上 下
24 / 38

24 勇者VS猫にゃ~

しおりを挟む

 太陽の迷宮、第1フロアでシルバースライム狩りを始めたが、勇者パーティは苦戦中。わしはシルバースライムより遥かに素早いので、鷲掴みで捕まえてアオイに攻撃させてみた。

「にゃ? にゃかにゃか死なないにゃ~」
「小さいですけど防御力が高いですからね」
「弱点とかないのかにゃ?」
「あったら今頃ここは、冒険者だらけになっていますよ」
「にゃるほど~。そりゃ誰も来なくなるにゃ~。あ、やっと死んだにゃ~」

 アオイがクナイで往復ビンタをしまくって、ようやくシルバースライムは消滅。ドロップアイテムも魔石だけなので、仮に高く売れたとしても、普通の冒険者では大赤字になりそうだ。
 そんなことをしていたら、勇者パーティから再び残念そうな声が上がった。またシルバースライムを取り逃がしてしまったようだ。

「うぅぅ。必要レベルはあるはずなんですけど……シラタマ様達はどうですか?」

 サトミが悔しそうに寄って来たので一匹仕留めたと言ったら、攻略方法を教えてくれとうるさい。

「見てたらわかるにゃ~」

 攻略方法は無いに等しいので、先を進んでシルバースライムを探す。すると、広い部屋に出たところでシルバースライムが五匹現れた。
 経験値大量ゲットのチャンスに勇者パーティは色めき立って向かって行こうとしたが、わしは止めてコリスに指示を出す。

「二匹捕まえてにゃ~。わしは三匹受け持つにゃ~」
「わかった~」

 そこからは、あっという間。コリスは素早くシルバースライムの後ろに回り込んで、両手で摘まみあげる。わしも同じく素早く回り込んで、一匹は刀を突き刺して一撃必殺。残り二匹は両手で握り、コリスと一緒に皆の元へ戻るのであった。


「「「「「ええぇぇ~……」」」」」

 わし達がシルバースライムを捕まえて戻ったら、勇者パーティはドン引き。あんなに苦労して追い回していた物が目の前にあるのだから、気持ちはわからんでもない。

「コリスのほうは、べティとノルンちゃんで試してみてにゃ~。くれぐれも、コリスが怪我しそうな攻撃するにゃよ?」
「わかってるって~」
「わかってるんだよ~」

 べティ&ノルンは少し心配なので見ていたら、魔法少女に変身し出したからもういいや。勇者パーティに目を移す。

「ハルト君からやってみるにゃ?」
「えっと……シラタマさんって一撃で倒してませんでした? その方法を教えてください!!」
「アレは……たまたま会心の一撃が出ただけにゃ~」
「なるほど! わかりました!!」
「わかるんにゃ……」

 本当はシルバースライムの防御力をわしの攻撃力が遥かに上回っているだけなので適当に言ったのだが、ハルトは何故か納得。わしは言われるままに、シルバースライムをハルトの前にポイッと投げてあげた。

「喰らえ~!」

 ハルトの力みまくった剣は、シルバースライムに当たったが吹っ飛んだだけ。わしは素早く拾いに走り、楽々捕まえて帰って来た。

「力みすぎにゃ~。そんなんじゃいい攻撃にゃんてできないにゃ~」
「す、すみません……でも、剣なんて習ったことがないので……」
「勇者の剣が教えてくれるって言ってたにゃろ? 心を落ち着かせて、剣の声を聞けにゃ。まずはそこからにゃ」
「はい! やってみます!!」
「じゃ、他の人?からやってみようにゃ~」

 普通の人間が少ないのでハテナマークがついてしまったが、勇者パーティはふた手に分かれて攻撃。皆には思い切り直接攻撃をやらせて、わしは必ず当たる位置、かつ、自分に当たらないようにシルバースライムを持って行く。
 その結果、十周目でシルバースライム二匹は消滅。攻撃力の高い低い関係なく、当たりがよければ十回の攻撃で倒せるという情報を得たのであった。


「そっちはどうにゃ~?」

 勇者パーティの処置が終わったら、べティ達にも聞き取り調査。

「あたしの魔法は厳しいわね。このナイフなら、三回の攻撃でいけたわ」
「ノルンちゃんの杖もダメなんだよ~。最強攻撃なら五回で倒せたんだよ」

 総じて魔法は効きが悪いようだが、白魔鉱のナイフに魔力を流せば一番効果が高い。ノルンの【妖精の怒り】は雷攻撃なのだが、普通の魔法より出力が高いみたいだ。

「お腹ペコペコなんだよ~」

 だから燃費が悪いのだ。わしはノルンに魔力を与えながら、ハルトの元へ移動する。

「どうかにゃ? 剣の声は聞けたかにゃ??」
「聞けましたが……いまいちよくわかりません。力を入れないで振っても斬れないと思うんですけど……」
「その声を受け入れるところからだにゃ~……まぁいいにゃ。どこか安全な場所はないのかにゃ? 一度休もうにゃ~」

 各地にある迷宮には、1フロアごとにセーフティーエリアなる物があるらしいので、わしの予想通り。サトミは地図を見ながら案内してくれていたが、すでにどこに居るのかわかっていなかったのでアオイに地図を渡す。
 わしの探知魔法なら、本気を出せばこのフロアのことを全てわかるのだが、下手したら自分を含めた全員の鼓膜を破くので、近場だけを探知。それだけで地図を見たら現在地がわかったので、セーフティーエリアまで真っ直ぐ向かえる。

 道中、数匹シルバースライムが出たからわしとコリスで捕まえて、わし達とハルト以外で滅多打ち。そこそこ経験値が入ったと思われる。
 セーフティーエリアに着いたら簡易キッチンと食材を出し、ハルトとアオイをべティの補佐に回して、わしはセーフティーエリアギリギリに陣取った。

「何をなさるのですか?」

 サトミが興味を持って寄って来たので、わしは簡単な説明。

「ちょっとズルしようと思ってにゃ~。危にゃいから離れておいてくれにゃ~」

 近くに誰も居ないことを確認したら、わしの世界で白魔鉱というレアアースと素材を出し、高火力の炎の中に入れてこねくり回したら焼き入れ。
 太くて長い針ができたら重力魔法で3分の1に圧縮して、また焼き入れをしたら軽く研いで、先端を確認。
 さすがは元職人のわし。七本作った針の先端は、全て白銀に輝いたのであった。


 わしが作業を終えた頃には、皆は先に食事を始めてやがったので、わしは「にゃ~にゃ~」文句を言いながら参加。マンガに出て来るような骨付き肉にかぶりついた。

「おお~。にゃかにゃか美味しいにゃ~。これはどっちの肉にゃ?」
「まぁまぁ。こっちも食べて見たらわかるわよ」

 べティはまた骨付き肉を勧めて来たので、空いてる手に持ってかぶりつく。

「あ、こっちが紅蓮竜にゃろ?」
「せいか~い。美味しいっちゃ美味しいけど、やっぱ期待値が高過ぎてシラタマ君もいまいちだったみたいね」
「そうだにゃ~。これにゃら、白メガロドンのほうが美味しいにゃ~」

 わし達がドラゴン肉に酷評していると、サトミが口の中の物を飛ばしながら会話に入って来る。

「ドラゴンの中でも格別に美味しいのに何を言ってるのですか!」
「きちゃにゃいから飲み込んでから喋ってにゃ~」
「この芳醇な肉汁がわからないのですか!」
「わかるにゃ~。わかるけど、これ、食べてみてにゃ~」

 サトミには白メガロドンの肉に塩を振っただけの串焼きを食べさせてみたら……

「ナンバーワン」

 手のひら返し。バッチグーって褒めてくれた。そりゃ、わしが狩った中で一番大きな獲物、500メートルを超える千年物の白いサメに勝てるわけがない。
 勇者パーティとコリスも欲しがって来たので、皆に一本ずつプレゼント。

「すくないよ!」

 すると、何故かコリスがオコ。

「いっぱい食べるとドラゴンが入らなくなるにゃろ~?」
「あ、そうだね。ホロッホロッ」
「みんにゃの分も残しておいてにゃ~」

 コリスは納得してくれたが、凄い勢いで頬袋に詰め込むので、白メガロドンの串焼きを追加。これで皆がゆっくり食べれるようになったので、べティが作りしドラゴン料理を堪能するわし達であった。


 食事が終わると食休み。全員食べ過ぎたので横になって消化に努め、わしは牛になる。これは食べてすぐ寝ると牛になるということわざを言っただけで、猫のままだ。
 それからお昼寝していたら、ガヤガヤと聞こえて来たけど起きるつもりもなかったのだが、べティに叩き起こされたので話を聞く。

「ほら? レベルが80になったわよ。シラタマ君はいくつになったの~?」
「ゼロレベルにゃんだから上がるわけないにゃろ~」
「ノルンちゃんは73なんだよ~」

 どうやらサトミが冒険者ギルドからレベルアップ装置を借りて来ていたので、皆のレベルアップ処置をしていたから盛り上がっていたっぽい。
 そういえば紅蓮竜討伐は揉めに揉めたから、お金以外の処置は何もしていなかったので、ベティ&ノルンのレベルが再び爆上げしたのだろう。
 だから二人もわしをからかいに掛かっているのだろうけど、わしとコリスは上がるわけがないので塩対応だ。

「ハルト君達はどうにゃの?」
「みんなが倒してくれていたので、一匹も倒していない僕にも割り振られていました……」
「パーティなんにゃから気にするにゃよ~。てか、あいつら、わし達が手伝わにゃかったら一匹も倒せてないにゃよ?」
「「「「それ言う~~~??」」」」

 サトミ達がドヤ顔してハルトだけがへこんでいるので事実を言ったら、自信喪失。だったらドヤ顔するなよ……


 とりあえずサトミ達の立場を思い知らせたら、わしはハルトを連れて距離を取った。

「何をするのですか?」
「ちょっとハルト君の剣を見てあげるにゃ。その勇者の剣で、存分に打ち込んで来いにゃ~」
「危ないと思うのですが……いまの勇者の剣は、当たったら凄い威力ですよ?」
「当たればにゃろ? シルバースライムに当てることもできない剣が、わしにかするとでも思ってるにゃ??」
「うっ……」
「そんじゃあ、どこからでもかかってこいにゃ~」

 わしが白魔鉱の模擬刀を右手に握ってだらりと構えると、ハルトは勇者の剣を中段に構えてジリジリ前進。そして振りかぶった。

 カッカラン……

「なっ……」

 しかしハルトは剣を握っておらず。無手のまま振り下ろしてから、剣が無いことに気付く事態となった。

「にゃに馬鹿正直に真っ直ぐ向かって来てるんにゃ~。それに握りが甘いにゃ。剣に握り方から教えてもらえにゃ」
「い、いま、何をしたのですか?」
「さっさと剣を拾って来いにゃ!」
「は、はい!!」

 呆けているハルトを怒鳴り付けると、ハルトは走って勇者の剣を拾い、ブツブツ言いながら握りを確かめ、わしが声を掛けてからリスタート。
 今度はハルトはわしを中心に回るように右に移動していたので、わしはそのまま動くことをせずにその時を待つ。

 カッカラン……

「な、なんで……」

 またしても、ハルトは勇者の剣を手放してエアースイング。わしがいつの間にか振り返っていることにも不思議に思っている。

「気を抜いてるから、わしがちょっと払っただけでスッポ抜けるんにゃ」
「気を抜いてる以前に、僕にはシラタマさんが何をしているのかがさっぱりわからないんですが……」
「ま、そうだろうにゃ。じゃあ、王女様に聞いて来たらいいにゃ~」

 わしの剣は侍の剣。相手が攻撃しようと決意した時にはすでに動き出し、それどころか攻撃が完了しているのだから、やられた本人にはわしが消える攻撃を仕掛けたとしか思えない。
 外野からならばわしの動きがハッキリ見えるのだが、外野も何故ハルトが簡単に剣を手放しているのかがわかっていない。そんな人からわし達の動きを聞いてもハルトは信じられないらしく、首を傾げながら戻って来た。

「にゃはは。鳩が豆鉄砲でも食らったようにゃ顔をしてるにゃ~」
「はい……僕が見えていないモノが皆には見えているなんて……」
「それじゃあ、わしの実力の証明は終わったし、授業の開始と行くにゃ~」
「は、はい! よろしくお願いします!!」

 こうしてわしは、ハルトをフルボッコにして、勇者の剣の実力を引き出すのであった……
しおりを挟む

処理中です...