渋っていたのだが、クリスタの顔を立てたようだ。
ただし、めっちゃ疑われたけど……
こんな最高級のカードを一人の男が何枚も持っていたのなら、そりゃ疑われる。このことがあって、「嫌がらせするためにこんなに持たせたのでは?」と、クリスタを疑うヤルモであった。
* * * * * * * * *
一方その頃、勇者クリスタは、カーボエルテ王都にある特級ダンジョンのセーフティーエリアで……
「くちゅんっ、くちゅんっ」
かわいらしいくしゃみをしていた。
「勇者様。またくしゃみですか。風邪でも引いてるんじゃないですか?」
「いや、寒気はないから風邪じゃないと思うけど……ひょっとしたら、誰かが噂してるのかも? 案外、ヤルモさんだったりして」
「ヤルモさんなら、私たちのことを心配してくれているのかもしれませんね」
「意外と過保護だもんね~。あはははは」
クリスタとオルガはヤルモの顔を思い浮かべて笑い合うのであった。ヤルモが怒っているとも知らずに……
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