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20 帝都攻め 1
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しおりを挟む帝都を横断した勇者は、西門で待機。魔法と弓矢の雨霰に晒されながら突っ立って待っているが、サシャは一向に出て来ない。何かあったのか心配に思うが、姫騎士軍に戻っているのかもしれないと走り出した。
勇者の勘は正解。サシャは屋根を飛び交いショートカットしたので、勇者より先に帝都を出ていた。勇者を待つのも面倒なので、先に帰ったというわけだ。
その先に帰ったサシャはと言うと……
「やり過ぎていないか!?」
「ま、まさか、人殺しなんか……」
「作戦通りやったんでしょうね?」
姫騎士、魔王、コリンナの追求にあっていた。
「ちゃんと手加減したしぃ。誰も死んでない……しぃ。たぶん」
自信なさげに報告するサシャに、魔王は血の気の引いた顔に変わる。
「ちょ! 魔王のあんたがなんでそんな顔するしぃ! あんたは人族を滅ぼす側だしぃ!!」
へなへなと倒れそうになる魔王に、そんな事ができるわけがない。それに気付いたサシャも、きつく当たる事はやめるのであった。
そうしていると、勇者が土煙を上げながら姫騎士達の元へ戻って来たので、サシャは慌ててフードを深く被り直す。
「お! 最長老も戻って来てたのか。心配したんだぞ~」
近付く勇者に、サシャはさっと姫騎士の後ろに隠れる。持病の勇者アレルギーが出るので、あまり近付かれたくないのだろう。
その事に気付いた姫騎士は、空気を読んで勇者に話し掛ける。
「最長老様からは先に話を聞いたが、勇者殿はどうだったのだ?」
「ああ。言われた通り、穴を開けて来たぞ」
「ならば次の段階に移行しよう!」
姫騎士は両手を上げて、勇者にお姫様抱っこの催促をする。その時、背中にチクッとした痛みが走り、恐る恐る振り返る。
サシャだ。サシャが刀を抜いて、姫騎士の装備している鉄の胸当てを背中から穴を開け、チクッとする程度で留めたのだ。
そんな事態が起きているとは知らず、魔王とコリンナは姫騎士にギャーギャー文句を言っていたが、姫騎士の耳には入らなかった。
ひとまず姫騎士は勇者を伴って歩き、十分サシャから距離を取ると勇者の背中におぶさる。さすがにサシャにあんな事をされたあとに、お姫様抱っこをしてもらう勇気は無かったようだ。
だが、勇者に手を回して抱きつけるので、これはこれでアリかと思う姫騎士であった。
「姫騎士……姫騎士!」
「え……あ、ああ」
帝都西門に着いたところで勇者は姫騎士に降りるように言ったのだが、姫騎士は幸せな時間を満喫していたので反応がない。勇者が大声を出して、やっと気付いて背中から降りた。
そうして勇者の隣に立った姫騎士は、音声拡張マジックアイテムで帝都の者へ語り掛ける。
『さて……帝都の防御は文字通り穴だらけとなったわけだが、まだ我が軍と戦う考えか? この男の人智を超えた頑丈さを見ただろう……』
姫騎士は勇者の肩に手を置く。
『この男は勇者だ!!』
一際大きな声で勇者を紹介すると、帝都の中からざわざわと音が聞こえて来る。
『信用できない者が多数いると思う……だが、兄……ラインハルトの策を尽く破り、魔界から追い返した立役者なのは、私と共に戦ったのだから証明できる』
姫騎士の勇者紹介は、力のみで押し切るようだ。魔王が召喚したと言うと、帝都内の者が不安に思うとの配慮。いや、よけい信じないと考えた。それに、魔王が後ろ楯と言うと、投降する者も激減すると考えている。
『猶予は一日だ! それまでに投降しない者は、命は無いと思え! ただし、我が軍に来れば悪いようにはしない。住民には戦いに参加させるような事はしないと約束しよう。よい返事を待っているぞ』
姫騎士はそれだけ言うと、勇者にお姫様抱っこを強要し、準備が整うと忘れ物に気付いて振り向いてもらう。
『おっと、壁を直すなら直すといい。何度でも……いや、次は、全て崩してやろうではないか!! では、勇者殿?』
力強い脅し文句のあと、姫騎士は甘い声を出して勇者に強く抱きつく。勇気は走れという指示だと受け取り、自陣に戻るのであった。
お堅い姫騎士の嬉しそうな声と綻んだ顔を見た帝国兵の間で、「あの二人、デキてるんじゃね?」と噂になっていた事は、二人はあとで知る事となるのであった。
二人は自陣近くになると、サシャの驚異を排除するべく、歩いて戻る。そのおかげか、姫騎士は噛み付かれる事はなかったが、意味ありげな視線に串刺しにされた。
居心地の悪さを感じた姫騎士は、仕事があると言って指揮系統の集まる場所で待機する。
残された勇者達はお昼が近かったので、軍の配給している場所で食事を受け取り、空いてるテーブルで休憩する。
「ところでだけど、どうして穴を開けたのに、すぐに攻め込まないんだ?」
パンをかじりながら質問する勇者に、魔王とコリンナは呆れた顔になった。
「お兄ちゃんも会議に出てましたよね?」
「出たはずなんだが、途中から記憶に無いんだよな~」
「「……あ!」」
記憶に無い理由は簡単。魔王に抱きつかれたからだ。
会議が始まってしばらく経った頃に、お茶が運ばれて来たのだが、あまり役に立っていなかった魔王が率先して配っていたら躓いて、勇者の頭を胸で包み込んだので気絶したのだ。
その事を思い出した魔王とコリンナは、同時に声を出したようだ。
「じゃあ、オレが説明するよ」
「近くないか??」
ここぞとばかりに、コリンナは勇者の隣に座り、くっついて説明する。
この作戦は、帝都を囲み、穴を開ける事までが第二段階。三段階目が姫騎士の説得。そして一日様子を見るのが四段階目だ。
するとどうなるのか……
姫騎士軍と帝国軍の兵力差は、双子勇者を除いて2、5倍。外壁があればなんとか耐えられるだろうが、穴だらけでは役に立たない。
そんな状態なら投降する兵も出て来る可能性もあるし、住人に至っては今にも飛び出しそうになっている。穴だらけなので兵士は止めきれないだろうし、それならば自分もと、姫騎士軍に流れる悪循環になると予想している。
これもコリンナの策略。極力戦わずに勝つを実践するための最善の策。新しく入った参謀達も目を丸くしていたので、かなり画期的な策だったようだ。
「なるほど……でも、誰も出て来てないぞ?」
「兵士が止めてるんでしょうね。本格的に行動を移すのは夜になってからよ」
「へ~。そこまで考えているのか。コリンナは凄いな~」
「えへへ。もっと褒めて~」
頭を差し出したコリンナを撫でる勇者。コリンナも嬉しそうにナデナデされている。
「お兄ちゃん! 私もナデナデして欲しいです!!」
「おう! 俺もしたい!!」
相思相愛。最愛の妹に似た魔王にお願いされたからには、勇者はふたつ返事。
「……まだですか?」
「ぐっ……ぐぐぐぐ」
しかし妹だけにヘタレな勇者は、魔王の頭、数センチ手前で手が止まり、撫でられないのであった。
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