上 下
2 / 360
01 前科(アルタニア帝国)

002 転機

しおりを挟む

 放心状態のヤルモは、足の向くまま向かった町で、冒険者ギルドに入る。

「オッサンが新人冒険者? うける~」

 どんなに笑われようと、今までこれしか仕事をしたことのないヤルモに選択肢がなかった。
 そこで新人神官の女性に、鉱夫から戦士に転職をお願いしたのだが、おかしなことが起こった。

「重戦車? 初めて見る……何これ?? 失敗……ではありません! ヤルモさんは戦士職に転職できなかったので、これしか『戦』が付く職業がなかったのです! ですから、私のせいではありませんよ~? もしも転職可能なレベルになりましたら、次回は割引きしますので、ギルド長に言わないで~~~!!」

 新人神官に希望の職に就かせてもらえなかったヤルモ。怒りを覚えたが、それよりも女性を泣かせたことで、あらぬ罪をでっち上げられるのではないかと怖くなって、立ち去るしかなかった。
 そして翌日、さっそくダンジョンに潜ったヤルモは、アイテムを売ろうと恐る恐る冒険者ギルドの中へ入ると衛兵の姿は無く、何事も無く買取りもしてもらい、今回は美人局つつもたせじゃなかったと心底ホッした。

 ただし、ヤルモには不思議に思っていることがある。職業の重戦車だ。

 初日は安物の銅の剣を持ってモンスターと戦ったのだが、戦士と変わらぬ動きができた。
 十五年もの刑期を真面目に鉱夫として過ごし、マッチョな体になったせいかとも思ったが成長速度も早く、レベルが上がる度に力を増していたことも実感することとなった。
 だが、速度だけは遅く、なかなか上がらない。戦士でも似たような速度だったので、この程度なら問題ないと割り切ることにしたヤルモ。


 それから一人でダンジョンに潜り続けたヤルモは、岐路に立たされる。


 転職可能なレベルになったのだが、戦士の同レベルと重戦車を比べると、圧倒的に重戦車のほうが強い。三度のレベル1戦士を経験したヤルモならではの検証だ。
 ダンジョンの階層も戦士では越えられなかった壁を破り、こんなに低いレベルで踏破したとはヤルモ自身信じられなかった。

 慣れ親しんだ戦士を取るか、強い重戦車を取るか……

 悩んだ末、ヤルモは重戦車を取ることに決めた。

 それはヤルモの人生の選択の中で最大の正解。重戦車とはレア職業で、戦士より五段上の職業。戦士のレベルを50以上に三度上げ、鉱夫を三度カンストしないと手に入れられない職業なのだ。
 さらには、レベル上限突破。戦士より5倍も高いレベルまで成長する。それを知ることは、現在、人を避けているヤルモではままならないのだが……


 そこからは破竹の勢い。低ランクのダンジョンならクリアーは朝飯前。中級でも余裕でクリアーできる。上級にも潜ってみるが、なんとか最下層まで辿り着くことができた。
 しかしボスは経験上、挑むことはやめたヤルモ。理由は簡単。一人で上級ダンジョンの最下層に行けるなら、持ち帰るお宝や素材でかなりの稼ぎになるからだ。なんなら、上位の冒険者パーティとさほど変わらない利益をあげられる。
 一人なので分け前も無し。丸儲けだ。無理に強いボスと戦って怪我をするよりも、確実だとヤルモは考えたのだ。

 それほどヤルモが金に固執するのは何故か……

 老後の蓄えだ。

 冒険者稼業など、酷い怪我を負っていつ廃業するかわからない。そう思って若い頃から倹約を続けていたヤルモだが、それを狙われ、三度も事件に巻き込まれて一文無し。
 ヤルモの年齢はもう三十を超えている。いつまで体が動くかわからないので、堅実に金を貯めるしかないのだ。もちろん事件に巻き込まれたくないので、近付く者からは距離を取り、町も一ヶ月以内に離れることにした。

 孤独……

 ヤルモの戦いは、この孤独感だけ。それでもダンジョンに潜り続け、五年の月日が過ぎた頃に転機が訪れる。


 勇者パーティが、ヤルモを勧誘したのだ。


 五年もの間、各地の上級ダンジョンに一人で潜り続けたヤルモは、かなりの実力者だと噂が広まっていた。その噂が勇者パーティにまで届き、勧誘に至ったのだ。

「悪いが、俺は誰とも組まない」

 人間不信のヤルモがなんとか搾り出した言葉は、拒否。すると勇者はキレて、ヤルモに剣を向けることとなった。

「貴様……この勇者ダニエル・ヒュッティネン様が誘ってやっているのに、断るとは何事だ!」

 怒鳴る勇者ダニエルに、ヤルモはチラッと見ただけでスタスタと歩き出し、それがダニエルの怒りの炎を大きくした。

「お待ちください! 勇者様も剣を収めてください!!」

 勇者パーティの中で聖女の職業を務める美しい女性、マルケッタ・コンティオラが割って入ると勇者は止まるが、ヤルモは歩き続ける。しかしマルケッタはヤルモを追いかけ、ずっと説得を続ける。
 その熱意に負けて、ヤルモは渋々勇者パーティーに加入できない理由を説明することにした。

 場所は冒険者ギルド。人に聞かれたくない内容だったので、マルケッタに人払いを頼むと、ギルドマスターの部屋で話すことになった。もちろん立会人も要求して、ギルマスが間に入ってくれることとなった。

 そこで、ヤルモは前科三犯であること、全て冤罪であったこと、人間不信で誰ともパーティを組みたくないこと。それと、引き下がってくれることをお願いした。

「なるほど……辛い人生を送って来たのですね。でしたら、こういうのはどうでしょう? 私たちに協力してくれたのなら、前科を全てなかったことにするというのは……」

 マルケッタの突拍子の無い提案に、ヤルモは葛藤する。

 この女を信じていいのか?
 信用すれば親兄弟に会えるのではないか?
 この女は美人じゃないか?
 だが、勇者は信用ならないのではないか?
 もしかしたら、俺に惚れているのではないか?

 十数年振りぐらいに、まともに女と目を見て話をしたからか、何やら不穏なことを考えるヤルモ。だが、それで失敗したと思い出し、首を振って正気を取り戻す。

「俺の冤罪を信じてくれるのか?」
「はい。あなたの噂は聞き及んでいます。この数年間、女性はおろか男性すら近付けさせないなんて、それなりの理由があるのだと感じていました」

 ヤルモはこの時、こう思ったらしい。

(この女、確実に俺に惚れてる)

 どうやらヤルモは孤独に負けて、思考がストーカーのそれと近くなっていたようだ。ちょっと優しくされたからって惚れていると勘違いするとは……

 それでも人間不信もあるので、ギルマスに証人になってもらって、魔王を倒した際には前科を完全抹消することと、ヤルモに関する各種契約をして、勇者パーティに所属する決定となった。
しおりを挟む
感想 225

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...