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01 勇者召喚

007

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 仲良く喋っていた魔王と勇者であったが、逆上のぼせて来たので二人はお風呂から上がる。魔王から出るように言われたので、着替え終わると勇者を呼び、魔王は外で待つ。
 勇者が出て来ると魔王の寝室に向かうが、一緒に寝るとなると、お互いに緊張が走る。
 まず魔王がベッドに横になり、ガチガチの勇者が魔王の隣に寝転ぶ。二人とも心音が高鳴り、静かな寝室がドキドキと脈打っているようだ。

(……男の人とベッドに入ってしまった。何かされるかも? ドキドキが止まらないよ。あ……お風呂でも勇者様は目も開けようとしなかったから大丈夫かな? いまも微動だにしないし……)

 魔王は勇者に背を向けていたが、モソモソと振り返り、勇者の顔を見る。

(う~ん……寝たフリかな? それよりも息しているかが心配。やっぱり何もして来ないわ。本当に兄妹として接しているのかな? 私には兄がいないから、お兄ちゃんができて少しうれしいかも……。おやすみ。お兄ちゃん)

 魔王は心の中でおやすみと言うと、再び勇者に背を向けて眠りに落ちるのであった。

 その頃勇者はと言うと……

(ね、眠れない~~~!)

 微動だにしなくとも、内心は荒れ荒れだった。

(本物では無いけど妹と寝る夢は叶ったが、こんなに緊張するとは……お風呂でも、妹を覗く時は目に焼き付けようと見開いていられたのに、一緒に入ると開けていられなかった……クソー!)

 荒れながらも、今日の反省をする勇者であった。

 その時、魔王が寝返りを打つ。

(あ! なんだ? 抱きついて来た!! あの立派な胸が俺に押し付けられている……も、もうダメだ!!)

 勇者は理性が弾け飛び、魔王に襲い掛かる……

「きゅ~~~」

 いや、弾け飛んだのは、頭のネジの方だったみたいだ。こうして、勇者召喚一日目が終わ……

 ガシャン

 何か物音がしたが、勇者召喚一日目が終わるのであった。





 翌日……

「きゃっ」

 魔王は目を覚ますと、勇者に抱きついて寝ていたらしく、小さく悲鳴をあげる。

(男の人が、なんで私のベッドにいるの!? あ、昨日……)

 魔王は事態を把握すると、ゆっくりと勇者から離れ、身支度を整える。
 その間も勇者は微動だにせず、起きる気配がなかったので、着替え終わった魔王は勇者を揺すり起こす。

「お兄ちゃん。お兄ちゃん……」
「ん、んん~……サシャ? ちゅ~~~」

 勇者は魔王の顔を見ると、寝惚けているのか、モーニングキスを迫る。

「あの~……キスはした方がいいのですか?」
「うん! 当然だ!!」
「わ、わかりました。それでは……行きます!」

 魔王は気合いを入れると口を尖らし、勇者の口にゆっくり近付ける。すると勇者は……

「わ! サシャが俺にキスを……なんでだ!?」

 飛び起きて魔王から離れる。せっかくのチャンスを棒に振ったようだ。

「なんでと聞かれましても、お兄ちゃんがしろと言ったのですよ」
「俺が!? 寝惚けて言ったような……」

 勇者は思い出そうとするが、扉が勢いよく開き、ガチャガチャと乱入者が現れた。

「なんでキスしないのよ!!」
「テレージアさん?」
「お風呂でも何もしないし、ベッドでも何もしないなんて……勇者はヘタレなの!!」
「な……」
「ずっと見てたのですか?」
「見てないと思ったのか~~~!」

 唖然、呆然。二人は口をパクパクして声が出ない。

「みんなでいつキスするかで盛り上がっていたのに、なんでしないのよ! おかげで寝不足だわ!!」

 テレージアは二人をののしるが、それは自業自得。二人が罵られる理由にはならない。そこでやっと立ち直った勇者が声を出す。

「みんなって?」
「うっ……みんなは、みんなよ!」
「だから、お前一人しかいないだろ?」
「うっ……もういいわよ! 寝不足だから、私は寝るからね!!」

 そう言うとテレージアは、ドアを乱暴に閉めてガチャガチャと自分の部屋に帰って行った。残された二人は、ずっとのぞかれていた事に恥ずかしくなり、黙って一階のリビングに移動する。

 そこで魔王は、勇者に待っているように言い、キッチンに移動して簡単に調理して戻って来る。

「パンとスープだけで申し訳ありませんが、お召し上がりください」
「これは……サシャが作ったのか?」
「いえ。昨日のスープを温め直しただけです。私も作れますけど、魔王が料理を作るのはおかしいと言われて、メイドが作ってくれるようになったのです」
「そうなんだ。でも、サシャの手料理が食べてみたいな~」
「ホントですか? それじゃあ、久し振りに作ります! お昼まで待っててください」
「お、おう」
「さあ。冷めない内に食べましょう!」
「ああ。いただきます」

 勇者と魔王は本物の兄妹のように楽しく食事をとり、今日の予定を話し合う。しかし、今度はその朝食を邪魔する者が現れる。

「お腹すいた~……お姉ちゃん? その人はだれ??」
「あ、フリーデちゃん。おはよう。この人は勇者様だよ。もう食べ終わるから、ちょっと待っててね」
「ふ~ん……」

 魔王は急いでパンを頬張ると、皿を持ってキッチンに移動する。すると、卵の殻を被ったフリーデは、目をこすりながら勇者の隣に座る。
 それから少し待つと、スープとパンが円卓に並び、ばくばく食べ、あっと言う間に食べ終わって隣の勇者を見る。

「あれ? この人だれ?」
「さっきも言ったでしょ。勇者様だよ」
「サシャ。勇者様じゃなくて、お兄ちゃんだろ?」
「あ、そうでした。この人は昨日召喚したお兄ちゃんだよ」
「お兄ちゃん……?」

 フリーデはお腹が膨らんだおかげで情況を飲み込んだのか、飛び上がると、勇者にドロップキックをお見舞する。
 ドロップキックを喰らった勇者は、壁まで吹っ飛ばされる事となった。

「な、何をする!」

 勇者は体を起こして声をあげるが、その声を、フリーデの大きな声が遮る。四天王で護衛の任を帯びているから、見知らぬ男が魔王の側にいるのに怒っているのだろう。

「お姉ちゃんを取っちゃダメー!!」

 ん? どうやら、大好きな魔王が仲良く話をしていたのに、腹を立てていたみたいだ。
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