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04 逃亡

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 勇者は次兄を外壁の頂上付近に張り付けると、走って屋敷に戻る。そこで、穴を開けた壁を調べて再び走り出す。
 そうしてしばらく町を走っていると酒場のオヤジを見付けたので、勇者は走り寄る。

「あ、あんた! まだこの町に居たのか!?」
「ああ。それより、姫騎士は生きていたぞ」
「やっぱりか! 町で見掛けたと言う奴がいたから探していたんだが、どこにいるんだ?」
「次兄から逃げていたみたいだから、もう町を出たんじゃないかな?」
「そうか……生きているなら、それでいいか。よかった……本当によかった」
「心配していたから教えてやったんだぞ。今度来た時は、一杯おごれよ?」
「一杯どころか、樽で奢ってやるよ!」
「ははは。楽しみにしておくよ。それじゃあ、俺は行くな」
「ちょっと待て!」
「なんだ?」
「服ぐらい着て走れ! さすがに見てられん!!」
「あ……あはははは」

 魔法使いに全身を燃やされて全裸になっていた事を、ようやく気付いた勇者はいそいそと旅人の服を着て、オヤジにお礼を言って走り出す。
 魔王達が辿り着いたであろう外壁まで来ると痕跡を見失ったが、外に出たと予想をつけて、外壁をひとっ飛びで飛び越える。
 その先で、思った通り痕跡を見付けた勇者は、軽く屈伸してから、とてつもない速さで走り出す。途中、追い抜いた馬車馬が自信を無くす程のスピードだ。

 その甲斐あって、すぐに魔王達に追い付く事となった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


「何か音がしない?」

 後方から聞こえて来る音に、真っ先に気付いたのはテレージア。その発言に、魔王以外の者が気を張り詰める。

「追っ手かも! みんな、あの林に走って!!」

 ドドドドと近付く音に、コリンナが逃げようと皆に指示を出すが、音は凄い速度で近付き、さらに大きくなる。
 皆が焦って駆け出そうとする中、魔王は暢気のんきな声を出す。

「あ、お兄ちゃんです。お兄ちゃ~~~ん」
「はあ? こんな速い足音、馬以外にないじゃない……え?」

 コリンナは否定するが、見えて来たモノに絶句する。勇者が「お~い」と言いながら手を振って走っていたからだ。
 程なくして魔王達に追い付いた勇者は、ガガーっと地を削って急停止する。

「お兄ちゃん。おかえりなさい」
「サシャ。ただいま」

 魔王の普通の出迎えに、勇者はモジモジしながら応える。その気持ち悪いやり取りを見ていた姫騎士が前に出て、剣を差し出す。

「こちらは使わなかったが、助かった。返却する」
「いいよ。姫騎士と言われているんだから、剣のひとつでも差していないと決まらないだろ」
「いいのか?」
「盗賊から没収したなまくらだ。もらっておけ」
「そうか……有難く使わせてもらう。それはそうと、あれからどうなったのだ?」
「次兄を、壁にぶっ差した棒に置いて来た」
「え?」
「アイツらが、どうやって救出するのか見物だったんだけどな~」

 姫騎士は勇者の言っている意味がわからないので、詳しく聞こうとするが、コリンナが割って入り、話を奪われる。

「そんな事より、追っ手は?」
「えっと~……お前はあの場にいた少女か。いまは取り込んでいるから、しばらくは追っ手を出せないかな?」
「絶対なのね?」
「絶対と言われると自信は無いが、外壁の上からも下からも届かない所に置いて来たから、確率は高いかな?」
「……わかったわ。行きましょう」

 コリンナも言ってる意味がわからなかったみたいだが、ツッコムよりも逃げる事を優先させて歩き出す。
 姫騎士も遅れまいと歩き出し、最後尾の魔王は疲れたと勇者に愚痴る。なので、また背負子しょいこを背負った勇者に乗って移動する。

 そうして歩き出した勇者は、自身がいなかった間の報告を聞いて質問する。

「それで、姫騎士は仲間になってくれそうなのか?」
「まだスカウトしていません。どうも私達を見ても、魔王と勇者だとわかってもらえないみたいですので、どうしたものでしょう?」
「やっぱり妖精女王のあたしの出番ね!」
「何か策があるのか?」
「妖精女王よ! 偉いのよ! かわいいのよ!!」
「……だから?」
「あたしが頼めばいちころよ~」

 ヘヘンと胸を張るテレージア。だが、その策は愚策だろう。

「その偉さは伝わるのか?」
「見ればわかるじゃない!」
「かわいいってのは?」
「見ての通りよ!!」
「う~ん……じゃあ、魔族の事を秘密にして、口説いて来てくれ」
「任せなさい!!」

 テレージアはパタパタと空を飛んで姫騎士の肩に着陸し、耳元で勧誘を行う。それから数分後、ムキーとなって戻って来た。

「どうしてわかってくれないのよ~!」
「だろうな」
「でしょうね」
「ムキー!!」

 あきれる勇者と魔王に、テレージアはさらに機嫌を悪くする。

「荒れてるな。なんて言われたんだ?」
「妖精女王ってのは本当なのかとか、かわいいからで仲間になるわけないだろうとか……最後には頭を撫でられたのよ!」
「まぁ……」
「思っていた通りですね」
「ムキー!!」

 勧誘を失敗してムキーっとなっているテレージアを宥める事に、骨を折る勇者と魔王であった。
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