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10 勇者VS魔王

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 キャサリの町の拡張が済んでしばらく経ち、魔王と勇者は畑の見える場所でピクニックシートを広げ、日向ぼっこを楽しんでいた。

「いい天気ですね~。風が気持ちいいです~」
「そ、そうだな」
「なんでそんなに端に座るのですか~」

 相変わらずのヘタレ勇者では、魔王が近くに居ては緊張するのだろう。

「まったく……デートに行くなら声を掛けてよね~」
「テレージアさん?」

 このようなシチュエーションを見逃す妖精女王ではないようだが、デートに行くなら声を掛けるわけがないだろう。

「サシャとデート……ぐふふ」
「はいはい。そういうのは、もっと近付いてからやってくれる?」

 気持ち悪い笑顔を見せる勇者を、冷ややかな目で見るテレージア。勇者がデートのつもりなのがビックリだ。
 テレージアのお陰で少し緊張のほぐれた勇者は、ようやく世間話が出来るようになった。

「それにしても、凄い早さで畑が出来たものだな」
「魔族の得意分野ですからね。早くトマトが実って欲しいです~」
「そういえば、トマトが名産って言っていたか。でも、人族に援助するなら、穀物をいっぱい育てた方がいいんじゃないか?」
「穀物も育てていますよ。他の町も畑を広げて育ててもらっているので、次の収穫は、例年の五倍以上になるはずです」
「そんなに!?」

 さすが農業特化の魔族と言えようが、もう少し戦闘にも力を入れていれば、このような事態を避けられたかもしれない。

「こないだ食糧を取りに行った時も驚いたけど、本当に魔族は農業に関しては凄いんだな」
「それを言ったらお兄ちゃんもですよ。魔界での一年の消費量を、全てアイテムボックスに入れてたじゃないですか。しかも、各町に配って夜には帰って来れるなんて信じられません」
「まぁ走る勇者と呼ばれていたからな」

 前回、食糧を取りに行った時には、キャサリの町から湖を水竜で移動し、魔都からパンパリー、ミニンギー、ウーメラ、再びキャサリの町まで走破した勇者。
 勇者が走った移動距離だけで言えば、徒歩20日を10時間余りで走り切ったのだから、走る勇者だけで説明をするな! ……と、魔王とテレージアは思っているぞ。

「それにしても平和ですね~」
「魔王……戦争中よ!」

 あまりにも暢気のんきな魔王に、テレージアはツッコム。

「あ、そうでした」
「まったく……忘れてるんじゃないわよ」
「だって、キャサリの町に着いてから、一ヶ月以上経ちますよ? 半月ぐらいで人族の人達が来るって言ってたじゃないですか~」
「たしかにそうだけど、大勢連れて来るなら遅れるかもしれないじゃない」
「もう諦めてくれたらいいんですけどね~」

 人族軍がなかなか来ないので、魔王から緊張感が無くなり、昔の、のほほんとした感じに戻ってしまった。その姿も、勇者はかわいいと言って気持ち悪い顔で見ていた。

「ちょっとダラけ過ぎじゃない? ちゃんと魔法の訓練はしてる?」
「今日だけですよ。いちおうは教えてもらった攻撃魔法は覚えましたし、なんなら褒められちゃいました」
「あ~。俺も見ていたけど、褒められたと言うより、驚いてなかったか?」
「そうでしたっけ?」

 魔王は人族の魔法使いから、複数の攻撃魔法を教えてもらって使えるようになったが、魔王の有り余る魔力のせいで、全ての魔法は十倍の大きさになっていた。
 野球ボール大の【ファイヤーボール】が、十倍になったのだから、もう【ファイヤーボール】と言えない。教えていた魔法使いも、顔を青くしていたほどだ。

「そういえば、テレージアさんも攻撃魔法を習っているのですよね? 全然見掛けませんが、いつも誰に教わっているのですか?」
「あ、あいつよ。あいつ……三角帽を被った……」

 うん。目が泳いでいるところを見ると、サボッているな。テレージアは初日に風魔法を習って以降、まったく参加していない。なんでも凄い威力だったから、最強なんだとか。

「魔族もエルフの皆さんも、一所懸命習っているのですから、テレージアさんもちゃんとしてくださいよ~」
「やってるって言ってるでしょ! 勇者。ケーキを出しなさい!!」

 苦しい話の逸らし方だな。そんな事で魔王の追及はかわせないぞ?

「ケーキ!? あのふわふわな触感……お兄ちゃん! 私も食べたいです!!」

 あ、追及しないんだ……

「サシャは食いしん坊さんだな~。しょうがないな~」

 デレデレしながらアイテムボックスからショートケーキを振る舞う勇者。食いしん坊なのは、テレージアだと思うのだが……

「やっぱり美味しくて幸せです~」
「ホント。勇者を召喚して正解だったわね」
「はい!」

 いやいや。勇者を召喚したのは窮地きゅうちを救ってもらう為で、美味しい物を運んでもらう為ではないはずだ。そして、勇者は魔王の顔を見てないでツッコんで!

「でも、アイテムボックスの中の物が無くなったら終わりなんですね……」
「まだまだいろんな種類がいっぱいあったじゃない?」

 テレージアはアイテムボックスの中身が気になっていたので、魔王をそそのかして全てチェックはしている。全て妹の為に用意した物なのに、自分の物だと勘違いしている節は否めない。

「それでも補給が出来ないのですから、いつかは尽きますよ」
「たしかに……それじゃあ、今度は人族のパティシエでもスカウトに行っちゃう?」
「それ、いいですね! 魔界産の果物を使えば、もっと美味しくなるはずです!!」

 スイーツの話で盛り上がっているけど、それでいいのか? 現在魔族は人族との戦争中だったはずなのだが……テレージアもクリームをほっぺに付けてないでツッコんで!


 カンカンカンカンカン……


「この音は……」

 三人はまったく戦争とは関係無い話で盛り上がり、穏やかな一日を満喫していると、突如、キャサリの町に鐘の音が響き渡るのであった。
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