上 下
115 / 187
12 姫騎士軍 進軍

114

しおりを挟む

 サシャにお願い事をした姫騎士は砦内に戻り、会議室にて食事と会議を執り行う。

「魔王殿……さっきは助かったしぃ。サンキューだしぃ!」
「「「「「……へ?」」」」」

 皆、唖然、茫然、口あんぐり。お堅い姫騎士がサシャに教えられた口調で話すものだから、そりゃそうなるよ。
 姫騎士も顔が真っ赤なところを見ると、恥ずかしいのであろう。恥ずかしいならやらなきゃいいのに……

「姫騎士……頭でも打った?」

 テレージアにまで心配されてしまった姫騎士は、ズーンと気を落とす。

「なんだかサシャみたいな喋り方だな~」
「お兄ちゃん! 私はそんな喋り方しませんよ」
「いや、妹の……プシュー」

 勇者が妹を思い出した矢先、魔王は抱きついて意識を奪う。サシャの事を知られたくないのは、全員一致の答えなので、暗殺したようだ。

「姫騎士さん。サシャ様の事を思い出させると、お兄ちゃんが……」
「あ、ああ。すまない。先ほどサシャ殿と話をしていて硬いと言われてしまってな。だから砕けて喋ってみたのだが……」
「碎けすぎよ。どうせマネするなら、この妖精女王テレージア様にしなさい!」
「あ、ああ。それで、先ほどは助かった」
「マネしなさいよ! ムグッ」

 テレージアがムキーとなったところで、魔王は捕まえて胸に仕舞う。皆、そのふくよかな物をガン見しながら話は続く。

「もういいですよ。それに、きっとこれからは、死者を減らすような戦い方をしてくれるでしょう?」
「ああ。敵であっても、我が国民である事は忘れない! ……まぁ魔王殿に人命を救えと言われるのは微妙だがな」
「なんでですか~」

 魔王だからだ。頬を膨らませてかわいくぷりぷりしているけど、人族からしたら恐怖の対象なんだからな。

 今度は魔王を宥めて、ようやく本題に入る。

「勇者殿が寝ているからちょうどいいから話すが、サシャ殿とはしばし別行動になる」
「別行動ですか?」
「兄様が向かった死の山を調査してくれる事となった。ひとまずこちらは調査待ちだが、このまま帝都に攻め込もうと思う」

 姫騎士の説明に、コリンナが手を上げて発言する。

「長兄って、いっぱい軍隊を連れて出掛けたのよね? ここは一本道だし、挟み撃ちにあわない?」
「確かにその懸念はあるが、四万もの兵が移動しているのだ。必ず誰かが気付くし、死の山に向かったというのなら、時間的猶予ゆうよがあるだろう」
「でも、魔界に向かったら?」
「あれだけサシャ殿に脅されたんだ。そうそう攻めようとは思わないだろう。それに、一度戻らない事には兵糧も心許こころもとないしな」
「なるほど……」
「では、明日に出発する事にする」


 皆の賛成の声を聞いて、各自解散。各々の寝床に向かうが、勇者はおいてけぼり。そのまま朝を迎えて進軍となった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 その日サシャは空を飛び、南へと向かう。

「うわ~! なんで俺まで~!!」

 嫌がるヨハンネスと共に……

「だって、一人だと暇っしょ?」
「それならば兄と行けばいいんだ!」
「あんな気持ち悪い奴と一緒に居れるわけないしぃ!!」

 それから小一時間、サシャの勇者批判を聞かされ、ヨハンネスはぐったり。勇者の気持ち悪さは重々理解したが、サシャは飛びながら荒れるので、飛行もめちゃくちゃとなって、物理的にも気持ち悪くなった。

「だから兄貴は……」
「も、もうわかった! 飛行に集中してくれ~!!」

 まだ愚痴を話そうとするサシャに泣き付き、ようやく安定して飛行する。勇者は妹愛で何時間でも話せるらしいが、サシャは愚痴で何時間でも話せるようだ。
 案外、似た者兄妹のようだ……

「なんだしぃぃ!」
「??」

 突然、サシャが叫ぶが気にしない。きっとヨハンネスの不穏な考えが伝わったのであろう。


 そうして死の山が近付くと、森が切れた岩場に降り立つ。

「アレが死の山……」
「あ、前回は寝てたから見てなかったしぃ。あの時も空から見えてたしぃ」

 息を呑むヨハンネスに、あっけらかんと応えるサシャ。

「言い伝えでは、死の山は命を吸い取られると聞いているのだが、大丈夫なのか?」
「ドレイン系の魔法がウチに来たら、結界にブロックされて気付くんだけど、それもないしぃ」
「結界? それって、俺は掛かってないんだよな?」
「当然だしぃ。モルモットで連れて来たんだしぃ!」
「なっ……」

 サシャがヨハンネスを連れて来たのは、お喋りの相手だけではなく、実験動物にするためだったらしい。かわいそうなヨハンネス。愚痴を散々聞かされて、そのようなぶっちゃけ話を聞かせれたからには、怒りをぶつけたくもなる。
 だが、相手は最強の一角のガキ大将。いや、勇者だ。文句を言ったら逆ギレされるのがオチ。ヨハンネスはグッと我慢するのであった。


「じゃあ、伝承が間違っていたのか?」
「さあね~。でも、あながち間違いじゃないんじゃね?」
「アレは……」

 ヨハンネスはサシャの指差す物に駆け寄る。

「帝国兵……」

 ヨハンネスの目の前には、鎧を付けた上半身しかないミイラが横たわっていたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

転生賢者の異世界無双〜勇者じゃないと追放されましたが、世界最強の賢者でした〜

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人は異世界へと召喚される。勇者としてこの国を救ってほしいと頼まれるが、直人の職業は賢者であったため、一方的に追放されてしまう。 だが、王は知らなかった。賢者は勇者をも超える世界最強の職業であることを、自分の力に気づいた直人はその力を使って自由気ままに生きるのであった。 一方、王は直人が最強だと知って、戻ってくるように土下座して懇願するが、全ては手遅れであった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ@10シリーズ書籍化
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...