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10 勇者VS魔王
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しおりを挟むサシャによって手に入れた人族兵の処置が終わる頃には日が完全に落ち、遅ればせながら姫騎士は四天王の揃う役場に顔を出す。
もちろんサシャもついて来て、会議室で偉そうにふんぞり返って座り、ヨハンネスもサシャの真後ろに立つ。
「いちおう人族兵は落ち着かせたが、サシャ殿が言いたい事があるようだ」
姫騎士の言葉に、四天王のおっさん三人は、恐る恐るサシャを見る。
「兄貴と魔王はどこにいるしぃ! まだ抱き合っているって言うのなら、暴れるしぃ!!」
現在、勇者と魔王は役場の一室で抱き合って眠っている。その事を熟知している三人は、額に汗を浮かべながら嘘をつく。
「も、もう離れているだ~」
「そ、そうだぞ。ま、魔王様も反省している」
「ええ。ですが、疲れたようなので、二人とも眠っています」
「嘘っぽいしぃ!」
嘘を言い慣れていないおっさん達では、一発で見破られたみたいだ。いや、スベンは冷静沈着な性格なので、レオンとミヒェルが悪いのであろう。
スベンは二人をキッと睨み、目で黙っているように言い聞かせ、サシャに語り掛ける。
「嘘ではありません。その証拠に、魔王様を起こして参ります」
「う~ん……」
スベンは賭けに出た。こう言ってしまえば、サシャも確認を取らないのではないかと……
「じゃあ、さっさと連れてくるしぃ」
「は、はい……」
そして負けた。賭け事なんかした事がないのだから、負けてしまっても致し方ない。
スベンは渋々立ち上がるが、女性である魔王を無理矢理起こすのは気が引けるのか、姫騎士を誘って魔王達の眠る場所へと移動する。
「まだ抱き合っているじゃないか!」
「面目ありません」
姫騎士もさすがにもう離れていると思っていたのか、驚いた声を出す。
「ゆ、勇者殿は息をしているか?」
そして、ピクリとも動かない勇者を心配する。それは当然。勇者は今まで三度、目を覚ましたが、目覚めた瞬間魔王の顔がすぐ近くにあったので、その都度、気絶を繰り返している。
「おそらくは……ひとまず姫騎士さんは、寝ている魔王様を引き離してくれますか?」
「あ、ああ」
魔王が喚き散らさない今が絶好のチャンスとばかりに、姫騎士は魔王を抱き抱えて会議室に連行する。そうしてサシャの目の前に座らせ、スペンはこの通り寝ている旨を伝える。
「ふ~ん……。ま、これでいいや。ごくろう」
「はあ……」
偉そうに振る舞うサシャに、一同、どう接していいか悩んでいると、魔王が目を覚ました。
「ん、んん……」
「起きたか」
「姫騎士さん?」
目覚めた魔王に姫騎士が声を掛けると魔王は辺りを見渡し、目の前のサシャの顔を見て、目を止める。
「鏡?」
「似てるけど違うしぃ!」
「え……あなたは……お兄ちゃん!!」
事態を思い出した魔王は勇者を探そうと立ち上がるが、姫騎士に抱き締められて動きを止める。
「もう大丈夫だ。サシャ殿は勇者殿を連れ去ろうとはしていない。それよりも、魔王殿は心配する事があるであろう?」
「お兄ちゃん以外……あ! 人族軍はどうなりましたか! どちらにも怪我はありませんでしたか!?」
「ああ。サシャ殿が穏便に処理してくれた」
姫騎士に喰い掛かる魔王を優しく宥め、これまでの経緯を説明する。そうすると、魔王も冷静さを思い出し、サシャへとお辞儀をする。
「サシャ様。この度は魔族にご尽力いただき、有り難う御座いました。当代の魔王ステファニエ、切に感謝を述べさせていただきます」
サシャは丁寧に謝辞を述べる魔王を見て、頭を掻きながら応える。
「もういいしぃ」
「いえ。失礼な態度もとったようで、申し訳ありませんでした」
「ウチも久し振りに兄貴に会ったから、少し熱くなってしまったしぃ。でも、なんであんなバカ兄貴に必死で抱きついていたの?」
「それは……勇者様はこの戦争の要なので、手放す事はしたくないからです。ここまで盛り返す事が出来たのも、全て勇者様のおかげです」
「あのバカ兄貴が!? 嘘だしぃ!!」
勇者の活躍をまったく信じないサシャに、魔王は勇者召喚をしてからの今日までの出来事を話して聞かす。
そうして、全てを聞き終えたサシャは、大きな声を出す。
「全然戦ってないしぃぃぃ!!」
そう。勇者は壁を壊したり、走ったり、敵将を拉致って来ただけで、戦う事はした事がない。そりゃ、サシャにツッコまれるよ。
皆もその声に納得してしまい、苦笑いをするだけであった。
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