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05 カーボエルテ王国 王都2
090 来客5
しおりを挟む「まぁそんなわけで、いまは先生かな?」
クリスタは適当なことを言って、エイニの疑問を煙にまいた。
「タピオさんは偽名で、本当の名前はヤルモさん……元勇者パーティの一員で、魔王と戦うために勇者様が呼び寄せた……いまは現勇者パーティ……」
今までは気のいいオッサンだったヤルモが、まさかの勇者パーティと知ってエイニは混乱中。ブツブツと独り言を呟いていたが、急にヤルモを見て叫ぶ。
「ど、どどどど、どうして教えてくれなかったんですか!!」
「どうしてと言われても……」
「私が不甲斐ないから、秘密にするように頼んだからだよ」
クリスタの嘘に急には答えられないヤルモが口ごもるので、クリスタが助け船を出す。
「勇者様が不甲斐ない? そんなわけないですよね??」
「ううん。本当は魔王を倒したのは私じゃないの」
「おい!」
クリスタがエイニにぶっちゃけるので、ヤルモは大声を出して止めようとしたが、クリスタは止まらない。
「気付いている人は気付いてるよ。私はそんな人には嘘を言いたくないの。だって、低レベルの勇者だったのよ? 魔王なんて倒せるはずがないわ」
「そうだろうけど、俺が面倒事に巻き込まれるだろ」
「だから、真実を伝える人は選んでるよ。あなたも喋らないよね?」
「あ……えっと……」
「喋りそうだぞ……」
エイニの目が泳いでいるのでヤルモは疑う。しかしクリスタはエイニを信用するようだ。
「秘密にしてくれたらいいことがあるかもな~? 勇者が懇意にしている宿屋なら、後々流行るかもな~?」
いや、ただの買収。金では買えないプレミアム権をちらつかせるクリスタ。
「は、はい! ぜったい喋りません!!」
エイニの夢、宿屋復興に一歩どころか百歩も進めば、口が固くなるのは当然のことだろう。
「それ、買収しているだけだろ……」
「やだな~。勇者の仁徳ってヤツよ」
「はぁ……てか、お前も泊まるのか?」
「うん。城も教会もうるさくて居心地が悪くって、どうしようかと思っていたからちょうどよかったわ」
「残念ながら、この宿、使える部屋はひとつしかないぞ」
「そうなの??」
ヤルモはクリスタを追い出そうとするが……
「ヤルモさんがダンジョンに行っている間に、ひと部屋綺麗にしたので大丈夫です!」
「よけいなことを……俺の安息の地が……」
エイニが張り切っていたのでその秘策は通じず、ヤルモはガッカリするのであった。
クリスタとオルガがいきなり泊まることになったからには、エイニはゆっくりしているわけにはいかず、食事を掻き込んで食堂を飛び出して行った。
エイニが部屋の準備をしている間に、ヤルモたちは今後の相談。特級ダンジョンに挑戦する日取りや持ち物の確認をする。
クリスタたちは必要な物を忘れた経験があるので、メモを取ったり質問をしていた。
ちょっとしたダンジョン講習を終えた頃にエイニが戻って来たので、クリスタたちは用意された部屋に向かい、ヤルモたちも自室に戻る。
そして今後について少し話し合ってから岩風呂。間仕切りを越えた隣のお風呂からキャピキャピ声が聞こえているところを見ると、クリスタたちも岩風呂に入っているようだ。
「客が一組増えただけで、なんだか普通の宿になったように思えるな」
「そうだな。だが、ヤルことは一緒だ。さあ! 何をしてほしい!!」
「シーーー! 岩風呂で騒ぐなと言われているんだ」
さすがにクリスタたちに不甲斐ない営みを聞かれると恥ずかしいヤルモは、エイニに注意されたことを引き合いに出して止める。本当は、痛いことをされたくないヤルモであったが……
* * * * * * * * *
ヤルモたちがお風呂に入る少し前……
「うわ~。こんな宿に立派な岩風呂なんてあるのね~」
クリスタたちもお風呂に入っていた。
「気持ちいいのですが、もったいない……」
「ホント。ボロボロじゃなかったら、流行りそうなのに」
オルガとクリスタは湯に浸かって雑談していたら、それを聞いてた人物が肩を落とす。
「すみません……お父さんもお母さんもいなくなって維持ができなくて……」
エイニだ。二人に酷いことを言われたので、身の上話で反撃したら、めちゃくちゃ謝られていた。そのせいで、一緒に入っていたことを二人はツッコムのを忘れている。
「アレ? 隣にもお風呂があるの?」
「男湯ですか?」
「そっちはVIP専用のお風呂です。ヤルモさんたちが入って来たみたいですね」
間仕切りの板の向こうからピチャピチャと音が聞こえて来ると、エイニから説明を聞いたクリスタの目がキラーンと光る。
「王女や聖女様が一般のお風呂なのに、ヤルモさんたちがVIPなのはけしからん! 覗いてやるわ!!」
「それ、勇者様が覗きたいだけなのでは……」
「聖女様も覗きたいくせに~」
「ち、違います!!」
クリスタとオルガがキャピキャピ騒いでいたら、隣からイロナの声が聞こえて来て、オルガは立ち上がる。
「お、お風呂でそんなことを……けしからないですわ!」
「やっと乗り気になったね~」
こうしてクリスタとオルガは、隣を覗こうと間仕切りに近付くのであった。
「あ、見たいなら、こっちに覗き穴がありますよ」
「「グッジョブ!」」
エイニもいつも覗いているからか案内を務め、クリスタとオルガに褒められるのであったとさ。
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