上 下
119 / 360
05 カーボエルテ王国 王都2

108 特級ダンジョン11

しおりを挟む

 特級ダンジョン攻略は大詰め。地下へと向かう長い階段で休憩した勇者一行は、地下100階のダンジョンボスの部屋に足を踏み入れた。

「あれ? ボスが居ないよ??」
「本当です。おかしいですね」
「これでやっと地上に戻れるんですね。疲れました~」

 クリスタとオルガは不思議に思い、リュリュはダンジョン攻略の終わりだと緊張の糸を切る。

「何を言っている。見えているではないか」

 そこにイロナの叱責。ヤルモも話に入る。

「マジか~。ラスボスって、こんなデカイのもいるのか~」
「へ? デカイ??」
「ほら、二本の柱があるだろ? 辿って上を見てみろ」

 クリスタたちはヤルモの指を差した先を見上げ、大口を開けて尻餅をつく。

「何あれ……」
「ひと??」
「サイクロプス……」

 呆気に取られるクリスタたちの中で、正解はリュリュ。
 ジャイアントサイクロプスを遥かに超えるサイクロプス。ダンジョンエネルギーが豊富な場所のダンジョンボスになることで、その体長は50メートルに届きそうなギガントサイクロプスだ。

 尻餅をついたクリスタは、ギギギっと首を回してイロナとヤルモを見る。

「アレ……倒せるの?」
「デカイだけの木偶の坊だ」
「イロナさんは倒したことあるんだ……ヤ、ヤルモさんも??」
「攻略本で見た気はするんだけど……倒し方を忘れているから、個人的には避けたいかな?」

 クリスタの質問にヤルモが不甲斐ないことを言うと、イロナの目が妖しく光る。

「ドラゴンどもで我は満足したから、主殿に譲ってやる」
「はい? 一緒に戦ってくれるんじゃ……」
「なんだ……我が譲ってやると言っているのに断るのか……」
「やらせていただきます!!」

 イロナから殺気が放たれるので、ヤルモの返事はイエスしかないのであった。


「しかし、どうやって戦ったものか……」

 イロナ頼りで戦う予定だったから余裕の表情をしていたヤルモだが、一人で戦うとなったら緊張する。
 何やらシミュレーションしているが、あまりいい戦略が思いつかないので、イロナに質問してみる。

「勇者たちに手伝ってもらうことなんかは……」
「足手まといになるだけだぞ?」
「ま、上手く使うよ」
「主殿が足枷を付けて戦いたいなら好きにしろ」
「わかった。好きにする」

 ヤルモはクリスタたちを集めると、作戦会議を始める。

「あんなの、私は無理だからね?」

 ヤルモが喋る前に釘を刺すクリスタ。常識人のヤルモなら通じると思っているようだ。

「勇者には期待していない」
「うっ……イロナさんといい、ひどくな~い?」
「ちょっと言いすぎたけど、これからはお前がアレと戦うんだぞ? イロナじゃないけど、勇者がそれでいいのか??」
「あ……そうね。ヤルモさんたちから卒業したら、私が倒さないといけないのよね……」

 さっきまで不甲斐ない顔をしていたクリスタは、真面目な顔に変わったのでヤルモは指示を出す。

「アイツは俺一人で相手をする。だからリュリュと聖女は支援魔法を切れ目なくお願いな」
「「はい!」」
「あと、勇者は攻撃魔法を撃てるだけ撃っておけ。ちょっとは経験値の足しになるだろう」
「そっか。そのために私たちも参加させようとしてたんだ。わかったわ」
「よし! 行くぞ!!」
「「「はい!!」」」

 珍しく気合いの声を出して歩き出したヤルモ。後方から支援魔法が届いたら走り出し、中華包丁みたいな大剣を振りかぶる。

「おおおお~! うらああぁぁ~~~!!」

 バレてもかまわない。ヤルモは大声を出しながら突撃し、飛び込んでの渾身の一撃。ヤルモの全力、全体重、遠心力まで乗せた斬り付けは、ギガントサイクロプスの左足にぶつかり、一歩後退した。

「グキャアア~!!」

 それで怒ったギガントサイクロプスは、ドデカイ棍棒を振り下ろして戦闘が始まった。

「あれ??」

 残念がら、棍棒はヤルモの後方に着弾。地面が揺れるほどの衝撃はあるが、ギガントサイクロプスは体が大きすぎて懐に入ってしまえば安全地帯があるようだ。
 なので、ヤルモはもう一度渾身の一撃。ギガントサイクロプスの左足、先程と同じ場所を斬り付け、ダメージが蓄積される。

 しかし、ギガントサイクロプスも馬鹿ではない。ヤルモの位置を特定し、素早く数歩下がった。さすがにダンジョンボスということもあり、ヤルモよりスピードがある模様。ヤルモが追いかける前に棍棒が振り下ろされた。

「たしかに木偶の坊かも?」

 ギガントサイクロプスが巨大ということは、それだけ着弾までの距離があるということ。いくらヤルモより速くとも、予備動作も大きい上に、振り下ろす距離が長いので、前に出れば簡単に避けられる。

「もういっちょ!!」

 また同じ場所にヤルモの渾身の一撃。ヤルモの馬鹿力で三度も斬られたならば、ギガントサイクロプスも少しよろけた。

「そうきたか! うおおぉぉ~!!」

 ギガントサイクロプスも学習能力はある。いきなり棍棒を杖にするように縦に打ち下ろされては、ヤルモは避けられず盾で受けるしかなかったのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

処理中です...