104 / 360
05 カーボエルテ王国 王都2
095 訓練
しおりを挟む諸々の準備を終えた次の日、ヤルモとイロナは今日も完全休業。クリスタとオルガと共にエイニの出勤を見送ったら、各々自由に過ごす。
特にやることのないヤルモは、昨夜のイロナサービスで痛めた体……特に股間を休めようと部屋で寝転んでいたが、イロナがおっぱじめようと寄って来たので庭に移動した。
そこでは、クリスタが剣の素振りしていたので、ヤルモは声をかける。
「精が出るな」
「うん。明日はダンジョンに入るから気が昂ぶっちゃって」
「訓練もいいけど、疲れを残すなよ」
「わかってるよ」
ヤルモはその辺の丸太ベンチにイロナと共に座ろうとしたが、イロナはツカツカとクリスタに近付く。
「どれ。我が見てやろう」
「え……疲れを残さないように訓練してるから……」
イロナにしごかれると、確実に疲れると思ってクリスタはやんわりと断った。
「主殿。昨日買っておいた訓練用の装備を出してくれ」
「いや……あまり疲れると明日に響くから……」
「出せ」
「はい」
イロナに強く言われては断れないヤルモは、訓練用の剣を二本、それと盾を渡して、クリスタには両手を合わせて口パクで「ごめん」と言っていた。
「打ち込んでみろ」
「はい!!」
クリスタはイロナの好意に甘えるというより、行為に諦めて剣を振る。下手に気合いが入っていないと怒られそうなので、必死にやらざるを得ないのでいい返事をしたようだ。
「綺麗な剣だけでは我を斬れないぞ。こうやって打ち込むのだ。盾で受けろ」
「うわっ!」
何度もクリスタの剣を受けていたイロナは、ここで反撃。その変則的な剣は受けにくく、5撃目でクリスタの喉元にイロナの剣がピタリと止まる。
「スピードを合わせてやっているのに、たった5撃か……」
「す、すみません……まさか足まで斬られるとは思っていなくて焦っちゃって……」
「決死の敵は何をしてくるかわからない。覚えておけ」
「はい」
クリスタは剣を少しかじった程度なので、初めて見る実践の剣には対応できずイロナに叱られていた。
「次、主殿だ!」
「俺も!?」
のんびりと傍観していたヤルモは、イロナに呼ばれて渋々動く。そして「御愁傷様」的なクリスタの顔を見ながら剣と盾を受け取ると構える。
「こんな軽い装備、久し振りだから手加減してくれよ」
「クックックッ。主殿の実力、とくと拝ませてもらおう」
「聞いてる? とと……」
ヤルモが喋っていてもイロナはお構いなし。クリスタが受けた5連撃が炸裂する。
しかし、ヤルモは冷静に対応。上半身に迫る三連斬りは盾だけで弾き、四度目の斬り付けは剣を地面に突き刺して足を守り、体勢を崩さないまま最後の突きを盾のド真ん中で受けた。
「ふむ。勇者と戦った速度では余裕か」
「まぁ見てたからな」
イロナがニヤリと笑って動きを止めると、ヤルモはクリスタに簡単なアドバイスをする。
「盾が間に合わないなら、剣も盾として使えるからな。あと、盾職は剣士と違って、どっしりと構えて体幹を崩さないのが基本だから覚えておけ」
「はい!」
クリスタから返事が聞こえるとイロナに目を戻す。
「では、スピードを上げて行くぞ」
「ほどほどにな」
イロナはいちおう手加減してくれていたから、少しは気を使ってくれていると思ったヤルモ。だが、イロナのスピードは一撃ごとに上がるので、必死になって来た。
「ちょっ! 速いって!!」
「わははは。いまのも捌くか!」
「も、もういいだろ!」
「面白くなって来たところだ!」
一発もヤルモの盾を崩せないイロナは、楽しくなって目的を見失うのであった。
* * * * * * * * *
その高速の打ち合いを見ていたクリスタとオルガは……
「アレ……人間の動き?」
「もう私には、イロナさんが見えてないんですけど……」
イロナの超人的な動きに驚いていた。
「簡単に説明すると、ほとんど踊ってるみたいなの。たまにしゃがんだり飛んだり……うわっ! いま、ヤルモさんを飛び越しながら斬った」
「当たったのですか?」
「いえ。なんとか剣で止めていたわ」
「あ、さっきヤルモさんが急に振り向いて剣を上げていたのはそれですか」
「そうそう。でも、ヤルモさんの動きは見えてるんだ」
「わりと遅いので……なのに、どうしてイロナさんの剣が止められるのでしょうね」
「経験みたいなこと言ってたけど、経験を積んでも受けられる自信、ないわ~」
ヤルモの謎が深まり、また自信をなくすクリスタであった。
* * * * * * * * *
クリスタとオルガが喋っている間も剣撃は繰り広げられていたが、ヤルモが剣を押し返したと同時にイロナは後ろに飛び、動きが止まった。
「どうも乗りきれないと思っていたら、主殿は何かやってるな?」
どうやらイロナは、ヤルモの盾を崩せない理由に気付いて距離を取ったようだ。
「バレたか。剣が当たった瞬間、押したり引いたりして、足の位置を微妙にズラしていたんだ」
「なるほど。足か……だから次の行動が読まれていたのか」
「飛ばれた時は焦ったけどな。予想の軌道に剣があってよかったよ」
「フフ。普通では、主殿は崩せないってことか」
「いや、全然普通じゃなかったからな?」
「そろそろ全力でいこうじゃないか!」
「イロナさん? イロナさんや。これは訓練ですよ??」
「喰らえ~~~!!」
こうして手加減を忘れたイロナブートキャンプは続くのであったとさ。
11
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します
すもも太郎
ファンタジー
伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。
その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。
出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。
そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。
大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。
今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。
※ハッピーエンドです
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる