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05 戦準備

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 魔族が壁建設を行って四日。準備に勤しんでいると、ついに人族が動きを見せる。馬に乗った兵士が数名現れたと報告を受け、魔王と主要メンバーは壁に移動する。

「三名だけですね。何をしに来たのでしょう?」
「戦場の偵察と言ったところだろう」

 魔王の質問に、姫騎士が答える。

「壁を見られましたけど、大丈夫でしょうか?」
「いきなり壁が出来ていれば驚くだろうが、壁があると報告を受けたら、対策は取るだろうな」
「では、どうしたら……」
「アニキ。全員捕まえられない?」

 魔王が心配する声を出すと、コリンナが勇者に指示を出す。

「かなり離れているからな~。全員となると運試しになる」
「一人でも捕まえられれば、新しい情報が手に入るし、それでいいよ」
「わかった。ちょっと行って来る」

 コリンナのお願いを聞いた勇者は壁から飛び降り、ゆっくりと騎兵に向けて歩く。騎兵は構えて逃げるかどうか悩み、一人で歩いて来る剣も帯びていない男なら、どうとでも対応出来るかと、ナメて動かず様子を見る。
 その様子を魔王達が眺めていると、勇者は片手を上げて挨拶をした。当然、怪しい男に対して騎兵は剣を向ける。だが、勇者はその剣を引っ張り、騎兵の一人は馬から落ちる事となった。
 すると、一人の騎兵が剣を抜き、勇者は斬られるが、まったく効かずにその男も馬から引き摺り降ろされる。
 最後の一人は、慌てて馬を反転させて駆け出すが、勇者のダッシュで追い付かれ、足を掴まれて地に降ろされた。

 馬から降ろされた兵士達は剣を構え、足を持って仲間を引きずっている勇者を斬り付けるが、それは愚策。剣は弾かれ、全員引きずられて魔王達の元へと連れて行かれる。


「一斉に別方向に逃げられたら無理だったけど、ラッキーだったな~」

 勇者はにこやかに戻って来たが、皆、微妙な顔で出迎える。

「ラッキーで片付けられる事なのか?」
「まさか無傷で捕まえて来るとは思わなかったわ」

 姫騎士は疑問を口にすると、コリンナが呆れて答える。

「お兄ちゃん! お疲れ様です」
「おう!」

 皆が呆れる中、魔王がねぎらいの言葉を掛けると、勇者は気持ち悪い顔になり、さらにかっこいいところを見せようと、男三人を掴んだままひとっ飛びで壁に登る。
 また、皆に呆れた顔をされたが、勇者は気にしないでコリンナに話し掛ける。

「それでこいつら、どうするんだ?」
「素直に話してくれないなら、拷問でもして吐かせよっか?」

 コリンナの言葉に、青ざめる者がいる。そう……

「それはひどすぎるだ……」
「無抵抗の者をなぶるなんて、かわいそうだろう!」
「人族はなんて野蛮なのでしょう……」

 そう。捕まえた三人ではなく、四天王のおっさん三人だ。

「コリンナさん! それは人としてどうなのですか!」
「コリンナも、そっち側の人間だったのね……」

 ついでに魔王とテレージアも非難している。

「はあ? あんたたちの為にやるんでしょ! なんでオレが悪者になるんだ~! アニキー!!」

 さすがのコリンナもキレた。今まで無理難題を押し付けられていたのだから仕方がない。
 そして、勢いに任せて勇者に抱きつく。勇者がそんなコリンナを抱き締めると、嬉しくなって、誹謗中傷ひぼうちゅうしょうはどうでもよくなったみたいだ。

「はぁ。拷問の前に、対話をしてみよう」

 皆の慌てようを黙って見ていた姫騎士が、ため息まじりに口を開く。

「お前達、どこの部隊だ?」
「姫様!? どうして魔族の砦に居るのですか? まさか裏切り……」
「その通りだ。私は国を裏切り、魔族の側についた」
「何故、そんな事を……」
「それは……」

 姫騎士が自分の父親が犯した所業、魔族が優しい生き物だと懇切丁寧こんせつていねいに話すと、兵士は簡単に納得し、情報をペラペラと喋る。
 さらに自分も配下に入れてくれと言い出す始末。どうやら長兄よりも、姫騎士のほうがカリスマがあるようだ。

 魔王は捕まえた三人を姫騎士の下につけるが、コリンナが反対する。罠の可能性が否定できないと言うと、「疑い過ぎ」と四天王の三人から否定する声が飛んで来る。
 今回は姫騎士と魔王もコリンナの味方についたので、しゅんとしたのは三人のおっさんであった。

 念の為、捕虜の三人は新設した大きな牢屋に軟禁し、情報を仕入れた魔族は巨大馬車で会議を開く。

「どうやら、明日には本隊がお出ましになるようだ」
「予定通りですか……。確か、次兄さん達が遅れていると言っていませんでしたか?」
「上兄様は間に合わないと判断したのだろう。それ以前に集めていた兵士もいるし、戦わない魔族なら、余裕で勝てると考えているのかもな」
「そうですか……。では、明日に火蓋が切られるのですね」

 姫騎士と話し合っていた魔王は立ち上がると、皆の顔を見渡し、言葉を続ける。

「皆さん。明日は初めての戦闘です。怖いですよね? 私も怖いです。ですが、トップに立つ私達が怖がっていては、魔族の皆さんの士気に関わります。私も恐怖を押し殺しますので、皆さんも恐怖を顔に出さないでください。お願いします」

 魔王はそう言うと頭を下げる。その姿を見た四天王は顔を見合わせてうなずき、温かい言葉を掛ける。

「オラ達に任せるだ~!」
「俺も少し戦い方を習ったから大丈夫だ!」
「壁も、何度壊されても作り直してみせます!」
「お姉ちゃんは、わたしが守る!」
「皆さん……ありがとうございます。では、明日の作戦の最終確認をしましょう!」
「「「はっ!」」」
「お兄ちゃんは壁で待機して、また誰か来たら捕まえてください」
「わかった」

 魔王達が会議を続ける中、勇者は馬車から出て壁に向かう。テレージアも難しい話が嫌なのか、勇者に付き合うようだ。
 しばらく壁で待機していると、夕暮れ前に五人の騎兵が現れ、全員勇者に捕らえられて姫騎士に受け渡される。この兵士も姫騎士にさとされ、寝返る事となるのであった。
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