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22 破壊神

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 突如走り出した端末を姫騎士は追うが、端末のほうが足が速いので追い付けないでいる。そうして端末は、双子勇者を治療していた魔王の元へと簡単に辿り着いた。

「あなたが魔王様で間違いないですか?」

 いまだ双子勇者を治療している魔王に、端末は問い掛ける。

「そうですけど……何かご用ですか?」

 丁寧に声を掛けられたので、魔王も丁寧に返事をする。

「私について来て欲しいのです」
「それはできません。このままお兄ちゃん達を置いて行けませんから」
「ふむ……できれば無傷で連れて行きたいのですが……」
「貴様~~~!!」

 二人が喋っていると、姫騎士が血相変えて追い付いて来た。

「仕方ないですね……」

 それだけ言うと、端末は魔王に剣を向ける。

「動くと、魔王様を傷付けますよ?」

 端末の脅しに、姫騎士は急ブレーキ。武器も無いので何もできない。

「この~~~!!」
「うっ……な、なんです? このハエは……」
「ハエって言うな~~~!!」
「姫騎士さん!!」

 テレージア、大活躍。ハエと言われて怒っているが、端末の顔の周りを飛んで視界を奪った。そこを魔王の機転。サシャの刀を抱えて走り、姫騎士にパス。
 刀は重量があったので姫騎士に若干届かなかったが、姫騎士はダッシュで拾い、魔王を背に隠して刀を構える。

「無駄な足掻きですよ? くふふ。戻ってください」

 端末は、今度はサシャの首元に剣を持って行った。

「姫騎士さん……」
「魔王殿! 早まるな!!」

 人質を取られたからには、魔王は自身を投げ出そうとするが、姫騎士に肩を掴まれてしまう。

「ですが、サシャさんが……」
「わ、私がなんとかする!!」

 二人が揉めていると、端末は言葉を発する。

「この二人は取っておきたいので、素直に従ってください。どうしてもと言うのなら、クリスティアーネ様の首をねましょうか……」
「私がついて行きます!!」
「待て! 話を聞いてからだ!!」

 前に出ようとした魔王を、再度姫騎士は止めて、端末に質問する。

「どうして勇者達を残しておきたいのだ?」
「実験台にする予定です」
「実験??」
「先ほどの破壊神を見ましたでしょ? 実はアレ、本体の失敗作なんですよね」
「勇者殿を、ここまでボロボロにした化け物が失敗作だと……」
「そうです。あなた達が死の山と呼ばれる場所には完全体が眠っているので、その実験に、この二人はちょうどいい。いえ、この二人しか相手にならないでしょう」

 完全体と言うからには、破壊神より強さは上。姫騎士はその答えに行き着き、声が出ない。なので、魔王が変わりに質問する。

「その完全体を復活させてどうするのですか?」
「実験です。暴走しない完全体を見る事が、本体の夢なんですよ。そのためには、本体が必須。もちろん依代よりしろである魔王様も必須となります」
「実験だけですか……」

 端末の言葉に、魔王は決断する。

「姫騎士さん……私、行きます」
「ま、魔王殿!?」
「私が行かないと、姫騎士さんが殺されちゃいます」
「し、しかし……」
「大丈夫ですよ。必ず、お兄ちゃんが助けてくれます。それにサシャさんも居ます。元の世界を救った勇者様ですよ? 私を救い出すぐらい、簡単ですよ」
「………」

 笑顔を向ける魔王に、姫騎士は声を出せずにいる。その沈黙を魔王は許可と受け取って、端末に歩み寄る。だが、半分ぐらいの距離を残して振り返った。

「テレージアさん。心配してくれてありがとうございます。一人で行きますから、ここに残ってください」

 どうやら、テレージアは魔王の背中にくっついていたようだ。

「で、でも……」
「テレージアさんが残らないで、誰がお兄ちゃん達を治すのですか? 治してくれないと、私を助けてくれる人が居なくなるじゃないですか~」
「……わかったわ。二人を完全に治して、絶対に魔王を助けに行くからね!」
「はい! 待っていますね」

 テレージアが涙をこらえて叫ぶと、魔王は笑顔で返事し、端末の元へと歩く。

「くふっ。聞き分けがよくて助かりました。では、行きましょうか。くふふふ」

 端末は魔王をお姫様抱っこすると、黒い羽を動かして浮き上がる。そうして、姫騎士とテレージアの叫び声が響く中、西に向かって飛び去るのであった。

 残された二人が途方に暮れていると、ヨハンネス率いる騎士団が到着し、事情を説明して、勇者とサシャを丁重に帝都へと運ぶ。そこで、呼び戻した魔法使いの集団と、テレージアによる集合魔法で治療を開始する。




 民が帝都に戻る中、夜になるとクリスティアーネ女王誕生の宴が開かれた。

 姫騎士は双子勇者の事も心配だが、主役が抜けるわけにも、騎士や兵士、民をまとめる必要もあるので、出席しないわけにもいかない。
 その席で、女王としての務めをまっとうする事を固く誓う。しかし、現状に置かれている危機については触れなかった。これは、危機が去ったいま、端末はこちらに攻めて来るとは言っていなかったので、民衆に無駄な心配をさせないための判断だ。

 その騒ぎの中、テレージアは献身的に双子勇者の治療を続け、魔法使いを使い捨てにし、夜通し【癒しの風】を詠唱し続けたのであった。


 翌朝……

 帝都には平和を告げる朝日が降り注ぎ、その光は城の一室にも入り込んだ。

「ん、んん……ふあ~」

 大きなあくびをして体を起こす少女。

「あれ? ここは……兄貴!?」

 サシャだ。戦いの最中に気を失ったサシャは、真っ先に勇者を探す。すると、隣で眠る勇者をすぐに発見した。

「な、何してるんだしぃ!!」

 その勇者は、姫騎士とコリンナに挟まれて眠っていたので、サシャは大きな声を出す事となる。

「うぅ…ん……何を騒いでいるのよ」

 目覚めたのはコリンナだけ。その他はピクリとも動かない。

「あんた! ウチの言った事を忘れたんだしぃ!?」
「シーーー! 静かにして。みんな疲れているのよ」
「だから……」
「あのあとの話、聞かなくていいの?」
「あのあと……て、敵は!?」
「場所を変えよっか」

 コリンナはベッドから降りると、焦って騒ぐサシャを連れ出そうとする。

「トト……あれ? 力が入らない……」

 立ち上がったサシャは、ベッドに腰を落としてしまった。

「テレージアから凄い怪我をしていたと聞いたわ。治療に一晩中掛かったんだから、疲れが取れてないのよ」

 コリンナが勇者の腹の上で「スピー」と寝息を立てているテレージアを見ると、サシャはなんとも言えない表情で見る。

「肩を貸すわ」
「う、うん。ありがと……」

 こうして、疲れて眠る勇者達を残して、サシャはコリンナの肩に掴まり、部屋を出て行くのであった。
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