【R18】前科三犯、現在逃走中のオッサンは老後が心配

ma-no

文字の大きさ
上 下
176 / 360
07 カーボエルテ王国 王都4

160 聖女マルケッタ4

しおりを挟む

「ふぅ~~~……スッキリした」
「ですね……あっ! 神よ。罰を与えてくださりありがとうございました」
「聖女様もノリノリだったんだからもう遅いよ。あははははは」

 聖女マルケッタを往復ビンタの刑にしたクリスタとオルガはスッキリした顔。ただ、オルガは神への祈りが遅すぎてクリスタに笑われてしまっている。

「こ、これしき……むぐっ!」

 二人が笑っている隙に、顔をパンパンに張らしたマルケッタが治癒魔法を使おうとしたが、クリスタに口を塞がれてしまった。

「あとで治してあげるから、もうちょっとその顔でいてね。プププ」
「ムームー!!」

 笑いの我慢できないクリスタは、マルケッタを後ろ手に縛ってからヤルモの前に連れて行った。

「ヤルモさん。マルケッタって聖女が謝りたいんだって。聞いてあげてくれないかな?」

 今まで震えて目をつぶっていたヤルモは、クリスタの優しい声を聞いてようやく目を開けた。

「はぁはぁ……せ、聖女が俺に謝る? ……誰だそれ??」

 目の前には、顔をパンパンに張らした女がひざまずかされているが、マルケッタの原型が残っていないほどの腫れようなのでヤルモは気付けない。

「あはは。ちょっとやり過ぎたかな~? 聖女様、お願いね」
「治しますけど、ヤルモさんに与えられたストレスには足りないぐらいですよ。治しますけど」
「だよね~?」

 オルガはブツブツ文句を言いながらもマルケッタの顔を治癒魔法で治していた。

「じゃ、綺麗になったし、ヤルモさんに謝罪しなさい」
「誰がこんな大罪人に!!」

 クリスタが再度謝罪させようとしたが、猿ぐつわの外れたマルケッタが怒鳴るので、ヤルモがまたプルプル震えてしまう。

「別に私はどうでもいいのよ。王女の私に剣を向けたのだから、いくら他国の王女でもしっかり刑期を務めてもらうし……ま、アルタニアから多額の慰謝料を受け取って返還ってのが落としどころでしょうけどね」
「わたくしを人質に取るつもりですのね……わたくしが捕まったと知れば、お父様が軍を動かしますわよ! きっとこの国なんて滅ぼしてくださりますわ!!」
「ふ~ん……」

 マルケッタの戦争発言に、クリスタの目が冷たくなる。

「魔王に帝都を乗っ取っられた国の戦力なんて、物の足しになるのかしら……」
「な……何を言っていますの?」
「遠い他国だから知らないとでも思っているの? ユジェール王国に勇者を派遣してもらおうとして断られているのも知っているのよ」
「何故それを……」
「だって、あんたが言い振らして回っているじゃない。調べないわけがないでしょ」

 ハミナの冒険者ギルドから情報が入った時点で、カーボエルテ国王は他国に潜り込んでいるスパイから情報を集めている。
 残念ながらアルタニア帝国は国境を封鎖しているから内情はいまだ届いていないが、隣国のユジェール王国でマルケッタが勇者を口説いていたとの情報は入っていたのだ。

 しかし、一度は捨てた故郷であっても、ヤルモにしたら生まれた国。帝都が魔王に乗っ取られたと聞いて動揺している。

「まさかそんなことに……俺があの時ついて行っていれば……」

 いまさら後悔の念に押し潰されそうになるヤルモ。その姿を見たオルガは、ヤルモを優しく包み込む。

「ヤルモさんのせいではないですよ。言ってたじゃないですか? アルタニアの勇者パーティを魔王の間に連れて行くだけで精一杯だったって……だから、これはヤルモさんのせいじゃないんです」
「でも……」

 ヤルモは何か言い掛けたが、クリスタにも抱きつかれて言葉が止まる。

「そのまま戦っていたら、ヤルモさんは生きていなかったんでしょ? 私にも勝てないなら逃げ帰れって言ったじゃない。そのおかげでこの国は救われたの。ヤルモさん……生きていてくれてありがとう」
「うっ……ううぅぅ……」

 二人の優しい言葉と温もりにヤルモは涙するが、その感動的なシーンを邪魔をする者もいる。

「ハッ。なんですのその涙は……こんな勇者でもないオッサンが国を救ったですって? 嘘を言うならもっとマシなことを言いなさい!!」
「チッ。あんたねえ……」

 マルケッタに感動的なシーンを台無しにされたクリスタが怒りの表情で近付くが、マルケッタはお構い無し。

「泣くならアルタニア帝国を救ってから泣きなさい! わたくしがヤルモを本当の勇者にしてあげますわ!!」
「「「はい??」」」

 突拍子のないマルケッタの提案に、ヤルモたちはキョトンとした顔になる。
 この提案は、何も突然出した案ではない。元よりマルケッタは、ヤルモの実力だけは認めており、連れ帰ってから勇者にしようとしていたのだ。ただし、奴隷魔法で縛ってからではあるが……

「いい話じゃなくて? アルタニア帝国に帰ったら、ヤルモの犯罪歴を抹消することを約束しますわ。その上、勇者として魔王を倒したあとは、アルタニア帝国の英雄として代々受け継がれることでしょう」

 マルケッタは一度言葉を切ると、高らかに宣言する。

「さあ、勇者ヤルモよ! その者達を倒してわたくしの元に来なさい!!」

 次はヤルモの台詞。クリスタとオルガが、ヤルモがどのような返答をするか固唾を呑んで見ていると……

「そんなこと言って、また騙すんだろ?」
「「だよね~」」

 いや、これまで何度もやったやり取りなので、ヤルモは必ず拒否すると思って安心していたクリスタとオルガであったとさ。
しおりを挟む
感想 225

あなたにおすすめの小説

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...