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05 カーボエルテ王国 王都2

114 新メンバー発掘2

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「イロナじゃないけど、ピンと来る奴はいないな~」

 ギルマスお薦めの冒険者は、そこそこレベルは高いけど、ヤルモのお眼鏡に叶う者はいないようだ。

「この人はダメなの?」

 そこでクリスタは書類を見せて、ヤルモに何度も意見を求めていた。

「そいつ、パーティリーダだろ? なのに移籍しようとしてるってことは、仲間を切り捨てるってことだ。そんな奴、信用できるか?」
「そう言われたら、信用できないような……でも、ヤルモさんみたいに教えてくれるかも?」
「パーティを乗っ取られるのがオチだ」
「じゃあ、こっちのレンジャーの人は? レベル高いよ」
「そいつはパーティを代わりすぎ。優秀なレンジャーなら、誰も手放そうとしないはずだ。たぶん性格に難有りだな」
「そんなこと言ってたら一生決まらないわよ~」

 イロナは大雑把に切り捨てるだけだが、ヤルモは細かいので性格にまで難癖つける。そのせいでギルマスお薦めの冒険者は全て審査から落ちてしまった。

「有望そうな若手を一から育てたほうがいいかもな~。裏切る確率は下がるし」
「裏切る前提で審査するから決まらないんでしょ~」

 ヤルモを頼ったクリスタの失敗。人間不信のヤルモでは、勇者であるクリスタでさえいまだに警戒しているので決まるわけがない。
 そのことに気付いたクリスタは、ヤルモの闇に一歩踏み込む。

「ヤルモさんって、パーティに属していたことあるの?」
「……あ、るぞ」
「何その間……絶対ないでしょ??」
「いまパーティに入ってるだろ」
「臨時じゃん。それにいまじゃなくて過去を聞いてるのよ」
「あ……る、ぞ」
「だから何よその間は!」

 クリスタにツッコまれてヤルモは考えてみたが、臨時で加わった以外、正式加入をしたことがない。そもそも優柔不断で一年間も決めかねていたし、ようやく決めたパーティは美人局つつもたせで強制脱退。
 なので、クリスタのツッコミには、いい返しができないヤルモであった。

「ま、ヤルモさんの言いたいことはわからなくはないわ。テッポ君のこともあるし……」
「そういえば、あいつどうなったんだ?」
「いまのところ動きはないわ。それより、早く決めてしまいましょう」

 クリスタも後ろから攻撃して来るような仲間は入れたくないからか、できるだけ素直な冒険者を探そうと若手から探す。しかし、書類は膨大な量になっているので、見るだけでも時間がかかる。
 ここはヤルモの案を採用し、職業別に仕訳して、索敵職、攻撃職、盾職から選ぼうとする。


「ちょっと休憩しようぜ。腹へった~」
「そうね。外、出よっか」

 昼になっても終わらなかったので、ヤルモの案に乗っかってクリスタから席を立つ。そうして冒険者の賑わうギルド内を抜けて外に出たら、豪華な馬車が止まっていた。

「お父様! あいつです!!」

 馬車からはテッポが飛び出して来てわめき散らすので、勇者一行は無視。目をそらして馬車の脇を抜けようとする。

「衛兵! 止めろ~~~!!」

 しかし、テッポは衛兵まで引き連れていたらしく、勇者一行は回り込まれてしまった。

「なに? 勇者で王女の私の行く手を阻むつもり??」
「お、王女様!? これは失礼をば……しかしですね。侯爵家の御子息が平民に暴力を受けたと仰っていまして……その者に話を聞きたいのですが……」
「あのね~……」
「これはこれは王女様。時間を取らせて申し訳ありません」

 衛兵はクリスタに今ごろ気付いたのか丁寧に対応するが、クリスタは苛立つ。しかし、誤解が生じているのでクリスタが説明しようとしたら、馬車から降りて来た高級な服を着た男、侯爵家当主に邪魔される。

「どうも息子がヤルモという男に暴力を受けて、転送魔法陣に無理矢理放り込まれたと言っているのです。王女様も見られていたのでしょう? 是非とも衛兵に証言してもらえないでしょうか」

 当主に名指しされたヤルモはドクンッと心臓が跳ねて、腕を組んでいるイロナにもたれ掛かる。するとイロナは心配するような声を掛けていたが、二人とは別にクリスタたちの話が進む。

「はぁ~……どうしたらそんなデタラメ言えるのよ」
「息子が嘘を言っているとでも? 魔法アカデミーの主席ですぞ??」
「主席なんて関係ない。テッポ君は私が殴ったの。なのに、なんでヤルモさんのせいになってるのよ」
「なんですと……」
「お父様! 王女様は、ヤルモに弱味を握られているから本当のことを言えないのです!!」

 クリスタが真実を語ると当主はテッポを睨むので、テッポは苦し紛れの言い訳を叫ぶ。しかし、当主はテッポを黙らせてクリスタから話を聞く。

「何があったのです?」
「ヤルモさんがモンスターを押さえているところに、攻撃魔法を撃ち込んだのよ」
「違います! あいつがよけなかったのが……」
「黙っていろと言っただろ……」
「……はい」
「続けてください」
「仲間を後ろから撃つなんて、私が許せない。だから殴って追い返した。パーティリーダーとして、当然のことをしたまで。殺されなかっただけマシよ」

 当主は自分の息子がそんなことをしたと知って驚いているので、クリスタがイロナをチラッと見たことには気付かない。

 しばらくして考えがまとまった当主は、いきなりテッポを殴った。

「いたっ……お父様……なんで……」
「わからないのか! ダンジョンで仲間に攻撃する奴があるか! パーティバランスが崩れて王女様が死んでいたかもしれないのだぞ!!」
「う……嘘を……」
「まだ言うのか! 王女様に平民に握られて困るほどの弱味があるはずがない。これでどうやって操るのだ!!」
「………」

 当主の剣幕に押されて黙り込むテッポ。それを見た勇者一行は……

「「「「「………」」」」」

 全員だんまり。クリスタは苦笑いで頬をポリポリ掻いている。

 実際問題、魔王討伐が嘘という弱味を握られているのだから……
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